3回目
今日はサーフィン3回目。
お天気良好。雲一つない青い空。
風もなく、冷えそうにないからよかったよかったと思っていたら、小笠原諸島に台風が接近しているらしい。前の日の予約の電話で
「明日はサーフィンできますか?」
「できる、できるよ!」
と言われすっかり安心しきっていたから、天気予報も見ていなかった。
うーむ、自己管理が甘い。反省。
私は海に入ると体がすぐに冷えるたちだ。日常でも手先足先が冷えやすい。海水浴に行って勢いよく飛び出したはいいけれど、1時間もすればやがて唇は紫になり、歯はカタカタとなり始める。そうなるともう戻れない。冷えが冷えを呼び、体がどこかへすーっと離れていくような感覚になる。楽しそうな人を横目に、トボトボと岸に上がるしかないのだけれど、小刻みに震える体をなんとか歩かせながら岸にあがるのは、決まって物悲しい。もっと目一杯遊びたいのにと思う。
もれなくサーフショップでも「寒い人」として認識されるようになった。
「ここ数週間続けて通っている者です〜」
「ああ〜、あの寒い人だよね?」
「はい…」
というわけで、今回は初めて厚い生地のウェアをあてがってもらった。
ウキウキと着てみると、き…きつい…パッツンパッツンである。着るのに一働きした感があったほどだ。なんとか体を入れ終わると、ジッパーに紐がついていない。どうするの(??)と指で押し上げてみても上がらない。仕方なくそのまま出て行き、おじさんに背中を見せながら聞いた。
「どうやって閉めるんですか?」
「あ!紐がついてないのか!」
ちょっと待ってろと言い、どこかから紐を取って来て取りつけてくれた。
「よくトラブルがあるな、あんた」
「紐は私のせいじゃないもん〜」
「そうだな、そうだな、ははははは」
本音を言えば、私は海が怖い。とても怖いと思っている。幼い頃から。泳ぎが下手というせいもあるけれど、波や水の威力に本能的に心の底からゾッとする。大好きな海も、川も、とても美しく、容赦なく、とても怖い。
「トラブル」という言葉で心に緊張が走った。今日私は、無事でショップに戻ってくるだろうか? 足がすくんだ。けれどその恐怖を海に連れていくわけにはいかない。それじゃあんまりだ。私が可哀想だ。楽しみにいそいそとやって来たのに。大丈夫、と自分の心に声をかけた。さぁ出発だ。と思ったら、おじさんがオレンジ色の柑橘を4つ私に手渡してくれた。
「いただきものだよ。うまくないけど、まずくもないから!」
さぁ、出発。
一発目。きゃー!ざぶーん
二発目。うっっ…ざぶーん
「どーしたー!今日は体が重そうだぞー!」
そう。始めたばかりなのに、体が立たない。落ち着きなく慌ただしい。落ち着きがない時、大体私は痛い目にあう。嫌だ。落ち着こう。最初に教えてもらった通り、「イチ、二、、サン!」わ〜本日の初乗りです〜〜〜。ざぶーん。
今日は、台風接近で波が大きい。上手な人には嬉しいそうだ。私は困る。いつも困るのだけど、岸から沖になかなか戻れない。打ち寄せる波のやり過ごし方が今一つわからない。慣れた人を見ると、ボードに乗ってふわんと過ぎているだけ。私はいちいち波の煽りをもろに受けてしまう。ボードを上に向けても、強い波にその後持っていかれてしまう。そうか、やっぱりボードに乗った方がいいのねと思い、真似して乗ってみる。ザザザーー!!と後ろ向きのまま岸にすごい勢いで向かって行く。超怖い。ええ〜ん。
波打ち際で格闘すると体力消耗が著しい。波が穏やかな合間を見て、いそいそと走って戻る(パドリング放棄)
今日のテーマは横乗りを意識する、だった。軸足の爪先に少し重心を置く。ブレイクの三角形を見る。ふむふむ。あれね!あの波ね!
行くどー!うわー立った!わわ!な、なんとか立ってる!前に進んでる!え、軸足?うわ!前にぶっ倒れる!どうしよう!どこ!?どこで降りたらいいのーー!
えい!と前に飛んだつもりだった、けど、板が回転し垂直に立った板の上にもろ落ちてしまった。しまった。と思ったけどもう遅い。やばい、骨にいったかもしれない… 恐る恐る肋をさする。痛い。痛いよぅ。でもなんとか立ってるし歩いてる。大丈夫そうだ。ほっとして少し待って、鼻汁を垂らしながらおじさんの元へ戻った。
「なぁにキョロキョロして、どこ見てんだ!挙動不審だぞぉ!」
ガーーーーーーーン!挙動不審な寒い人…。
波の引きと寄せる力。引きをパドリングでプラマイ0にして寄せる波に乗っていく。のだそうだ。沖から波が来るのは少し見えるようになった。何がなんだか見分けはつかないけれど。
「見えたか!?」
「はいっっ!!」
「いけいけー!!もっと漕げ!漕げ!漕げー!」
あぁ、、腕が…もげる… 疲れて、腕が、足が、立たない。。うわーガボガボ。
あぁまた、立てなかった。
パドリングしながら戻る時、私はいつも自分がウミガメになった気になる。
厚い板から出た腕を伸ばして、パタンパタンと泳いで戻る。そしていつでも思う。なぜ、ウミガメはあんなに流麗に泳げるのだろう、と。
「おらー!もっとしっかりこげー!」
あうあ〜
そしてやっぱり寒い。手と足の先端が痺れてきた。でもいつもよりはまだ大丈夫。震えてはいない。ただこうなると足が言うことを(より一層)聞いてくれなくなり、ボードの上に立つのが困難になってくる。しょっちゅうひっくり返るから、どんどん消耗していく。やっと立って、乗って、浅瀬でひっくり返る。今回は波に揉まれて体がくるくる回転もした。ひえ〜と思って波から顔を出すと、目の前を、ボードに乗ったおじさんが滑って向かってきた。
(おじさんが乗ってる!(怖い!ひかれる!))
と思ったけど、おじさんは颯爽とスライドしていった。行く先一点を強く見つめていた。
そうか。行く先を明確に見つめて、目指すんだわ…!ざぶーん!わーゴボゴボ…
今日もスクールでご一緒さんがいた。少し年輩のご夫婦で、旦那さんの方は少し乗り慣れていた。浅瀬で奥さんとおしゃべりする時もあった。
「体力が… 体力が…」
「でも、いいですね、旦那さんが上手だから…」
と言った瞬間、波に煽られた。揉まれた次の瞬間、右顎に強烈なパンチを喰らった。ボードに殴られたのだ。幸いにも今まで殴られたことがなかったから、顎がどうかなったかと、泣きそうになった。ひ、、ひどい。。ひどいよ。。
恨めしい気持ちをボードに訴えながら、紐を手繰り寄せた。
「ご覧、お前と私は繋がっているんだよ? 同志なのに。ひどいよ、殴るなんて」
痛い…ひどい…怖い…
沖を眺める。誰も私のことなんて気にしていない。ボードに殴られたのに。さっきはあばらもえぐられたのに。。
でもずっと思ってたけど、一緒にやってる奥さんには、随分楽しげに教えているよね? わあわあと楽しそうに大きな声で指導して、乗った後も、転んだ後も、大声でアドバイスしてる。でも私は放ったらかし。振り返っても、こっち見てくれてなんかいない。ぐすん。
奥さんが大きな声で明るくよくしゃべる人だから楽しいのかな? 私はどちらかと言えば口が動かない。心の声はよくしゃべるけど、口は連動しない。奥さんみたいな人の方が、やっぱり一緒にやってて楽しいよね。。ぐすん。ぶすん。
心がひねくれてきた。
ちょっと、海原を見る。
あぁ。でも、違うよね?
もしそうだとしても、そんなこと、どうでもいいじゃないか?
私は評価してほしいんだな。見てるよーって評価をほしがってるんだな。
違う。評価なんかどうでもいい。私は自分がやりたいからやっている。そう、ただ、それだけよね? 評価してもらうために、やってるわけじゃない。
それに、おじさんはちゃんと私にずっとアドバイスをくれているよ!
おー危なかった。心の落とし穴にはまるところだった。よかった。穴にかけた片足を、私はちゃんと自分で引き抜くことができた。
さぁ晴れ晴れと気持ちを切り替えて(顎は痛いが)行くべし、行くべし!
手招きするおじさんの元へちゃぷちゃぷと戻る。するとおじさんが言った。
「大丈夫。力があるよ」
「立ってしまえばすーっと行くんだから。力があるよ」
沖の波を見ながら、おじさんがそう言った。
この人は、いつも力強い。存在が力強い。見据える目が力強い。周りにいる誰にでも的確な言葉をかける。大らかにけれど力強くサーファー達の背中をグッと押す。だからか、気づくといつもおじさんの周りに人がいる。(怖い、ひかれる…)だから私も、運動なんてロクにしたこともなく臆病や恐怖とちちくり合いながらも、寒くても、つい、毎週毎週寒さます海に通ってしまうのだ。
そんな人に言われたその言葉は、私の心をぎゅっと掴み、強くした。
もちろん、その直後は立てた。
そんな風に3回目を終え、やっぱりガタガタ震えながら帰った。
けれど初めて2時間海の中にいた。やっぱりウェアの威力はすごい。
それでも歩きながら、実は倒れそうだった。呼吸が浅く、ふらつく。なんでだろう?もっと休んでから歩き出せばよかったのだろうか。
なんとか帰り、熱いシャワーを浴びる時の至福といったらない。涙ちょちょぎれる喜び、、がしかし、パッツンウェアが脱げない。踵が出せない。シャワーが切れる。寒い。もう一度シャワーを出して、なんとか引っ張り出した。
今日は痛い目にもあったしやっぱりよれよれだったけれど、無事に戻ってきた。
股関節に痛みがあったけれど、今日は今までで一番体が軽い帰り道だった。というよりサーフィンの前後の体のコンディションの差が今までで一番大きかったのかもしれない。今週は心の浮き沈みが激しかった。一つ一つに激しく反応し揺り戻しも大きく、消耗した週だった。そのせいか、先週サーフィンしたことが随分前のような気がしたし、何より、1週間でこんなに体って鈍るんだ…と、歩きながら独り驚愕した。
行く先を強く見据えること、明確にすること、自分の心が悩みや黒い渦に襲われたらそれは本当は自分が望んでいるものを知るためのコントラストだと知ること、そんなことをこれからの週は心の肥やしにして、体も鈍らないように過ごそうと思ったへなちょこサーフィンだったとさ。
(おまけ)
サーフィンするともれなく付いてくるもの。
「食べる必要性を著しく感じなくなる」
「何かやりたい、作りたい」
今週は、キムチの素を取り寄せたので、早速白菜を調達に。
白菜に塩を振る準備をしながらようやく、厚切りのハムと薄切りのパンを少し頬張った。
明日には美味しい浅漬けキムチができている、はず:)
体がゆらゆら揺れる〜まだ波の間に間に〜(@▽@)
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