キャンプはSDGsの学びの宝庫!桂台学童保育ちびっこの家・2024サマーキャンプ
自然の中でのびのびと過ごせるキャンプは、便利さと引き換えに、たくさんの知恵と工夫で仲間と協力し合う大チャンス。桂台学童保育ちびっこの家の子どもたちが、この夏、相模原市のSDGsツーリズムを活用して、2泊3日のサマーキャンプをSDGsの学びの場にしました。電気や水が自由に使えず、冷蔵庫もないキャンプで、子どもたちは何をつかんだのでしょうか。
■SDGsと私たちの暮らし
スイッチを押せば照明がつく。暑ければエアコンをつけて心地よく過ごせる。好きな時に、食べたいものを食べ、食べきれなかったら残してごみ箱へ……。現代社会での私たちの生活は、とても便利で快適で、たくさんのモノに満ちあふれています。
それ自体は悪いことではないけれど、便利さと引き換えに、エアコンの室外機や車の排気ガス、工場の煙突から、どんどん温室効果ガスが排出され、夏の暑さは命の危険を感じるほどに。この夏、横浜では毎日のように熱中症危険情報が発表され、子どもたちは外遊びを自粛せざるを得ませんでした。日本で毎年捨てられる食べ物の量は、世界で食糧支援を必要とする量に匹敵します。普段の生活では目に見えず意識から外れるけれども、世界には児童労働などで教育の機会を得られず、日々食べるものに事欠く子どもたちもいます。
国連が2015年に発表したSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)は、世界のすべての人たちがこれからの未来も安心して暮らせるように、あらゆる形の貧困や不平等をなくし、気候変動に対処していくための行動宣言です。「環境」「社会」「経済」のバランスを大切にしながら、今すぐに大胆で変化をもたらす行動を起こすためにできることを、「17の目標」にまとめました。SDGsで大切なのは、「誰一人取り残さない」とうたっていることです。
今、この日本で、自由で平和を謳歌している子どもも、紛争や飢餓に苦しむ子どもも、本来はすべての子が等しく自分らしく安心して生きる権利がある。ふだん意識せずにいること、見えないことを学ぶのは難しいけれど、SDGsを切り口にすれば、日常生活と世界がつながるきっかけになります。
■桂台学童にとってのサマーキャンプ
桂台学童保育ちびっこの家(横浜市青葉区桂台)は横浜市の放課後児童クラブで、小学生たちが放課後の時間を過ごします。今では珍しくなった父母運営の学童で、普段の保育は専門の指導員が行い、保護者たちが学童の運営を担います。「子どもたちが放課後の時間をどう過ごすのか」「子どもの成長にとって大切なことは何か」を、父母たちと指導員が常に話し合い、一緒に学童をつくりあげているのが特徴です。
桂台学童では、1年間の教育プログラムの中でもサマーキャンプを重視しています。
キャンプは日常の安全で快適な環境から少し離れて、自然の中で仲間や父母と協力し合いながら、いつもと違ったことにチャレンジするチャンス。
低学年にとっては、包丁を手に持ってきゅうりや玉ねぎを切ったり、高学年になれば薪で火をおこして飯盒(はんぼう)でごはんを炊いたり。川遊びで魚を追いかけたり、キャンプファイヤーで火を囲んだり。保護者から離れて子どもだけで寝泊まりする経験は、子どもたちに自主性や自立心を育みます。
コロナ禍で中止や日帰り折衷案など、キャンプのあり方自体が議論されてきた5年のなかで、「相模原市にある青根キャンプ場で、2泊3日でキャンプをしたい」というのが指導員の願いでした。青根キャンプ場の敷地を流れる道志川で思い切り水遊びができること、河川敷でキャンプファイアーをして火の大切さを学べること、小さなバンガローがたくさんあって子どもたちだけで寝泊まりできることが大きな理由です。
その中で子どもたちが安全に過ごすためには、父母の協力が欠かせません。水遊びの際の見守りや補助、火おこしのサポート、体調不良者の救護、設営や重たい荷物の運搬など、何ヶ月もかけて指導員と一緒に準備を行い、「わが子以外」の子どもたちと一緒の班のメンバーとして、パートナーシップを持ってともにキャンプをつくり上げていきます。
昨年、青根キャンプ場近くにある「さがみこベリーガーデン」さんから、キャンプファイヤーに使う大量の薪を提供していただいた縁から、指導員が「自分たちの使う薪の出どころを子どもたちに知ってほしい」と希望。今年のキャンプにさがみこベリーガーデン訪問を組み込めないかを検討しました。そこで、相模原市SDGsツーリズム推進事業補助金があることを知り、ソーラーシェアリングや耕作放棄地対策として多様なSDGsの学びの場であり、相模原市のSDGs市長賞を受賞したさがみこベリーガーデンを訪問することで、学童キャンプ自体をSDGs教育プログラムにする企画を立ち上げました。
https://sdgs.city.sagamihara.kanagawa.jp/sdgs-tourism2024/
■子どもたちへのSDGs事前研修
SDGsといっても、小学生の子どもたちにとってはまだ耳慣れない言葉で、キャンプ前に「サマーキャンプでSDGsを体験し、日常生活とのつながりを考えよう」と、父母がレクチャーをすることにしました。
「4:質の高い教育をみんなに」
学童キャンプ自体に、SDGsを学べるヒントがたくさんあるよ!
学童キャンプ自体が教育キャンプ。SDGsの要素を入れることでより質の高い教育につながるよ。
「5:ジェンダー平等を実現しよう」
性別ではなく、それぞれの個性や得意を生かして、イキイキとキャンプを楽しむ
男の子は火の番、女の子は皿洗い、と性別で役割を分けず、その子の個性や、やりたい気持ちを尊重して、みんなが創造性を発揮できるように大人はサポートしよう。嫌なことは「NO」と言えることも大事だよ。
「6:安全な水とトイレを世界中に」
道志川の水は私たちの飲み水。キャンプ場の限られた環境で水を大切に使おう
青根キャンプ場では川に入るけれど、その水は横浜の私たちの家の水道から出てくる水と一緒。水を大事に使うことは、暮らしに直結するよ。洗い場やトイレなど、普段とは違うちょっと不便な環境から、水を大切に使うことを学ぼう。
「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」
さがみこベリーガーデンはソーラー発電でクリーンな電力をつくっているよ
私たちが普段使う電気やガスといったエネルギーは、これまで石油や石炭など、地球を熱くするガスを発生する原料からできていた。
太陽光や風力、そしてバイオマス(木)など、地球に負担をかけないエネルギーについて、ブルーベリーを食べながら学ぼう
「12:つくる責任 使う責任」
食べものを捨てるのは当たり前?フードロスしない食べ方をキャンプで考えよう
食べ物も、おやつも、「もっとほしい!」と「食べ切れるかな?」の両方を考えよう。日本人が捨てる食べ物の量は、世界で食糧支援を必要とする人の量とほぼ同じ。大切に食べてフードロスをなくそう。買い物も同じだよ。
「13:気候変動に具体的な対策を」
水や食べ物やエネルギーを大切に使うことは、私たちの未来につながるよ
今、毎日、めちゃくちゃ暑いよね。これからどんどん暑くなる。最高気温が40度を超す日も出てくる。その原因は、私たちの便利すぎる生活。たくさん使って捨てて、無駄を生み出してきたことが、暑い地球をつくってしまった。みんなで協力すれば、今ならまだ、間に合うかも?
こんなメッセージを込めて事前にレクチャーを行い、キャンプの時にも子どもたちに折にふれて「SDGsにつながるアクション」を伝えました。
■保護者の発案と協力でより豊かなSDGsアクションに
8月2日から4日までのサマーキャンプでは、父母たちが事前準備から当日運営に至るまで、さまざまなアイデアと工夫で、SDGsにつながる気づきを子どもたちにもたらしてくれました。
★食事づくりのSDGs
例えば、ごはんをつくる時。食べきれないほど大量につくるのではなく、食べ切れる量を考えてつくる。子どもたちにとりわける時にも「食べられる分だけとろうね」と声をかけました。これまで好き嫌いで食べられなかったものがあった子も、みんなに励まされながら食わず嫌いを克服。そのため、この3日間のキャンプで、食べ残しを大幅に減らすことができました。
実は、以前のキャンプでは、大量につくりすぎて食べきれないことも多く、つくったカレーを廃棄することも。材料調達の時点で、無駄にならないよう、担当の父母が注文量を細かく検討し、買いすぎないように調整ました。
子どもの調理では可食部の廃棄がたくさん出ます。それを捨てる前に集めて、野菜スープやきんぴらを作りました。きゅうりの一本漬けで出たきゅうりの皮のきんぴらを気に入ってくれた3年生が、「きゅうりのSDGs」とメニュー名をつくってくれました。
アルミホイルの巻きが悪く焦げてしまったカートンドッグ。普通はそのまま廃棄になるのだけど、ある母が「捨てるの待って!」と言ってごみ袋から集めて、「これは教材になるから」と指導員に伝えました。食後にこのドッグを手に取り、「この焦げたホットドッグは、きちんとアルミホイルを巻けば、捨てることなく食べられるはずだったよね。ていねいに作業をすることは、無駄を出さないことにつながるよ」と、指導員から話をすると、子どもたちは真剣な表情で頷いていました。
★気候変動対策と資源循環のSDGs
さがみこベリーガーデンは、子どもたちにとってわかりやすくSDGsが体現されている場だったようです。ソーラーパネルによってエネルギーを生み出すこと、ソーラーシェアリングによって日陰が生まれて農地が過ごしやすくなることを実感しました。
耕作放棄地を再生することで新しい経済が生まれることや、イノシシ、シカ、たぬき、鳥などの獣害が増えていることも知りました。
ブルーベリーの食べ比べは楽しかったようで、「この種類は酸っぱい」「これは甘くておいしい」「私はこの品種が好き」など、子どもたちはお気に入りを見つけたようです。
1日目の夜には、キャンプ場を巡っての「宝探し」を行いました。子どもたちはソーラーランタンを持って、自然のエネルギーで闇世を照らせることを実感しました。仲間と協力しながら謎解きをすること、夜まで子どもたちで一緒に過ごしてワクワクドキドキする特別の体験。イキイキとした表情を見ながら、2泊3日ならではのゆとりある時間が素敵だな、と思いました。
キャンプ中の3日間はひどく暑く、軽度の熱中症や体調不良者が続出したのですが、看護師の母たちがきめ細やかに獅子奮迅の働きをしてくれて、大事に至ることなく全員が無事に帰宅できました。気候危機の実感を子どもたち自身も感じていたのではないでしょうか。
毎日、水分補給のために、ペットボトルを大量に消費しました。「きれいにわけることで、リサイクルの成績がよくなるんだよ」と伝え、子どもたちにも協力してもらって、ボトル、キャップ、容器包装部分をていねいに分別しました。
★水や火といった資源を大切にするSDGs
横浜市は明治30年より道志川から取水を始めて以来、道志村を水源として大切にし、道志村の総面積の36%にあたる水源林を横浜市の水道局が保有しています。水源林の間伐や下草刈りなど、ていねいに山林の手入れを行うことで、水源の土壌が水を蓄え、洪水の緩和や水の浄化につながります。青根キャンプ場を流れる道志川は、横浜市の水源でもあります。
桂台学童の子どもたちが普段飲んでいる水は、道志川から青山沈殿池を経て、川井浄水場で水道水になり、青葉区や緑区、都筑区、港北区など横浜市内の31万戸に供給されているのです。
キャンプ前には、水道関係の仕事をしている父が、事前に子どもたちに水源と水道のつながりについてレクチャーしてくれました。子どもたちにとって「この川の水は、私たちの生活の水につながっているから、大切にしよう」という気持ちが芽生えたようです。
桂台学童にとって青根キャンプ場でのキャンプファイヤーは、単なるレクリエーションではなく、子どもにとって成長を記憶する大切な時間です。
6年生が毎年「火の神」になって、自分にとっての6年間の成長を、火とともに語ります。その脇を支えたのが、父母会長経験の父たち。私たちの命の源でもある水や、エネルギー源である火の大切さについてのメッセージが素晴らしかったので、ここに記します。
子どもたちは燃えさかる火を囲みながら、仲間たちと練習してきた歌やダンスを披露し、火の大切さ、水の大切さを噛み締めました。
この規模でキャンプファイヤーをできるキャンプ場が減っているなかで、子どもたちにとっての教育的意義を認め、キャンプファイヤーを実現させてくださった青根キャンプ場の皆さんに心から感謝します。
★ジェンダー平等とパートナーシップのSDGs
ジェンダー平等の実現については、学童生活の中で何かしら考え語り合う機会がほしいと、かねてから一部の父母と議論していたものの、日常の忙しさから常に後回しにされがちなトピックでした。
桂台学童に限ったことではないかもしれませんが、どうしても男女で遊びが分かれがち。だけど、女子が無理にやりたくないサッカーをやることがジェンダー平等なのではなくて、「一人ひとり好きなことも得意も違う」「でも時に好きなこと以外にもチャレンジしてみて、自分自身で自分の好きを理解する」「それと同じように他人の得意や不得意を理解して認め合う」ことが大事だよ、と、SDGsをテーマにしたことでこれまで超えられなかったハードルを乗り越えることができました。
子どもたちには、「男の子だから火の番、女の子だから調理、と、性別で役割を分けない」ことはしっかりと浸透していました。体が小さく食べるのがゆっくりな低学年に対して、高学年がその子のペースを尊重する姿勢も見て取れました。
ジェンダー平等については、意外と父母の方に役割固定の意識があるかもしれない、ということにも気づきました。調理のサポートはほぼ母たちで、火の番の補助は父たちが担いました。しかし、それぞれの職能や体格や体力の違いからも、自ずと適した役割に落ち着くものかもしれない、とも思います。
やはり、消防士として日々体を鍛えて危機判断能力にすぐれたパパさんたちが、川遊びで体を張って安全を守ってくれる姿には安心感を覚えましたし、造園に関わる父の見事な櫓組み、建築に関わる父の設営での見事な動きには、それぞれの職能や経験が生かされていると感じました。看護師の母たちが子どもたちの体調に細やかに気配りをし、体調不良者が出た時の的確な判断には大いに救われ、日頃から食材の無駄がでないよう工夫している母たちの臨機応変なフードロス対策は学びになりました。
一人ですべての役割を担うのではなく、それぞれの得意を生かし、認め合い、力を合わせてキャンプを安全に過ごすこと。これこそが「17. パートナーシップで目標を達成しよう」につながる活動だったのではないかと思います。
■キャンプ後のふりかえりで、SDGsが日常に
キャンプから戻ってきて3日後の8月7日に、学童でSDGsキャンプのふりかえりを行いました。ただ「キャンプが楽しかったね」で終わるのではなく、キャンプから何を学び、日常生活に取り入れていくかを子どもたち自身が実感するには、ふりかえりが大切だと感じたからです。
そこで、キャンプのスライドショーをつくり、1シーンごとにSDGsの個々の目標との関連をふりかえりました。
その後、班に分かれて、子どもたち自身が「キャンプで学んだSDGs」「学童で取り組めそうなこと」「おうちで生かせそうなこと」について話し合い、発表をしました。
★キャンプで学んだこと
「キャンプでは、食べ物を残さなかった。水や食べ物を大切にした。男子は火の番で女子は野菜を切るんじゃなくて、男子も野菜を切るようにした」(4年生)
「牛乳パックを再利用してカートンドッグをつくった」(4年生)
「きゅうりの皮を捨てずにきんぴらにした。水道から出てくる水の量が少ないことが多いから大切に使った」(4年生)
「電気を使わなくてもごはんができる」(4年生)
「水をきれいにつかう。ちきゅうをゆたかにしよう。太陽の電気を使えばガスがなくなる」(3年生)
「ソーラーシェアリングはブルーベリーにやさしい」(2年生)
「食べられる分だけつくった。キャップともえるごみにわけた」(2年生)
「動物は畑にきて食べちゃう」(1年生)
★学童で取り組めそうなこと
「男女関係なくすごす。水をむだに使わない。好き嫌いをしない」(2年生)
「おやつをのこさない」(2年生)
「水のいきおいを弱くしたり使う量を少なくする。本をたくさん読んだりして今や昔のことを知る」(4年生)
★おうちで生かせそうなこと
「もえるごみとプラごみはべつべつにしましょう」(1年生)
「食べ物を無駄にしない」(1年生)
「使わない時はでんきをけす」(2年生)
「電気をなるべく使わない。電気を使わないでごはんをつくる」(4年生)
廣瀬指導員は児童らのふりかえりを聞き、「普段当たり前に使っているものは、限りがあるものだと感じた。水を汚してしまったら泥水になるなど、すべて循環している。今、水を大切に使うことで来年につながると思います」と話しました。
田中指導員は「キャンプ前から言っているけれど、学童で食べ残しが多いのが気になっていた。やっぱ嫌だ、おいしくない、食べたくない、というわがままが出ていたんだけど、キャンプが終わってからそれがすごく変わってきたと思う。それぞれ、学んだことを一つひとつ見直して、これからの生活や学童祭りにも生かしてほしい」と、子どもたちの変化と成長を実感したといいます。
今回の学童キャンプを通して、「SDGsを学ぶために特別なことをする」のではなく、「当たり前の暮らしをやるなかでSDGsの要素を見つけ、実践する」ことの豊かさを、子どもたちと一緒に作り上げることができました。
今の子どもたちが、安心・安全に暮らせていることの前提には、自分や家族以外の他者への思いやりや、一人ひとりの個性を尊重して、互いに認め合い、協力しあうことによって成り立っているのだと思います。
SDGsというフックを入れることで、日常生活が学びのフィールドになり、地域や地球をよくしていくことにつながる。子どもたち自身も担い手になれる。そんな学びを得た、桂台学童のSDGsサマーキャンプでした。
(写真・文=保護者K)
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