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プロであるということ。(無料記事)

 先日、ジャーナリストの長野智子さんの番組「テレビなラジオ」に呼んでいただいた。Audeeで配信されている音声コンテンツだ。

 過去には、元日本テレビの土屋敏男さん、吉川圭三さん、そしてNHKの後輩である神原一光さんなどがゲストとして出演している。

 収録は金曜の夕方。その日は都内を仕事で転々としており、移動時間に、土屋敏男さんの回を聞いた。いい具合に力の抜けたトークが心地よい。番組の冒頭、ゲストの土屋さんが開口一番「これもう本番なんですよね?」とつぶやいているのが印象的だった。ああ、軽い雑談ぐらいで本番に突入するパターンのやつだな、と諒解した。その雑談のなかで、なんらかの方向ぐらいは掴んでからの本番なんだろうなぁと。

 ラジオってそういう軽快さが魅力だよね、自分は鈴木おさむさんのラジオにも、何回も出演してるし、ぶっつけ本番上等じゃん、ぐらいにタカを括っていた。しかしその見立ては甘かった。

 夕方、収録が行われる麹町のTokyo FMへ。

  スタッフとの軽い打ち合わせがあるのかと思いきや、いきなりブースに通される。そこには長野さんご本人がいた。彼女とは全くの初対面。正直、虚をつかれた。
 ドギマギしていると、「いきなりですいません、写真撮影させてください。そちらの壁の前で立って撮りましょう」と長野さん。
 ボクだって、それなりの大人なんだから写真撮影ぐらいどうぞどうぞ、という態度を見せながらも、実は長野さんのお隣に立ちながら、緊張で顔がひきつっているのではと、内心は穏やかではない。
 「今度は、マイクの前に座った状態で、もう一枚撮りましょう」
 促されて、長野さんの対面に座る。ひきつらないように顔面に全集中。

 「実は、この収録の前に木村拓哉さんがここにいらしたのよ。だからなんかいい匂いするでしょ」と長野さんはにこやかに話しかけてくれる。
 
 ここまで体感で3分ぐらいだ。

 気がつくと、いつのまにかディレクターはいなくなり、ブースにはふたりだけになっていた。イヤな予感がした。

 「それでは本番まいりますー」とディレクターが軽やかな声がヘッドフォンから聞こえてきた。マジか、このまま始まるのか。いやいくらなんでも、、、と思っていると、長野さんはオープニング音楽にのせて、冒頭のナレーションを語り始める。

 本番突入。

 これ、もう本番なんですよね、こうつぶやくのが精一杯。ああ、土屋さんもこの渦に巻き込まれたのだなぁと、脳のすみっこで考える。

 長野さんはニコニコしながら直球で質問を投げてくる。そのすべては鋭角で何をこちらが話せばいいのか、ハッキリとわかる。飼い主に少し離れたところにボールを放られたワンコのように、そのボールを全力で取りに行く。するとまたポーンと次のボールが放たれる。その繰り返し。
 終始にこやかで、ゆるゆるとね、みたいな雰囲気で、そのトークは笑いがおきるような楽しいものだった。しかしそのひとつひとつの質問の太刀筋には、凄みすらある。

 インタビュー上級者であれば、少し長めの雑談をすることで、相手との間合いを測ってから、立ち会いを始める。しかし長野さんにはそんな予備動作はない。まるで剣豪と立ち合いのようだ。

 途中から、ひとつのことに気付いた。

 長野さんは、”見えない構成”を持っているのだ。

 明らかにいくつかの筋立てを想定している。リサーチもしっかりした上でだ。ぼくの火事のnoteを読み、ネットにある記事を読み、SNSも覗き、ぼくのことをしっかりとグリップしている。しかもその”見えない構成”は、トークの流れに乗りながら、あくまで自然に常に可変しつづける。

 収録が終わった時の、ぼくの体感は20分ぐらい。実際には1時間以上がすぎていた。ランニングをしたあとのような心地よい疲れすらあった。

 長野さんは、ぼくが高校生だった頃から、バラエティで活躍し、その後はニュース番組のアンカーマンを務め、国際的なジャーナリストとして、ずっと第一線で闘いつづけてきた。そのジェットコースターのような収録を終え感じたのは、プロの凄みだった。

 収録後、写真を撮らせてほしいと申し出た。

 写っているのは、ぼくがテレビで見続けてきた、あの長野智子だった。

 長野さん、今度はあなたの流儀をお聞きしたいです。

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