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冬に読みたい桂書房の本<3選>

クリスマスや年末年始が近づいてきました。北陸の冬は鉛色。重くてずっしりとした雪が降り積もる日は外出するのも一苦労です。そんな日は暖かい家でゆっくり読書をしませんか?

今回は、編集部が選んだ「冬に読みたい桂書房の本」を3冊紹介します。


□『孤村のともし火』海野金一郎著

1939~43年、飛騨山中の無医村地帯を診療で廻った医師の探訪記です。山中にある村は雪が積もると交通が完全に閉ざされ孤立します。冒頭に収録されるのは加須良でのエピソード。医師の診断書と死体検案書が手に入らず、9ヶ月間葬られなかった幼子の弔い話が描かれます。

 冬、雪に閉じ込められて交通が途絶してしまっても、みなが健康であればほそぼそとながらともし火をともして春を待つことが出来る。しかし、誰かが病気になったり死んだりすると、部落は救いのない暗い別世界になる。
 一通の死体検案書を求めるために、凍てついて固くなった死体を山中から運び出し、あるいは生々しく冷たい子供の死体を背中に深く背負って雪のなかの山道も遠しとしないが、大人の死体となるとたやすく運び出すことは出来ない。

本文より

加須良のほか、山之村では民俗探訪、杣が池での伝説の話や民間療法も収録。当時の写真も多数掲載し、1940年代の美しい飛騨の風景が蘇ります。


□『宗教・反宗教・脱宗教 作家岩倉政治における思想の冒険』森葉月著

岩倉政治は禅学者の鈴木大拙とマルクス主義哲学者の戸坂潤との出会いにより、唯物論の学習に邁進します。しかしその本領は「宗教か反宗教か」「親鸞かマルクスか」にとどまらず、思想の冒険へと踏み出していくところにありました。岩倉の「脱宗教」は、親鸞の「自然法爾」と結びつきます。岩倉の生涯をたどり、その思想と文学を論じた出色の力作です。

…我々自身は安穏と暮らしていると思っていても、実際には愛や真理に背き、自由や平和に対して脅威になる動きが多くあり、我々の生活を脅かしているというのに、真理や愛や平和などの問題は古臭くて「ダサイ」と云ってそこから逃げ、「ヘラヘラ」と笑っていていいのか、と憤慨していた。そして岩倉は、もっと若者が「ムキ」になり、まずはこの世にある様々な「不思議」を追求し、現状を批判してこそ、生き生きとした未来が拓けるのだ、と力説した。そこには、若者に対する愛と同時に、自らもそのようにして未来を切り拓いてきたのだ、という自身の歩みに対する確信があったからであろう。

本文より


□『日本人の罪 メリー・クリスマス 翁久允戯曲集1』須田満・水野真理子編

翁久允(1888-1973)が、自ら主宰した郷土研究誌『高志人』(こしびと)に1947年5月から1948年4月までに発表した戯曲三作。第二次世界大戦後の混乱が収まらない時期の富山市や近郊の町を舞台に、地元のことばである「富山弁」が、当時の世相描写にリアルな臨場感を与えて物語が展開する読みごたえのある作品です。



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