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新しいバッグを買うのに気後れすること。

 火事にあった人の話を聞くことを続けています。多くの人たちの大変な経験をアーカイブし、使ってもらえるようにしたいと思っています。火事についての情報は、本当に少ないです。でももし火事になったときに知っていれば、役に立つことは沢山あります。今回はメンタルのお話をします。

 先日出会ったある若いご夫婦が、こんな話をしてくれました。少しずつ日常を取り戻してはいますが、まだ仮住まいをしていて、燃えた家の再建中。そんな生活のなかで、ある思いを抱えて続けているといいます。

「新しいバッグを買うにも気後れします。火事にあったのに贅沢してるって思われるんじゃないか、って考えてしまうんです」

 これは火事に限らず、被災をした人の多くが抱く思いです。たいへんなことが起き、そこから立ち上がるために多くの助けをうけることになります。そのなかで次第に、ある種の「やましさ」を抱くようになります。

 外食をしちゃいけない、新しい服を買っちゃいけない、旅行にいっちゃいけない。人から助けてもらっているのだから、慎ましくなければいけない。

 こうした考えに囚われてしまうと、心がちぢこまってしまいがちです。そうなると立ち直るまでにはかえって時間がかかります。

 被災をすることで人は少なからず傷ついています。そのなかで生活を再建するには、いつも以上にエネルギーが必要です。そのためにも、外食にいって美味しいものを食べたり、新しい服を買って気分を上げたり、旅行にいって未知のなにかに触れたりして、自分を元気にする必要があるのです。贅沢をしろというのではありません。ふつうであればよいのです。支援をする人たちだって、笑顔になってほしいと思っているはずです。

 ぼくは火事にあったその日に、FUKKO DESIGNを一緒にやっている木村さんから「これから支援をうけるなかで、なるべく切り詰めてって考えがちですが、時には外食をしてください。そうしないと心が塞ぎがちですから」とアドバイスをもらいました。他にも何人かの人から言葉をかけてもらいました。おかげで心を切り替えることができました。でもふっとそんな気持ちに囚われることがあります。そのときは木村さんの言葉を思い出して、肩の力を抜くことにしています。

 ここからは火事にあった人のために書きますね。

 あなたがもし火事にあったら、思う存分、人から助けられてください。でもだからといって「可哀想な人」である必要はありません。あなたがふたたび立ちあがることができた時に、今度はあなたが助ける側にまわればいいのです。そして痛みを知っているあなたは、きっと最強の”助ける人”になれるでしょう。だから今はその善意に甘えてください。もしそのことであなたを誹る人がいたら、その人とはおつきあいしなくてもいいのです。

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河瀬大作
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