カリグラファーへの道
確か私が小学6年生か中学1年生の時に、何故か親にねだってレタリングの本を買ってもらった。
字が綺麗などと言われた事は無く、習字などは論外だった少年がレタリングの本を片手に、特にアルファベット中心にノートに書いていた情景を今思うと、その頃からちょっと変わり者だった事がうかがえる。
その本は、その後もずーっと側にあって時折パラパラめくって楽しんでいたので、今も本棚にあるはずである。
時は流れて1980年代前半、私は小さな会社でコンピューターシステム・エンジニアとして働いていた。当時のコンピューターは未だ8ビット・マシンで、モニターディスプレイはグリーンのドットで味気ない文字らしきものを映し出していた。
ちょうどその頃に登場したマッキントッシュ・コンピューターは、画面こそ小さかったが、それ迄に見たこともない美しい文字が表示されていた。
すっかり魅了された私は直ぐにでも購入したかったが、サラリーマンが簡単に手が出せる金額ではなかった。
アップル・コンピューターのスティーブ・ジョブズは2011年10月に56歳の若さでこの世を去ってしまったが、その後彼にまつわる映画が複数上映され、その中で彼が学生時代にカリグラフィーを学んでいた事が紹介されていた。
スティーブ・ジョブズがカリグラフィーを学んでいなかったら、マッキントッシュのあの美しいフォントは生まれてなかったかもしれないという一文は、少年時代にレタリングに胸躍らせた男の心に響いたのだった。
カリグラフィーという物について少し調べてはみたが、何やら奇妙な形をしたペンを使って、まるで魔法の様にスラスラと美しい文字を並べていく動画などを見た瞬間に「オレには縁の無い世界やなぁ〜」などと思い、日常の思考回路からは遠くへと仕舞い込まれてしまっていた。
ところがスティーブ・ジョブズ没後10年目の今年、年に一度訪れるかどうかの高山市に立ち寄った際、1時間程の時間潰しが必要となり、ふと目について入った真新しい文具屋さんで、カートリッジ式の万年筆タイプのカリグラフィー・ペンなるものを発見して、迷わず購入して帰り、すっかりカリグラフィーの虜となってしまったのである。
前置きが長くなってしまったが、昔のレタリング少年が今やシニアの仲間入りを果たし、今更ながらカリグラフィーの世界に足を踏み入れる様をnoteに綴って行こうと思っています。
どうぞ、よろしくお願いします。