6話:月の思い出
人に「人生」がある様に、ぼくたち猫にも「にゃん生」がある。
それを教えてくれたのは、この家の先輩猫のミーチェさん。
ミーチェさんはお嬢さまのお母様をお守りしている猫なんだよ。
お嬢さまにとってのぼくの様な存在だね。
ミーチェさんもぼくにはとっても優しくしてくれる。
でもね、ぼくがこの家に来た頃はちょっとこわい先輩だったんだ。
「ん?なんだいおまえは?」
初めて声をかけられたとき、ぼくは怖くてお嬢さまの腕の中にうずくまってしまった。
「こんなチビにお嬢ちゃんをお守りできるのかい?」
その頃の僕にはまだその意味がわからなかった。
いつもはお嬢さまのお部屋にお嬢さまと一緒にいるぼくだけど。
ごはんやおやつの時間にはお母様やミーチェさんと一緒のお部屋に行くんだ。
「おチビちゃん、ちょっと大きくなったね。そろそろ鍛えてやろうかね。」
お嬢さまのところに来て何か月か経った頃、ミーチェさんはぼくとよく遊んでくれるようになった。
でもそのうち、だんだんと遊びだけじゃなく、いろいろと厳しく教えてくれるようになった。
「いいかい?私たち猫には人間に見えないものが見えるだろ?」
そう言えば、時々、変な人やモノが見えてそれに向かって鳴いていると、
「どうしたのナイン?なにかいるの?」
ってお嬢さまに不思議がられる事がある。
あれって、お嬢さまには見えていないって事なのかな?
「そんなモノからご主人様をお守りするのも私たちのお役目、ご恩返しなんだよ。」
ふ~ん、そうなんだ。だったら、ぼくももっとたくましくなってお嬢さまをお守りしないと!
ある夜、屋根の上でミーチェさんは教えてくれた。
「ほら、あのお月さまを見てごらん。」
「お月さまには月の女神さまがいるって、お母さんが教えてくれたよ。」
「そう、そして月の女神さまは私たち猫の守り神だって事も教えてくれたろう?」
「うん。だから、昼間のお月さまが見えない時にはぼくたちの目の中にお月さまが映っているんだよね。」
「そうだよ。そしてそれが、月の女神さまにご主人様をお守りできる力を分けて頂いてるって事なんだよ。」
よーし、ぼくももっともっと強くなって、お嬢さまをお守りするぞ!ってぼくは思った。
本当は外は危ないから出てはいけないんだけど、その時だけはミーチェさんはぼくを屋根の上に連れて行ってくれた。
それから、ぼくはずっとこうしていつもお嬢さまと一緒にいて、お嬢さまをお守りしているんだ。
時々、お嬢さまやお母様はぼくたちを残してお出かけしてしまうけど、
お家にいる時は、片時も放さず、ぼくと一緒にいてくれる。
ぼくの「にゃん生」は、大好きなお嬢さまをお守りできるだけでとても幸せなんだよ。
そしてやがては、先に女神さまたちのところに行って、愛するご主人様をお出迎えするってお役目もあるんだって、先輩猫のミーチェさんはぼくに教えてくれた。
「だから、私たち猫の寿命は人間よりも短いんだよ。そうでないと愛するご主人様をお出迎えできないからね。」
でも、そんな時はもっともっと先だといいなぁ・・・