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自分の弱さを語れる強さと、その弱さを受け止めてくれる相手の優しさ。

NEC未来創造会議で構想した実現したい未来社会像である「意志共鳴型社会」
近視眼的な効率重視の判断で様々な「分断」が顕在化している現代社会。その顕著な例の一つが数値評価。グルメや物販サイトでは5点満点での画一的な評価軸で判断されてしまい、低評価のモノやサービスは選択肢に入らない。モノやサービスだけでなく、ソーシャルメディアで洪水のように流れてくる情報も同様。一部分だけの情報に脊髄反射してしまい、その背景にある文脈(コンテキスト)を理解する余白もない。インクルージョン&ダイバシティと謳いながらも個性が打ち砕かれている現代社会。その原因の一つであるインターネット。世界中の人々をつなげたインターネットの恩恵はあるものの、その限界も訪れている。意志共鳴する社会の実現には情報でなく、体験でつながるネットワーク(エクスペリエンスネット)が必要と考え、大阪大学の内藤智之先生、三浦麻子先生、千葉泉先生と検討を進めてきました。


『“研究者失格”のわたしが阪大でいっちゃんおもろい教授になるまで』(著:千葉泉さん)

大阪大学 千葉泉先生の著書『“研究者失格”のわたしが阪大でいっちゃんおもろい教授になるまで』。意志共鳴するには相互理解・相互信頼が不可欠。千葉先生は大学の授業で「語り合い」を実践し、お互いの弱さを語り合うことで相互理解・相互信頼ある関係性を育んでいます。2020年にNEC未来創造プロジェクトメンバーも語り合いを体験しました。

ラテンアメリカの地域研究を経て千葉氏は、歌や語り合いなど教科書的・データ的ではない学びの実践を通じて、自分らしさや他者との関係の構築について研究している。事前に本プロジェクトメンバーを交えて行なわれた体験授業でも、ふだん千葉氏が授業で行なっているように、お互いが自身のネガティブな経験や痛みについて語り合うことで人の共通性と多様性を知る体験を生み出したという。「理論的な説明だけでなく、実体験することで実感とともに学ぶことが重要なんです。学生ともフラットに語り合える場をつくることで、他者の経験や思いを追体験できるし、強い信頼感を生み出せることがわかりました」と千葉氏が語るように、先立って行なわれ体験授業はプロジェクトメンバーにも大きな影響を及ぼした。

深いコミュニケーションは、科学技術だけでは実現できない

お互いの弱さを語り合うに至るまでの千葉泉先生の半生を綴ったのが『“研究者失格”のわたしが阪大でいっちゃんおもろい教授になるまで』。

読み終えて、いや、読みながら涙が溢れる一冊でした。語り合いには、自分の弱さを語れる強さと、その弱さを受け止めてくれる相手の優しさが必要。そこにあるのは相互理解・相互信頼を前提とした寛容な社会の縮図でした。

エリートな家庭で生まれ育った千葉先生は敷かれたレールを生き続けなければならないという義務感に悩み続けたそうです。千葉先生が素直に表出させる「しんどさ」。無自覚な押し付けで生じるしんどさ。しんどさを解消するには好きなことに没頭すること、弱さを語り合うこと。一人で解決するのもしんどいから、語り合いながら解消できる相手がいることを尊いと感じます。

強がって自分の思いとは異なる人生を強がりながら歩んでいた時のしんどさ。それを放棄して、自分の弱さに向き合いながら自分のやりたいことを見つけられた幸せ。千葉先生は自分に「弱い私よ、ありがとう」と語ったそうです。弱いからこそ、発見できた本当の自分らしさ。

弱さに向き合った“後”は上述した自己肯定感がありますが、弱っている“最中”は本当に苦しいとも語っています。

自分が弱っている時には絶望や悲しみ、後悔、不安、怒り、やるせなさ、憎しみ、自己否定など、さまざまなネガティブな感情が複雑に絡み合った塊ができる。

“研究者失格”のわたしが阪大でいっちゃんおもろい教授になるまで

僕も塊を抱えることがあります。塊がある日々は本当にしんどいです…。

お互いの弱さを語り合うこと。
自分と相手は違うという前提の中、相手の話を聞いて理解・共感できなくても、自分のコンテクストに嵌め込んで否定(拒絶)するのではなく、その人の気持ちに浸からせてあげる。受け入れる必要はない。受け止めればいい。

そして、一人で抱えないこと。ネガティブな感情を語るとポジティブな感情が心に湧いてくることがある。ネガティブな感情を抑圧せずに素直に外に出して向き合うことで、その感情と一時的に折り合いが付いて少し前向きになれるはず。

虚勢の強さや、脊髄反射で相手を否定(拒絶)しがちな情報に溢れる現代社会。お互いに弱さを語り合うことで意志共鳴できる寛容な社会を目指していきたいと再認識できた一冊でした。ありがとうございます。

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