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なぜ、いつも人が足りないのか


多くの会社に共通する悩み

新しい技術の開発、社会情勢の変化、競合企業の動きなど、企業が直面する環境は日々変化し続けています。そのような様々な要素が複雑に交錯し、経営判断に影響を及ぼすため、企業が抱える問題はまさに多種多様で、最も重要な経営課題が何かということは一概には言えません。

それでも、企業の規模や業界にかかわらず、経営者やミドルマネジメントが共通して挙げる経営課題が1つあります。それは「人手が足りない」という悩みです。

私は20年以上前から企業へのコンサルティングを行ってきましたが、その間、多くの企業で「人がいなくて新事業が生み出せない」「もっと人がいれば改革が早く進むのに」といった声を耳にしてきました。AIや先端デジタル技術が省力化をもたらす現在でも、ますます「デジタル化を担える人材の不足」を深刻な問題として挙げるケースが増えています。まさに人手不足が事業展開の最大の障害となっているような状況です。

確かに、多くの企業において、事業の成長と共に組織が拡大すると、定型的な日常業務は増加し、非定型的なプロジェクト活動が増えがちです。そのため、自然と各種活動をリードする人材や現場作業を担当する人員が不足する傾向にあります。

多くの企業は中途採用を活発化させたり、外部コンサルタントを活用したりして人手不足を解消しようとしますが、それでも人手不足の状態が続く場合があります。そしてこのような「人手不足」が慢性化すると、組織全体が疲弊していきます。最悪の場合、突如として重要な社員が次々と退職し始め、新規事業の継続はもちろん、既存事業の存続までもが危ぶまれることすらあるのです。


本当に人が足りないのか?

ここで、問題が単純な人手不足であれば、中途採用をしたり、コンサルタントを雇ったりすることで増員すれば、解決に至るはずです。しかしながら、そういった打ち手を進めても、すぐに再び人手不足に陥ってしまうケースが非常に多いのです。これは一体なぜでしょうか?

実は、この「人手不足」問題を根本解決するために必要なことは、「どうやって人手不足を補うか」ということではなく、「本当に単純な人手不足が問題の要因なのか」という問いなのです。

私は、大企業向けのコンサルティングを行う傍らで、スタートアップ企業の支援を行うこともあります。そして大企業とスタートアップの両者を見比べると気づくことは、スタートアップの多くでは、大企業と比べると少ない人数で、製品開発からマーケティング、販売、顧客サポートに至るまでの業務全体をこなしているということです。

もちろん、スタートアップでも人手不足が経営課題であることは多く、本来ならもっと人材採用をしたいけどできていないだけ、という場合もあります。しかし現実的には採用する資金力がなかったり、知名度がなくて良い人材がなかなか集まらなかったりするため、結果的に少人数で業務を回していることが多いのです。

ここで興味深いのは、スタートアップの社員が大企業の社員よりも必ずしも優秀で、何倍も意欲的に働いているとは限らないということです。むしろ、大企業の方が優秀な人材が多数集まりやすいですし、大量の業務に追われる日々を過ごしている人も少なくありません。

では、少数で業務をこなしているスタートアップと、人員は多いのに業務に追われる大企業、この違いは一体どこから生じているのでしょうか。実際になぜ「大企業では人手が足りない」のでしょうか?

例えば、新たなデジタル事業を立ち上げる場合、スタートアップであれば、限られた資金や時間の中で行動を選択し、やるべきことを絞り込みます。色々とやりたくても、絞り込むしかないわけです。しかし、大企業の場合、資金や工数、時間に余裕があることが多いため、どの取り組みが本当に重要で、逆にどの取り組みは後回しにすべきかという見極めが疎かになりがちなのです。その結果、大企業では業務が多く残り、慢性的な人手不足になってしまうのです。つまり、多くの大企業では「人手が足りない」という問題の前に、「業務が多すぎる」という問題があることが多いのです。

人手不足の原因は「戦略不在で打ち手がテンコ盛り」であることが多い

業務が多すぎる原因

それでは、「業務が多すぎる」という状況が一体どのような要因で生じているのでしょうか。

新規事業の企画や既存事業の変革に取り組むと、社内外から様々な意見やアイデアが飛び交います。技術的制約や市場のニーズ、新しいビジネスモデル等、これら全てが何らかのタスクとして積み上げられていきます。

スタートアップであれば、創業者の明確なビジョンや少数精鋭の経営判断により、多くのタスクを見極め、必要なものだけに絞り込むのが普通です。しかし大企業では、複数の関係者が存在することも多く、判断基準があいまいになり、タスクの絞り込みが難しくなりがちなのです。特に、何か実現したいことがあるわけではなく、競合への対抗策として始められた取り組みの場合などはその傾向が顕著です。

さらに、大企業は大きな組織であるが故に部門間の調整や取引先との配慮など、さまざまな要素が絡み合う中で、「出来るだけ多くの要望に対応しよう」という考え方に陥りがちです。こういった社内外とのネットワークを重視する姿勢は、普段は大企業の強みに繋がりますが、一方で業務が増大する要因ともなっているのです。

つまり、業務が多すぎるという状況は、良く言えば社内外から出される様々な意見やアイデアをできる限り取り込もうとした結果であり、言い換えると、十分に絞り込めていないことが主な原因となっているのです。


アジャイルの誤用

日本企業は、概して「実行重視」という文化を持ち、現場で試行錯誤しながら問題解決を進める「ボトムアップ」のアプローチを好みます。これは柔軟なオペレーションと問題発生時の素早い対応を可能にし、長い期間にわたって日本企業の強みの源泉となってきました。

また、最近では「アジャイル」の考え方が広まり、多くの企業がこれを取り入れ始めています。しかし、アジャイルの考え方が誤解され、単に「考える前に実行する」や「やりながら考える」というだけの、言うならば「戦略不在」のアプローチに置き換わってしまい、結果として取り組むべきことを絞り込めない状態に陥ってしまうこともあるのです。

このことは、「実行重視のスタンス」や「アジャイルなアプローチ」が問題だと言っているわけではありません。しかし、これらの考え方やアプローチが適切に機能しない場合、方針のない「戦略不在」の状態に陥ってしまうことには注意が必要です。


事業運営を円滑にする戦略

では、「人手不足」問題を解消し、事業運営をスムーズに進めるためには、どのようにすればよいのでしょうか。

重要なポイントは、戦略と実行のバランスを維持することです。「実行重視」や「やりながら考える」は効果的なアプローチではありますが、それだけを意識していると、容易に「戦略不在」の状態に陥ります。そこで、戦略の策定とその運用について定期的に議論し、全体の方向性を確認する時間を作ることが重要になります。

具体的には、事業戦略について、適切なチームメンバーを選定し、討議を継続的に行う場を設けることから始めましょう。定期的な戦略会議の設定も大切ですが、それ以上に、日常的に気軽な議論ができるオンラインチャットグループを設定し、チームメンバーが、会議の頻度に縛られずに常に戦略を考え、議論や意見交換を行う場と文化を作ることが有効です。

さらに、どのテーマを戦略として取り上げ、何を決定するかを見極めること、そして戦略に沿った優先度の高い業務とそうでない業務を識別し、重要な業務に焦点を当てて進めることも重要です。これにより、無駄な業務を排除し、重要な業務に集中できます。


結論 ー 戦略レベルで方向性を絞る

以上のように、大企業の「人手不足」の問題の一因は、戦略が適切に定められていないことによって、業務のテンコ盛り状態になっていることであり、逆に明確な戦略方針を設定し、組織の方向性を絞り込み、戦略に基づいて業務を進めることができれば、「人手不足」の問題は解消される可能性があります。

これは、「上流(=戦略レベル)で方向性を絞ることができれば、圧倒的に楽になる」という意味です。このためには、適切なチームを選定し、定期的な戦略議論を行うことが不可欠です。

あなたの会社でも本記事に記したような問題が存在しているかもしれません。是非、一度自社の業務を再評価し、本当に必要な仕事は何か、そしてそれをどのように遂行すべきかについて再考してみてください。

結論:"上流(=戦略レベル)で方向性を絞る"



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