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日本の成人力調査結果に見る未来の課題と可能性

 日本がOECDの国際成人力調査で「状況の変化に応じた問題解決能力」でフィンランドと並んで世界トップに立ち、「読解力」や「数的思考力」でも高い順位を維持したことは、日本の教育システムと社会的背景の成功を如実に示しています。しかし、その輝かしい結果の裏側には、重要な課題も浮き彫りになっています。

出典元:文部科学省・国立教育政策研究所

世界トップレベルの成果とその背景

 日本の「状況の変化に応じた問題解決能力」が1位となった背景には、学校教育の質の高さと、幅広い知識を基礎にした論理的思考力の育成があります。また、16歳から24歳の若い世代の数的思考力が1位だったことも、次世代に向けた大きな希望を感じさせます。教育の質の高さが、日本人全体の基礎能力を底上げしていることは間違いありません。

出典元:文部科学省・国立教育政策研究所

 一方で、調査結果は教育の成功だけではなく、日本特有の社会的特徴をも映し出しています。読解力や数的思考力の下位層の割合が最も低いことは、学びの機会が比較的均等に与えられていることを示しています。日本の社会全体が、個人の基礎能力を高い水準に保つことに注力してきた結果といえるでしょう。

出典元:文部科学省・国立教育政策研究所

浮き彫りになった課題:スキルと仕事のミスマッチ

 一方で、日本ではスキルと仕事のミスマッチが他国に比べて顕著であることが課題として浮上しています。例えば、自分のスキルが仕事に必要なレベルに達していないと感じる人の割合(約29%)がOECD平均(10%)の約3倍に上ることや、現在の仕事に対して必要以上の学歴や資格を持っている人(オーバークオリフィケーション)が多いことなどが挙げられます。

この問題の背景には、以下のような要因が考えられます:

  • ITスキル不足: 調査では、42%の人がITスキルを向上させる必要があると回答しています。デジタル化が進む現代社会において、これは解決すべき急務です。

  • ジョブローテーション文化: 日本の企業文化では、特定の専門分野に特化するよりも、幅広い業務経験を重視するジョブローテーションが一般的です。これにより、専門スキルが活用されない場面が多くなっています。

  • 学歴偏重主義: 学歴が重要視される一方で、その内容や実際のスキルが労働市場で十分に評価されていない現状があります。


リスキリングとアップスキリングの必要性

 OECD教育・スキル局長が指摘したように、日本では働く人が新しいスキルを身につける「リスキリング」や、既存のスキルを向上させる「アップスキリング」への投資が不可欠です。具体的には、以下の取り組みが求められます:

  1. リカレント教育の普及: 社会人が学び直しやスキルアップを図れる仕組みを整えること。

  2. スキルベースの評価制度の導入: 学歴や年齢ではなく、実際の能力に基づいた賃金制度や採用基準を設ける。

  3. ITスキル向上プログラムの推進: ITスキルを強化するための教育プログラムを全国的に展開する。


日本の未来への提言

 日本の教育システムが世界トップレベルであることは疑いの余地がありません。しかし、労働市場と教育とのギャップを埋めることが、今後の日本の成長にとって重要な鍵となります。スキルに基づく評価制度の整備や、リスキリングへの投資を進めることで、個人の能力を最大限に発揮できる社会を実現することが求められます。

 また、スキルのミスマッチを解消することは、単に労働生産性を向上させるだけでなく、働く人々の幸福感(QOL)や社会全体のウェルビーイングを高めることにもつながります。


 日本が持つ基礎力をさらに活かし、時代の変化に対応するための柔軟な制度改革を進めることが、持続可能な未来を築く鍵となるでしょう。今回の調査結果は、課題を示すと同時に、希望の兆しをも含んでいます。それをどう活かすかは、これからの日本社会にかかっています。

※参考:生涯学習政策研究部(国立教育政策研究所)

https://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/div03-shogai-piaac-pamph.html

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