5話:月の祈り
ぼくはナイン。
大好きなお嬢様と暮らして、もう何年になるのかな?
ぼくももう立派な大人になったんだ。
お嬢様は相変わらず、とっても素敵で、輝くようにまぶしい!
でも、最近、なんかお嬢様の様子が変なんだ。
時々、とても辛そうな顔をしてうずくまっている事がある。
ぼくはもう心配で心配で、そんなお嬢様の顔をのぞき込む。
「ナイン、心配してくれるの?ありがとう。でも、だいじょうぶよ。」
笑顔に戻ったお嬢様がぼくの頭をなでてくれると、ぼくは安心できる。
そんな事が何回かあって、ある日突然、バタバタとお父様やお母様や白い服の人がお嬢様の部屋に入っていくと、
ぼくはお嬢様の部屋に入れてもらえなくなった。
ぼくは急に不安になって、お嬢様の部屋の前で鳴き続けてしまった。
やがて部屋の扉が開いて皆が出て行った。
「ナイン、いるの?いたらこっちに来て。」
お嬢様がぼくを呼んでくれた。
急いでぼくはお嬢様のベッドに飛び乗った。
「ナイン、私、病気なんだって。もうあまり長くないみたい。」
お嬢様は元気のないか細い声で言った。
「え?なに?お嬢様、病気なの?治らないの??」
ぼくはますます不安になって鳴き続けた。
「ナイン、大好き。だから私の傍にいてね。私の傍から離れないでね。」
お嬢様の目に涙がたまっていた。
ぼくはいたたまれなくなって、お嬢様の目をなめた。
「お嬢様、泣かないで!弱気にならないで!ぼくが護ってあげるから!」
でも、どうすればいいんだろう?
猫のぼくに何ができるんだろう?
ぼくはお嬢様が寝静まった夜、窓に昇ってお月さまに祈った。
「お月さま!月の女神さま!どうかお願いします。お嬢様を助けて!
ぼくは人間になれなくてもいいから、お嬢様の身代わりにならせて下さい。」
何日か経って、お嬢様はだんだん元気を取り戻していった。
「良かった!月の女神さまは、ぼくの願いを聞いて下さったんだ。ありがとうございます。」
すると、気が抜けてしまったのか・・・
ぼくは急に目の前が暗くなって倒れてしまった。
「ナイン!ナイン!どうしたの?」
お嬢様の声が聞こえた気がした。
「ナイン、そう言えば、毎晩、私のベッドの横でお月様を見ていたね。
きっと、私の事をお月様に祈ってくれてたのね。
ナイン、私の身代わりになんてなっちゃダメだよ。
大好きだよ、ナイン!元気になって!!」
お嬢様の声が聴こえた。お嬢様の涙がぼくのほっぺたに落ちた。
その夜、月の女神さまが夢に現れて言ったんだ。
「おまえはまだ逝ってはいけないよ。お嬢様を護るんだろ?」
その女神さまの横にはお母さんが優しく微笑んでいた。
「そうか、お母さんは女神さまのお傍に行っちゃったんだね。」
次の日の朝、ぼくはすっかり気分が戻って起き上がった。
お嬢様は大粒の涙を流しながら、ぼくにほおずりをして、
「ナイン!良くなったのね!良かった!ありがとうね、ナイン、大好きよ!」
と何度も何度も言ってくれた。
女神さま、お母さん、ありがとう。
お嬢様、ありがとう。ぼくも大好きだよ!
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