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Katsurao AIR アーティストインタビュー vol.7 喜多村徹雄さん(後編)

アーティストが葛尾村に滞在してリサーチや制作を行うアーティスト・イン・レジデンス・プログラム「Katsurao AIR(カツラオエアー)」。2023年度に滞在したアーティストのうち4名は、葛尾村をテーマにした作品を制作するリターンアーティストとして、2024年度も継続して活動しています。

前回に引き続き、リターンアーティスト 喜多村徹雄さんのインタビューをお届けします。(聞き手:Katsurao Collective 阪本健吾)

——昨年度、葛尾村で活動されてみていかがでしたか?

1か月間だけの滞在だったので、ほんとうに深いところまで入り込めたとは思っていないんです。なので、よそから来て勝手に思った、くらいのことなんですが……。

地元の方々、つまり避難から戻ってこられた方々と、外から来た移住者の方々とのあいだに、どれくらい交流があるんだろう、と思ったんです。交わらなくても生活ができるんだったら、無理して交わる必要はない。その一方で、もし、交わるきっかけがないだけだとしたら、と考えたんです。

——私(阪本)自身は移住者ですが、帰還されて暮らしているみなさんとの交流がないわけではありません。一方で、完全に混ざり合っている状態でもないと感じています。
ところで、滞在中のどのような場面でそのことに思い至ったのでしょうか。

アーティストが制作拠点としているスタジオは、葛尾中学校(休校中校舎)の3階にあります。実際に、ぼく自身がアーティストとして葛尾村にやってきて、3階のスタジオに籠っているだけじゃ、地域の方と交わることはできないんですよね。

——短期移住者として葛尾村に滞在した際の、ご自身の実感が元になっているんですね。

はい。そんなことを考えていたときに、昭和30~40年頃の葛尾村の様子を鳥観図と図解で描いた 福島アトラス04 にヒントを見出しました。何かというと、当時の家には「エノマエ的空間」というものがあったそうなんです。「家の前」だから「エノマエ」。

葛尾村は谷あいに集落がありますよね。街道に近い、低い土地には、田畑のための空間「ノラ」があり、その上に、作業場や分家、自給用の畑などがある「エノマエ的空間」。そのさらに上の日当たりのよい場所に、本家、つまり「イエ」がある。

イスナデザインWebより引用。「エノマエ的空間」は右下C3の図を参照のこと

葛尾村に限らず、昔の日本家屋には、土間や縁側といった、中なんだけれども外でもあるような、訪れた人とのコミュニケーションが生まれる空間がありました。「エノマエ的空間」もそれに近い性質だったのではないかと思うんです。家の前を通った道すがら、顔を出したら向こうの顔も見えて、お互い「どうも」って声を掛け合うことができるような。

であれば、アーティストの滞在拠点となっている今の葛尾中学校にも、校舎前の木と木の間にテーブルをかけることで、作業したり集まったりすることができる「エノマエ的空間」をつくりたいと思ったんです。そうやって、コミュニケーションのきっかけとなりうる場のしつらえを考えたのが、昨年度制作した《ピクニックのためのあれこれ》です。

《ピクニックのためのあれこれ》

——作品のテキストには「小さな小さな公共」と書いていただいていましたね。

よそ者からしたら地元の人は異質な他者ですし、地元の人にとってのよそ者もそうですよね。でも、互いに言葉を交わせば、想像していたのとは違って感じるかもしれない。誰かと誰かが出会って、言葉を交わせば、そこには公共が生まれると思っています。

——「公共」という言葉には、いろいろな意味がありますよね。

一般的に公共論は、個を出さずに人と接するのが公共だという考え方と、個の存在の集合こそが公共であるという考え方に大別されるんですよね。日本的な公共は、どちらかというと前者の話になることが多いように思います。

——「公共の場所なんだからやめなさい」みたいな感じでしょうか。

はい。一方で、ヨーロッパ的な公共は、個人が自由に振る舞える場所が公共であるという考え方なんですね。

ぼく自身の立場としてはこちらに近くて、公共とは「自分が自分として存在していい場所」であると考えています。なので、元々住んでおられる方も、新しく移住した方も、ぼくのように一時的な滞在をする人間も、自分が何者であるのかっていうのを開示しながら、その場で即興的に生まれていくような関係性とか、対話とか、お互いを思いやることとか、そういうことを「小さな小さな公共」って考えていいんじゃないかなと思っています。

——とても共感します。生きていると「こうふるまわねばならない」と思ってしまう場面もありますが、そもそも、人間がここにいて、生活をしていて、挨拶したり、言葉や表情を交換したりできるということって、当たり前ではないんですよね。
 最後に、今年度リターンアーティストとして取り組む内容についてお聞かせいただけますか。

さきほどお話した、葛尾中学校の校舎前の木と木の間にしつらえたテーブルは、その木の形に合わせて、一般的なテーブルよりも少し低い位置に設置しています。これがどうも、腰かけやすく見えるようで、ベンチと間違えられてしまう場面があるんです。

——私も、たまに間違えて座ろうとしている方を見て「それ、テーブルなんです!」ってお声掛けすることがあります(笑)

テーブルとして物が置けるようにつくったんですが、人の体重に耐えられるようにはしていないんです。これは困った、ということで、より皆さんが集いやすい場所になるように、このテーブルとセットで使えるような椅子を制作しようと考えています。

——校舎の前の光景がどんなふうに変わっていくのか、楽しみです。本日はありがとうございました!

アーティストインレジデンスプログラム「Katsurao AIR」

本インタビューの完全版を、各種リスニングサービス および note音声投稿にて配信中です。


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