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映画「非常宣言」考察<自衛隊機は脅威となる旅客機を撃墜できるのか?>

 https://klockworx-asia.com/hijyosengen/

 旅客機で起こるバイオテロによる感染の恐怖で生じるドラマが描かれている韓国映画「非常宣言」
 この作中ではバイオテロで感染が広がるKI501便が、アメリカから引き返す途中で日本の成田空港へ着陸を求める場面があります。
 KI501便では機長が感染して亡くなり、副機長(キム・ナムギル演じるヒョンス)が操縦するものの、感染していていつまで操縦できるか分からない。
 操縦経験がある乗客(イ・ビョンホン演じるジェイ)が控えているものの、パイロットを辞める事故の影響からメンタルに問題があった。
 だから副機長はまだ自分の意識がある内に成田で着陸しようとしたと言う場面になります。
 しかし、日本政府は国内での感染拡大を恐れて成田着陸を拒否する。
 拒否の態度を示す為に航空自衛隊のF-2戦闘機がKI501便へ近づき警告します。
 KI501便はなんとしても成田空港に着陸を強行しようとします。
 しかし、F-2はKI501便に威嚇射撃をしたり針路を妨害しようと前に出たりとします。しかしKI501便は着陸しようと成田空港の滑走路へと突っ切る。
 F-2は成田空港の上空でKI501便と正面衝突するような動きをしてまで着陸を阻もうとします。
 主人公の邪魔をする敵役とはいえ、飛び回り体当たりの覚悟まで見せるF-2の姿はミリオタの自分としては大活躍に見えて良かったですね。
 映画の中ではテロ発生から1日以上過ぎた頃に成田着陸騒動が起きている。政府が自衛隊に撃墜まで許可するのが異様に早い感じはします。(だからフィクションなのである)
 今回は果たして映画「非常宣言」のような状況が起きたら政府や自衛隊は撃墜ができるのか?を考察します。


領空侵犯措置か?


スクランブル発進の指令を受けて駆けるパイロット(防衛省サイト内令和3年版防衛白書より)


 日本の領空に近づく不明な機体に対応する為に航空自衛隊の戦闘機が出動する。これはスクランブルである聞かれた方も居るでしょう。
 難しい正式な言い方では「領空侵犯処置」である。
 この手順は
 レーダーで不明機など領空に近づくのを探知
 不明機に近い基地から戦闘機が出動
 戦闘機が不明機に無線で領空侵犯をしている事、領空から出る事を伝える
 これで従い、不明機が引き返すのであれば良いのですが、不明機が従わない場合は戦闘機が不明機の前へ出て針路を塞ぐように動いたり、警告射撃を行い従わせます。
 自衛隊機の警告射撃は1987年(昭和62年)に沖縄の領空を侵犯したソ連軍偵察機に対して行われただけだ。

 また領空侵犯措置では不明機を拘束する意味で着陸をさせる事もできます。これは自衛隊では行われた事はありません。
 映画「非常宣言」は成田空港へ近づくKI501便は不明機と定義するには難しい。成田へ向かう前に非常宣言を出して優先的な着陸が出来るように手が打たれています。
 KI501便で起きている事は世界中で知られていて、成田への着陸もコントロールができなくなりつつあると言う人道上の問題です。
 領空侵犯措置の根拠となる自衛隊法第84条では
 「防衛大臣は外国の航空機が国際法規又は航空法その他の法令の規定に違反して我が国の領空の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又は我が国の領空から退去せしめるための必要な措置を講じさせることができる」
 とある。この航空法は国内法で第9章「危害行為の防止」が映画「非常宣言」の日本政府内で適用の可能性があります。
 航空法第9章は航空機や空港施設・乗客・職員などの安全を脅かす危害行為を防止する根拠となる法の条項です。
 成田空港から拒否されても着陸をしようとするKI501便にこの法が適用されての自衛隊機出動をなった可能性があります。
 

自衛隊機は旅客機を撃墜できるか?



 映画「非常宣言」では、威嚇射撃を行いぶつかってでも止めようとするなど強硬的な態度に出る自衛隊
 おそらく撃墜の許可が出ていたと思われます。
 しかし、領空侵犯措置の根拠となる自衛隊法第84条は対象となる航空機を着陸させるか、領空から追い出すの2つしか定められていない。
 撃墜が出来る法的根拠が無いのだ。
 この旅客機撃墜に悩んだ時期が自衛隊にはありました。
 それが2001年のアメリカ同時多発テロ直後の時です。
 テロリストがハイジャックした旅客機が世界貿易センタービルと国防総省へ激突したこの事件は世界に衝撃を与えました。
 自衛隊や政府など国家安全保障を担う人達は同じ航空テロが日本で起きたら防げるのか?と言う衝撃をもたらした。
 現実は自衛隊にその心配をより大きくさせた。
 911事件の報復としてアフガニスタンへの作戦に出動する米海軍の空母「キティホーク」の出港を海上自衛隊の護衛艦が護衛した時だった。
 まだ米艦防護などの集団安全保障が法改正で認められる前であったので「警戒・監視」に海自の護衛艦が出動したと言うのが政府の公式な声明だった。
 だが実質、護衛する海自は「キティホーク」を標的にテロが起きるのではないかと警戒心を高めていた。

https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/pneAjJR3gn/bp/pLq6QXoy3e/

 NHKの番組「NHKスペシャル平成のスクープドキュメント第7回自衛隊変貌の30年~幹部たちの告白~」(2022年4月4日放送)で自衛艦隊司令官を勤め、2001年当時は海上幕僚監部防衛部長であった香田洋二氏が番組で語るところでは

 「撃墜するかしないか、ということしかないわけで、そこまでは考えました。しかし、そのあと、最後その場にならないと分からない、できない。どっちに重きを置いたかと言われれば、それはあります。しかしそれは、日本人の乗客の命を犠牲にして、アメリカを助けて日米体制を守ったと、これもつらいです。おそらく日本国が国際政治上は理解されても人道上、大きな負荷なんですね。そこについて、事前に決心ができるほど私は強くありませんでした。」
(NHKスペシャルのまとめ記事より抜粋)

 ハイジャックされた旅客機を乗客ごと撃墜する法的根拠はなく、それでも同盟国アメリカからの求めに応じる政治的な必要性
 曖昧なまま政治からの注文に応じていたのが当時の海自の状況と言えるでしょう。
 現代でもテロが起きた航空機を乗客ごと撃墜できると定めた法律は日本には無い。
 映画「非常宣言」のような状況が起きた時に、法的に基づかない武力行使となる撃墜を決断できるのは、自衛隊の最高司令官であり日本国の代表である総理大臣になるでしょう。
 この記事を書いている時に米軍の戦闘機が偵察目的と思われる中国の気球を撃墜したと言うニュースが出ました。
 この気球撃墜はバイデン大統領が決断し、米軍が実行しています。
 明確な敵では無いものの、米国内を偵察するような怪しい動きをしている疑いから、撃墜へと至りました。
 戦争など軍事的な攻撃では無いが、国の脅威となる。それが気球が撃墜された理由です。
 映画「非常宣言」のKI501便も軍事的な攻撃ではないが、感染拡大による国家の危機を招くと日本政府が判断したと考えられる。
 もしも旅客機を脅威として撃墜せねばならぬ場合、法的な根拠は一応は定めるものの、根拠付けには薄い事から総理大臣をはじめ当時の政府が決断をすると言う形で実行されると考えられる。  
 こうした政治の決断で自衛隊が動ける訳ですが、先の香田氏の語りにあるように自衛隊側にとっては大きなプレッシャーが降りかかる事に変わりはない。

参考資料
自衛隊法 - e-Gov法令検索
航空法 - e-Gov法令検索
対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件」 | 乗りものニュース
平成史スクープドキュメント 第7回 自衛隊 変貌の30年 ...

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