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先の予定なんてないほうが旅も、仕事も、そして人生も面白い(無料記事)

 何も決まっていない事は不安である。

 先が見通しが立たないということは、かつては生存の危機を意味した。狩猟採取の時代には、人は食糧を探し続けなければならなかった。農耕という技術を手にしたことで人類は爆発的に増殖した。見通しの立たないことへの不安は、DNAに刻まれた”危機の記憶”ゆえなのかもしれない。

 現代においても多忙であることで安心感を得る人は多い。昭和でいえば、手帳にびっしり予定が書いてある、令和でいえばGoogleカレンダーがテトリスみたいになっていることが、自己有用感につながる。巷に溢れかえるビジネス本を見ても、スケジュールを決め、滞りなく進むよう工程管理をし、予定通りに仕事を遂行することが是である、と書いてある。

 しかし、 本当にそうなんだろうか。

 自動車を製造したり、パンを焼いたり、と言う経済活動では、確かにスケジュールは必要だ。気まぐれに車を作って大量の余剰がでてしまったり、逆にパンが買えるかどうかわからないパン屋なんてイヤだろう。

 しかし僕自身は、「予定通り」には懐疑的である。

 もっといえば、「面白い」と「予定調和」は、常に正反対の場所にある。

 何度もリハーサルを重ねて、失敗のないテレビ番組なんて面白くない。どうやったら予定調和を壊すことができるか、その試行錯誤が面白いを生み出すのだ。ドラマだって予定調和な展開だと演ずる側も見る側も、うんざりしてしまうだろう。

 旅行だってそうだ。

 先日、出張のついでに、ふらりと鹿児島にいった。それまで鬼のように忙しかったせいもあり、ガイドマップも買ってないし、予備情報もほとんど仕入れていなかった。なにもすることがなければ、溜まっていた仕事でもしようかと思っていた。

 しかし予定がないことが結果、面白いことを次々と引き寄せた。

 ホテルから桜島が見えたので、軽い気持ちでフェリーに乗ったら、福島の知人にばったり出会ったり、ふらっと入ったカフェで備前焼職人である義理の兄の作品が売られていたり、居酒屋の板前さんにジモティが愛するラーメン屋さんを教えてもらったり、20年近く前にお世話になったご家族に再会したり、と盛りだくさんの旅になった。

高校生の頃、焼き餅を片手に持久走で島を一周したという桜島の男性。
桜島フェリー内のうどんやさん「やぶ金」。地元のソウルフードらしい
天文館近くの「ラーメン専門ふくまん」のラーメン大盛り。大根の漬物がついてくる
天文館でみつけた面白い建築
三野さん家族。わざわざ都城市から鹿児島空港まで会いにきてくれた

 ガイドブックを手に予定を立てることは悪いことではないけれど、あまりにギチギチにしてしまうと「偶然」が入り込む余地をなくしてしまう。予定に追われることで、観光地でセルフィー撮ることに終始してしまう。その結果、目の前に面白いことがあっても素通りしてしまう。

 To Do リストを消すように旅なんて面白いはずがない。

 目の前の「今」と全力で向き合うことがなによりも大切なのだ。見知らぬ場所だからこそ、アンテナをたて、その時にしか出会えない”何か”を引き寄せる。

 日常が予定調和に埋もれてしまうと、人は別の場所に刺激を求める。Switchでモンハンをするのも、映画の主人公に自分を投影してドキドキするのも、バックパックを背負って旅に出るのも、予期せぬ何かを手に入れて、アドレナリンを出したいが為だからだ。

 そう考えると、仕事も人生も、もっともっと面白くできるヒントがぼんやりと見えてくる。安定とリスクの、その間に答えがあるはずだ。

 まずは、書を捨て、街にでることから始めてみてはどうだろう。いつもと違う道を通るだけで、何かが変わるかもしれない。


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