新しい「本」の売れ方・買われ方
常識を変える、新しい「本」の売り方
ここのところ、本屋さんに関する記事が続いています。
お客さんが売る側に回る本屋さんや、本の在庫確認や予約、取り置きが複数の本屋できるアプリなど、本屋さんを取り巻く環境は厳しい状況ですが、新しい取り組みが意欲的に行われています。
そんな本屋さんの取り組みにアンテナを張っていたら、面白い取り組みがありました。
それは、神田の書泉グランデで行われている、書店員(という個人)が起点となって絶版書籍を復刊する取り組みです。
40年前に出版され、長らく絶版だった書籍『中世への旅 騎士と城』(H.プレティヒャ・著/平尾浩三・訳 株式会社白水社刊 初版1982年)が、ひとりの書店員の推しで復刊され、最終的に2万部が売れました。
ひとりの店員が40年前の絶版本を復刊させるだけで凄いことです。2万部が売れるまでには、紆余曲折がありました。
まず、神田にある書泉グランデの店員大内さんが、これは売れる!と日頃の売り場、お客さまとのやりとりから感触を得て、出版社に掛け合った所、答えは「NO」だったそうです。
理由は簡単で、もし売れなかったら出版社は不良在庫を抱えてしまうからです。そこで、大内さんは、300冊を買い取るという条件を社内調整を経て、出版社に示し、最初の再販に成功します。
さらに、甲冑(写真にチラッと写っていますね)を着て店頭(路上)に立つなど、身体を張った販売促進を行います。
こうした熱意ある活動は、書泉グランデのSNSで発信されていたのですが、それを作家の方が応援して拡散することで認知が一気に広まります。(このあたりの経緯はこちらのtogetterにまとめられています。)
個人の熱意 × コミュニティ× SNS
その結果、最終的に一冊2000円の人文書が2万冊以上売れることになりました。
本屋さん、出版社の常識からは考えられない売れ方です。
『中世への旅 騎士と城』を皮切りに続編である、『中世への旅:都市と庶民』、『中世への旅:農民戦争と傭兵』の復刊も決定しました。
当初、出版社は40年前の本であり情報も最新ではないから、出版を渋っていたとのことですが、大内さんは「ドラクエやファンタジー作品に馴染んだお客様にとって、これは売れる本!」と考えたそうです。
熱意のある書店員さんとお客様のコミュニティによって、
出版社→取次→書店→書店員→売り場→お客様という商流とは異なる、
書店員→出版社→売り場→お客様という流れを実現しました。
下記はプレスリリースからの抜粋です。
この成功をもとに、書泉グランデでは、「書泉と、10冊」という形で、新たに絶版書籍の復刻を行うことになりました。(次はバスの書籍が復刊されます。リリースはこちらから。)
旧くから、キュレーション力のある書店は各地にあり、目利きの書店員やオーナーが独自色あふれる売り場をつくっていたのですが、全ての本が何百、何千冊と売れる訳ではないので、廃業が続いていました。(たとえば、名古屋の正文館は有名だったのですが、諸事情で2023年6月30日に閉店)
そうした中で、SNS活用も含め、多くの注目と販売数を見込めるこの取り組みは、新しく、書店の可能性を創るものと言えます。
売り場の個人から(もっと売れるべき商品)を発案することは書店以外の業態できるかなと考えると「買うこと」「売ること」の可能性はもっと拡がると思います。