トルコ語の歌詞を読む #3 ーİstikrarlı Hayal Hakikattir / Gaye Su Akyol 編ー
4行目から6行目を読みます!
4行目 "Dere gibi akar"
"dere" は「小川」「水路」という意味です。「谷」という意味もあって対義語が "tepe"「丘」。"dere tepe" で「山越え谷越え」「いたるところに」みたいな意味になります。
後置詞 "gibi"
"gibi" は後置詞で「~のように」という意味。"dere gibi"で「小川のように」という意味です。英語の"like"に似てますが語順は逆です。むしろ日本語と同じ語順ですね。
前回、単語の後ろに接尾辞・付属語がくっつくことで日本語でいう助詞のような働きをすると書きました。後置詞も同じで、名詞の後に続くことで接尾辞・付属語には無い意味を表したり、接尾辞・付属語の意味を補ったりします。
後置詞は接尾辞・付属語の補助として使うので、前に来る単語の格が決まっています。"gibi"は主格に続くので"dere gibi"でいいですが、例えば "başka"「~以外に」を使うときは"dereden başka"のように直前の単語を起点格にしなければいけません。(起点格も後で解説します)
動詞の中立形 ”akar”
"akar"は"ak-"の中立形、「流れる」「あふれ出る」という意味です。
前回の "yatırır" も中立形でしたが、 "yatırır" の活用部 "-ır" が狭母音(i, ı, u, ü)を使っているのに対して "akar" の "-ar" は広母音(a, e)を使っています。他の活用形では狭母音と広母音が入れ替わることはないのですが、中立形だけはややこしいルールがあるのです。
他の活用形も見ないまま中立形のややこしい解説をしても仕方がないので、ここではとりあえず、中立形だけは特殊だということだけ知っておいてください。
文章の意味は「(人は)小川のように流れる」です。
5行目 "Dertte yüzeriz"
名詞の位置格 "dertte"
"dert" は「痛み」「病気」や「問題」「不幸」などの意味があります。
後ろについている "-te" は位置格の接尾辞で、「~で」という場所を表す意味になります。"dertte" で「不幸の中で」という意味になります。本来の形は "-de" なのですが、無声子音という種類の子音が直前にあると "-te" に変わります。
子音の交替
子音は大きく有声子音と無声子音に分けられます。
有声子音: b, c, d, g, (ğ), j, l, m, n, r, v, y, z
無声子音: ç, f, h, k, p, s, ş, t
一応全部書きましたが、有声子音は声帯が震えるのに対して、無声子音は口の中を息が通るだけなので、ある程度慣れれば覚えなくても分かるようになります。
トルコ語では接尾辞・付属語が付くときに無声子音が絡むと、子音の交替が起きることがあります。
まずは有声→無声に変化するパターン。dから始まる接尾辞・付属語の直前が無声子音の場合、dが無声化してtになります。例えば"dert" + "-de"(位置格)は"dertte"、"hakikat" + "-dir"(断定の付属語)は"hakikattir"となります。有声→無声パターンは(c → ç パターンも一応あるみたいですがほとんど)d → t パターンしかありません。
次に無声→有声のパターン。ç, k, p, tで終わる単語の直後に母音から始まる接尾辞・付属語がくっつくと
ç→c
k→ğ
p→b
t→d
のように対応する有声子音に変化します。例えば "dert" に "-im"(「私の~」)が付くとt→dの変化が起きて "derdim"、 "şarap"(「ワイン」)に "ın"(「君の~」)が付くとp→bの変化が起きて "şarabın" になります。
一人称複数の "yüzeriz" / 人称付属語
"yüzeriz" は「私たちは泳ぐ」という意味で、"yüz-"(「泳ぐ」「流れる」)の中立形 "yüzer" に人称の付属語 "-iz" をくっつけたものです。
主語が一人称、二人称の場合、トルコ語の述語には人称の付属語や接尾辞が付きます。活用形によって例外がありますが、大体は次のようになります。
Ben(私、一人称単数) yüzerim(付属語"-(y)im")
Biz(私たち、一人称複数) yüzeriz(付属語"-(y)iz")
Sen(君、二人称単数) yüzersin(付属語"-sin")
Siz(君たち、二人称複数) yüzersiniz(付属語"-siniz")
母音調和するので "-im" は直前の母音によっては "-ım" とか "-um" とかにもなります。一人称の場合、直前が母音だと "y" が挟まります。
ちなみに、中立形の否定文になると付属語の付け方が違ってくるのですが、とりあえずここではスルーしましょう。
以上、5行目の文は「私たちは痛みの中を泳ぐ」という意味になります。急に一人称になりますが、歌詞サイトを見てみると4行目の三人称の文も主語を"We"で訳しているので、主語の人称変更には深い意味はなさそうです。
6行目 "Uçuyoruz evet çünkü güzeliz"
動詞の現在形 "Uçuyoruz"
"Uçuyoruz" は "Uç-"「飛ぶ」の現在形 "Uçuyor" に一人称複数の付属語 "-uz" が付いたものです。「私たちは飛んでいる」という意味です
現在形は「~している」という意味で、進行中の動作や現在繰り返している動作、近い未来に実現する動作のときに使います。英語でいえば、現在進行形だけでなく、"anlıyor"「理解している」など英語の現在形で表す動作も含まれます。
語幹に "-uyor" を付けると現在形になります。最初の母音(ここでは "u")は母音調和しますが "o" の方は母音調和しないので注意です。
"ak-" → "akıyor"、"yüz-" → "yüzüyor" のようになります。
語幹の最後が母音の場合はその母音が消えます。"salla-"「振る」「揺らす」の現在形は2個目の "a" が消えて"sallıyor"です。
"evet" は「はい」という意味です。英語で言う "Yes" なので主に疑問文への返事に使いますが、ここでは合いの手として使っています。
"çünkü" は「なぜなら」という意味の接続詞です。これも英語の "because" と同じ使い方ですね。
"güzeliz" は形容詞 "güzel"「美しい」「良い」に人称の付属語 "-iz" を付けたもの。トルコ語では、特に人称の付属語が付く場合は主語が省略されることがあり、ここでは "Güzeliz." だけで「私たちは美しい。」という文になります。
6行目の文は「私たちは美しいから飛んでいる」という意味になります。5行目までネガティブなイメージが続いましたが、突然ポジティブなイメージに変わってこのまま曲のサビに入っていきます。歌詞の構成が上手いですね。
次回はサビの部分を読んでいきます。