【かつらのお話:襟羽二重貼り・糊】
墨染した襟羽二重が乾いたら羽二重を適当な大きさに切り【モチノリ】を刷り込んでいきます。
こんにちは。京都時代劇かつらです。
今回は墨染した女形三ツ襟羽二重を地金に貼り付ける、【糊】のお話。
【糊】は【モチノリ】を使い、【モチノリ】とはお団子を作るときの白玉粉をついて作った天然の糊です。
お餅屋さんから仕入れている普通に食べる白玉粉です。
面白いことに、モチノリとして使用する時の白玉粉は、等級の良い物を使用すると糊としては具合が悪く、等級の低い白玉粉の方が上質のモチノリになります。
食べ物なのに接着剤として使うと聞くと不思議に思われる人もいらっしゃると思いますが、科学糊がたくさん売られている現代でも昔ながらの【モチノリ】が一番細工がしやすいのです。
また、【モチノリ】は水に浸ければ人毛や羽二重に負担をかけることなく糊が綺麗に落とせます。
ですから羽二重及び人毛が再利用できます。
歌舞伎の鬘は生え際も羽二重です。
羽二重に毛を通しているだけなので【モチノリ】で貼られた羽二重を剥がして水に浸け、糊を落とし毛を引くと、毛は綺麗に羽二重から抜けてくれます。
ですので
看板役者の鬘はサラ(新品)の毛。
千穐楽が過ぎれば鬘をバラして
毛を引いて中堅の役者の鬘に再利用。
その中堅の役者の鬘から次にその下の役者へと人毛は再利用されていくそうです。
羽二重を使い、【モチノリ】を使うことで人毛を大切に使い切ることができる、昔からの知恵ですね。
ところで、水に付けて綺麗に落とせる
【モチノリ】
便利なのですが、水には弱い。
ということは、
映画やテレビ時代劇でお馴染みの
立ち回りで堀割にドボンや
土砂降りの雨のシーンでの水濡れ等
は実は鬘には具合の悪いシーンなのです。
自頭でしたら、乾かしたらそれで終わりですが鬘ではそうはいきません。
テレビや映画の撮影では、まず、台本が出来上がったら役者だけでなくスタッフも台本をしっかり読み込みます。
シーンごとのト書きだけでなく、台詞もしっかり読みます。
ト書きにそのシーンの状況が書かれているだけでなく、台詞に一言そのシーンの重要な状況が書かれている場合もあるので、頭から終わりまで一通り目を通さなければならないのです。
そして、作品にハマりや雨など水濡れシーンがあれば水濡れ用に普段のシーンとまったく同じ【吹き替えの鬘】を作ります。
そうすることで鬘の傷みを最小限にできますし、鬘を掛け替えれば次のシーンの撮影にも影響しないように出来ます。
水濡れ以外にも
【笠下】【頭巾下】【鉢巻下】
なども吹き替えの鬘を作ります。
被り物は意外と髷や鬢髱の結いが崩れますし、鬘の生え際も被り物で擦れて傷めてしまうからです。
【黄門様】の旅拵えの【頭巾下】も、
【助さん格さん】の旅拵え喧嘩被りの
【手拭い下】も
【鬼平】の市中見廻りの【笠下】や捕物火事装束の【陣笠下】も
実はそれ用に鬘を替えています。
作品によっては、一人の役者さんに対して、普段用、水濡れ用、笠下用、乱れ用と、何面も同じものを用意します。
映画やテレビ時代劇のちょっとしたシーンでも、水に濡れたり被り物をしていたら、実は鬘は替えているんだなっと思って見ていただくのも面白いかもしれませんね。
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