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永井文仁×増田拓史 トークイベント「1# introduction」Report(後編)

アーティストが葛尾村に滞在してリサーチや制作を行うアーティスト・イン・レジデンス・プログラム「Katsurao AIR(カツラオエアー)」。2024年の滞在アーティストである永井文仁さん、増田拓史さんによるトークイベント「1# introduction」が、7月27日(土)に復興交流館あぜりあで行われました。

地域に長く通いながら制作を行うロングタームアーティストの御二方に、お互いのプロジェクトについてや、葛尾村の人々と交流して思うことなどについて、たっぷり語っていただきました。本稿では、前編に引き続き、その一部をレポートします。

葛尾村復興交流館あぜりあ内の一角でトークを収録

増田 永井さんは、葛尾村に関わって3年目になりますよね。ぼくの場合は震災後すぐに宮城県石巻市に引っ越していて、最初の5年間は特に、目まぐるしく道路や建物などの景色が変わっていくのを実感していました。永井さんからは、葛尾村の3年間はどんなふうにみえていますか。

永井 そういった派手な変化というよりは、空き家が埋まったとか、人が少し増えたとか、ゆるやかな変化を感じながら過ごしていました。このトーク会場である「復興交流館あぜりあ」もそうですが、大きい建物がどんどん建っていくような、目に見えてわかりやすい変化のバブルは終わりを迎えているように思います。これからは、いわば優しく、新しい葛尾らしさというものができてくるのではないかなと。

Katsurao Collectiveの記録として写真撮影をする際に、活動や作品だけではなく、季節ごとの村の風景を撮るということもしてきました。その中で、村にいるみなさんが持っていらっしゃるであろう感覚、つまり、この時期、この場所に、ふるさとを象徴するこんな景色がみえる、ということも少し掴めてきたように思います。

永井文仁さんが撮影した葛尾村の風景写真。アーティストの活動のようすだけではなく、
四季折々の葛尾村の風景も写真におさめてきた

永井 また、平穏に時間が流れていく中で、増田さんが作品で取り上げているような、風景をみるだけではわからない小さな変化が各地で起きているということも、3年間通って少しずつ感じているところです。

増田 なるほど。それで今回は、トラックで葛尾村にお越しですけれど……。

7月25~27日の活動報告会でのひとコマ。左が永井文仁さん

永井 見えないものを見るということを、制作のテーマにしています。具体的には、トラックを大きいカメラにして、中に自分が入り、光がイメージ(像)に変わるピンホールという現象を使って、どういうふうにそのイメージを手に取れるかということに取り組んでいます。

なぜこれを葛尾村でやっているのかというと、ここでものをつくる以上、目に見えない放射能の問題を避けては通れないと感じたからです。原発事故から13年、いろいろな人が考えてきたことだと思います。Katsurao Collectiveのアーティストたちも、それぞれが自分なりの解釈を発表してきた。私も、見えないものを現実に可視化するということをここでやってみたいと思ったんです。

増田 そのアプローチのしかたはすごく面白いですね。

永井 私は大学で教える仕事もしているのですが、写真の基本を教えるときに、暗室に穴をあけてみんなで見てみるという体験をするんです。作家としてその体験を扱うことに、興味はあったけれど、実際にはしばらくアプローチしてきませんでした。

そんな中、あるとき友人に誘われて、トラックの上にサウナをつくったんです。サウナって私はそんなに入ったことがなかったんですけど、フィンランドでは精神統一の場所として親しまれていて、そういったスピリチュアルな側面もあるじゃないですか。そのときに、これをカメラにしたらおもしろいんじゃないかなと思ったんです。カメラオブスキュラサウナ。イメージと身体が一緒にあるということを知覚することができるしくみです。もしかしたら、そこに何かがいるのかもしれない。

トラックの上にしつらえたカメラオブスキュラサウナ

増田 このやり方に近いことを、2017年にインスタレーション作品として発表したことがあります。宮城県の海を、屋内の会場に持ってくるというものです。30センチ角くらいの水槽の中に、実際の外の海の様子を映し込みました。外では津波の記憶と結びついて怖く感じてしまう海が、部屋の中で愛でる対象として成立するかどうか、ということがテーマでした。このときは鏡像ではなく正像でしたが。

増田拓史《みれなかったものがみれたとき》Reborn-Art Festival 2017 宮城 石巻

増田 今回の永井さんの作品も、外が曇ったら中のイメージも曇るわけで、実際に起きている現象が、そのまま事実として入ってくるわけですよね。デジタル処理も施していないし、プロジェクションでもない。でも、レンズを介することによって、ちょっと別な作用が加わるのかなと思います。事実を別のフォーマットに再編集していく技法として、すごくいいやり方ですよね。

永井 イメージを大きくしたり小さくしたりできるのが今の写真でありカメラですが、増田さんの作品との大きな違いとして、私は今回、等倍であることを大事にしています。そして、ひっくり返っちゃう、つまり鏡像なので、そこをどうするか、どう説得力を出すかというのも考えながらやっています。

増田 いやぁ、楽しみですね……!

トラック内の暗室で、活動報告会の来場者とコミュニケーションをとる永井文仁さん

増田 最後にひとつだけ話したいのですが、ぼく自身、2年間この地域に関わっていて、葛尾村は非常にポテンシャルの高い地域だと思っているんです。避難指示が解除されたといっても、「帰村しなさい」ではなく「帰村してもいいですよ」という状態なんですよね。だから、帰りたいという意思のある人が帰ってきている。ここにポイントがあるのではないかと思っています。この点に関して、永井さんが感じることってありますか。

永井 あまりネガティブなことを言う人が多くないですよね。私個人の感想なのですが、自分自身が生きるということを、すごく大切にしている人が多いような気がしています。地域としても、環境も静かで、規模感もちょうどよく、無駄がない。すごく心地のいい場所だと感じています。それに、ありのままの自然が近くにある。

増田 そういえばこのあいだ、村内でカモシカを見たんですよ。悠々と川沿いを歩いている姿をみて、ちょっと色々反省しましたね。

彼は多分、ここで何が起こったのかわかっていないでしょう。事故のあとに生まれたのかもしれない。でも動物としてちゃんと自分のやるべきことを着実にこなしていて、誰に言われたから何をやるとか、どうなりたいとかじゃなく、日々淡々と誠実に生きているんだなって。

そういう存在にも出会える環境がこの村にはある。すごくいい場所だと思います。

永井 出会えたってことは、共存できているってことですもんね。すばらしい。

増田 いろんなお話ができてよかったです。また話しましょう!

永井 ぜひ。今後ともよろしくお願いします!

本トークイベントの模様は、YouTubeおよび各種リスニングサービスでもお楽しみいただけます。


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