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有名写真家の作品を一気に鑑賞できる展覧会「写真をめぐる100年のものがたり」(静岡)
静岡市美術館で開かれている写真展「写真をめぐる100年のものがたり」を見ました。歴史的に有名な写真家の作品が勢ぞろいした贅沢な内容です。いろいろ見られてお得!って感じなんですが、けっこう骨太な内容でもあります。写真の持つ力について考えさせられました。2024年11月17日(日)まで開かれています。
展示されているのはアルフレッド・スティーグリッツやアンリ・カルティエ=ブレッソン、木村伊兵衛、東松照明、ロバート・キャパ、ウォーカー・エヴァンズ、ユージン・スミス、トーマス・ルフ、杉本博司といった時代も作風もさまざまな写真家たちの作品です。この100年の写真の歴史を振り返ることができます。
とにかく今まで写真集でしか見たことがなかった名作のプリントがたくさん見られたのがうれしかったです。
たとえばスティーグリッツの「ターミナル」(1892年)。雪の中に立つ馬たちから湯気が上がってる写真ですね。これ好きなんですよねえ。馬車を挽くために上気してるのかな。寒い冬の雰囲気がいいですね。
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今回の展示は一部を除いて撮影禁止なので鑑賞に集中します。ウジェーヌ・アジェの「マネキン」も良かったです。アジェはパリの街並みを淡々と撮った人で、「芸術」というよりは「記録」のつもりで撮影していたそうです。でも「マネキン」という写真はショーウィンドーの中でマネキンたちが踊っているように見えて楽しい。ガラスへの映り込みも美しいです。
ブレッソンが1949年に北京で撮った「国民党最後の日々」も好きな写真です。しゃがみ込んでガツガツ食事しているおじさんと、なんだか寂しげな表情のおじさんが写っている写真です。四角い写真の中に四角い窓枠という別のフレームが含まれています。さらに建具や影の幾何学的な模様も効果的。さすが、構図が凝りに凝っている。
木村伊兵衛が秋田県で撮った「冬の渡し場」もありました。雪が積もった雄物川の川岸の風景です。向こう岸からやってくる小さな渡し船を待つ子供たちの後ろ姿が影法師のようで印象的です。写真集で何度も見た作品ですが、大きなプリントで見られるのは展覧会ならではの楽しみです。
それから、ピーター・ヘンリー・エマーソンの写真。
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1886年の作品なんですが、すごく美しい。写真の画質って19世紀とか20世紀前半の時点でもうじゅうぶん良かったんだなと思いました。
アンセル・アダムスの「鏡の池」(1925年)も、ゾッとするぐらい精細な画質。100年前でここまで撮れるんだと驚きました。
普段はスマホやタブレット、パソコンの画面で写真を見ることが多いわけですが、やはり大きめのプリントで見るのはいいですね。目にやさしいし。
そうそう大きい作品といえば、こんなものもありました。
![](https://assets.st-note.com/img/1731236122-YxsiDneCdbhLIBMG7N6JcVXP.jpg?width=1200)
左はトーマス・ルフが撮った大きな証明写真のような写真。右はトーマス・シュトゥルートの「ルーブル美術館」。作品の中に作品があるという入れ子構造ですね。向かい側には、やなぎみわの「案内嬢の部屋」もありました。案内嬢たちの赤い制服が印象的なシリーズです。この展示室は最後の方の現代写真の紹介部分です。全体を通してモノクロ写真が多めの展覧会なのですが、カラーにもカラーの表現の豊かさがあるなと感じました。
さてこの展覧会、社会の中で写真がどんな役割を担ったかも考えさせる構成になっています。
たとえば水俣病を取り上げた写真集でも有名なユージン・スミスの「カントリー・ドクター」(1948年)というシリーズ。米コロラド州の田舎町に赴いた医師に密着して撮影した作品群です。雨の中の往診、娘の治療を心配そうに見守る家族、治療にあたる医師の真摯な表情、瀕死の病人、疲れ切った表情で司祭に電話する医師…。田舎の医療環境の悪さと、医師の苦闘の様子が、見るものの胸に迫ります。とてもドラマチックな写真。ちょっとうるっときました。医療環境の改善を訴える写真として『ライフ』誌に掲載されたそうです。ジャーナリズムの中で写真が大きな役割を持つことがわかります。
そしてこの「カントリー・ドクター」の向かい側の展示に目を移すと、「ザ・ファミリー・オブ・マン」(人間家族)という、ニューヨーク近代美術館(MoMa)で1955年に開催された写真展のことが紹介されています。人類はひとつの家族であるという大きなテーマのもと、世界中の写真を集めて展示したそうです。日本を含む世界各国にも巡回し900万人を動員したという大掛かりなもの。まだ第2次大戦の記憶も鮮明なころですから、平和を希求する人々の琴線に触れるものだったのでしょう。静岡でもまさにこの静岡市美術館のある場所で開かれたそうです。
ところがこの「ザ・ファミリー・オブ・マン」は、米国流のヒューマニズムを世界に広める宣伝活動として、米当局が関与して行った写真展だったそうです。つまり写真が特定のイデオロギーのプロパガンダに利用されたということなんですね。つい先ほどユージン・スミスの写真でうるうるしたばかりだったので、写真が持つ力の危うさにハッと驚かされました。なかなか考えられた展示構成だと思います。このあたりの問題については、今回の写真展の図録にも寄稿している今橋映子氏が『フォト・リテラシー 報道写真と読む倫理』(中公新書)という著書で論じているので興味のある方はご一読を。
ところで今回の展覧会で展示された写真は、京都国立近代美術館のコレクションが中心になっているそうです。国立施設が所蔵する作品を地方でも見られるようにする取り組みの一環として、静岡で開いたそうです。東京から日帰りで行きましたが、静岡駅直結のビルの中にある美術館なのでとても便利でした。
そうそう、図録もおすすめです。展示された写真のほとんどが載っています。残念ながら「国民党最後の日々」はなかったけど。説明も充実。写真史を学びたい人は1冊持っていて損はなさそうです。
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図録の表紙はエドワード・ウェストンの写真です。