#7 成功者に世界一周の挨拶に行ったら、旅をやめることにした。
【前回までのあらすじ:35歳ヒモ男がバツ2となり家を追い出され向かった先は地元繋がりの先輩で成功している経営者。人生相談すると強引に世界一周の旅に放り出されることに。しかも旅のブログランキングで1位になるまで帰国できないという条件付き】
いよいよ出発日2日前。
お世話になった方や可愛がってくれた経営者で、まだ直接世界一周のことを伝えていない方達がそれなりにいた。
世界一周。出発前に遺書を書く旅人もいるほどの危険度。実際に旅中に命を落とした方々も1人や2人ではない。
絶対死にたくはないが、万が一のこともありえる。今までお世話になった方々にご挨拶ぐらいはしたかった。
ゴルフコンペなどで仲良くなり、よく飲みに連れていって下さった経営者のAさんも、そんな1人。連絡をすると、高級レストランでの食事に誘ってもらった。
僕がお店に到着すると、Aさんがいつものように、運転手付きの高級車から降るところだった。相変わらず身のこなしがスマートだ。こんな男になりたいと思わせる立ち振る舞い。
レストランに入ると、メニューすら見ていないが既にお会計が気になるぐらい素敵だ。ゴージャスな椅子を店員に引いてもらい席に座るやいなや、Aさんは口を開いた。
「共通の取引先から聞いてるよ。色々と大変なんだってね。で、いつ、どこに出発することにしたの?」
世界一周のことを既に聞いていたようだ。
「はい、本当にご心配をおかけして申し訳ありません。明後日、LA経由でボリビアから入ります。」
「なんで、またそんな急に?気持ちはわかるが、ちょっと落ち着きなさい。航空会社はどこ?キャンセルできないのかね?」
「OO航空です。格安航空券ですし。キャンセルは出来ないです。僕、、帰国したら頑張ってまたAさんとこのような高級レストランで食事ができるような男になれるよう頑張ります!」
ビシっと頭を下げた。顔上げると
Aさんは、ポケットから携帯を取り出しどこかに電話をかけている。
「どうも、Aです。君、国際線担当だっけ?今週の28日 LA行き、イノウエカツオ。それ、キャンセルできるか確認して。返金は出来る限りヨロシク」
「えぇぇぇっぇぇぇえぇえええ!!!そのネットワーク、嫌過ぎるし!!!!いやいやいやいやいやいや!!!!ちょっと待って下さい!!!!!」
「いいから、落ち着きなさい。貴方が今すべきことは、世界一周じゃない。何の仕事でもいい。コンビニでもいい。またイチから働いて、チャンスを伺えばいいのです。人間、浮き沈みあります。貴方が今つらいのは誰もバカにしない。ただね。貴方が今の自分から逃げて旅をすることには、マイナスになれどプラスにはなりません。これは恥ずべきことだよ。行くにしても一週間くらい近くの温泉でも行って頭を冷やせば十分です。それぐらいなら僕の方で何とかしてあげるよ」
「いやいや、本当にちょっとキャンセルのキャンセルをして頂けませんか!?僕、どうしても旅に行かないといけないんですよ!」
「どうしても?って、、なんでだい?」
まさか、
「これ実は、旅流しの刑なんですよ〜。人生相談行った先輩に強引に世界一周の旅へ出されることになっちゃって…。しかも旅のブログランキングで1位を取るまで帰国できないという条件付きなんです。」
なんて事はもちろん言えるわけもなく、
「いや、今までの僕の状況を考えまして、今は自分をゆっくり見つめ直す、いい機会かと思っていまして。。」
と返事をすると、被せ気味で
「今までの貴方の状況を考えて、旅じゃないのが分からないのかね?貴方が20代なら僕も止めない。だけどね。貴方もう35歳でしょ?働きなさい。貴方ならもし例えコンビニで働いていても、色んなことに気が付き、また新しく商売を見つけるでしょうし、半年でも頑張れば100万円でも貯まるじゃないか。貴方の年のこの時間は非常に今後のキャリアに影響するよ。仕事内容ではなくて、仕事を切らさないで続けて何かをすることが大切です」
「そ、そうですよね。。。」
「僕は貴方よりひと回り年上だし、人生経験もそれなりにあります。辛いことも沢山経験しました。しかし、血の滲む努力をして今の状態を築きました。いつも一緒に食事をしているメンバーのことも知っていますよね?社会的に信用もあり、常識を身につけ、余裕のある人達です。僕や彼らの意見に耳を傾ける方が、理にかなっていませんか?」
1理どころか100理あった!!
「どこの誰に影響を受けたのか、相談したのか知りませんが、けれども常識ある大人100人に聞いたら100人が僕の意見に賛成してくれると思うよ」
どこの誰、とは
あのアニキ!なのだが、誰それ?となるのがオチだし、なによりAさんがド正論すぎて、彼の『世界一周に行くべきでない理屈』を覆すことはあのひろゆきをもってしても難しいだろう。
はっきり言って、わざわざ僕のために時間を空けてくれて、ここまで説教してくれる人がいると思うだけで涙が出てくる。
「おっしゃるとおりでございます。。。」
「とりあえず、今からおいしいもの食べてマッサージでも受けてきなさい。それで夜飲もう。航空券のキャンセルは僕の方でなんとか出来るかお願いしてみるから。」
はっきりいって12万のチケットだ。人生を棒に振るほどの価格じゃない。
「はい。。。きちんと考えます。。Aさんのおっしゃっていることは理解しておりますし、正しいことは重々承知しております」
「そうか。よかった。では、また後ほど」
Aさんは伝票を持って席を立ったので、僕もすかさず立ち上がり深く一礼して離席した。
ソッコーでトイレに駆け込みアニキに電話。
「すみません!世界一周とりあえず保留にするかもしれません!!」
上に書いたこと以外にも、Aさんの2時間分のマトのど真ん中を射抜くお話を早口でアニキに伝えた。とどのつまり、僕自身『Aさんの言うことは正しく、アニキが非常識だよ!勘弁してよ!世界一周やめたい!働きたい!いや、働くべきだ!冷静に考えたら、いや考えなくても旅なんかしてる場合じゃねーだろ!!』と心の中では叫んでいた。正直僕は、Aさんに諭されて安心していたし、心の荷が降り掛かっていたので、それも一緒に遠回り遠回りに説明した。(これで世界一周に行かなくてすむのだ!)
するとアニキ、
「おお!わかったー!LA行きチケットは僕負担で新しく用意しとくわ〜。全然安心して〜!」
聞く耳なし!!!
えーーー??ちゃんと僕の理にかなってる説明聞いた???
思わずトイレで笑っちゃったわ。この人、すごいよ。いやいや俺のことなのに、気にせず初志貫徹。
「わかりましたよ、わかりました。」
船長はアニキ1人でいいんだよね。色んな人の意見に耳を傾けたところで、あっちも正しいし、こっちも正しい。
大切なことは、自分が心に決めた人を信じて着いて行くことなんだ。
お騒がせしました。そうだそうだ!あっちこっち流されて、ここまで来たんだった。流される流儀として、しっかり最初の潮に乗らんと。
正しい、間違い、常識、非常識、そういうことじゃないんだ。
今は、いや、いつでも、【楽しそう、ワクワクする方】を選んで良いんだ。
夜になり、他の経営者も集まり美味しい焼き鳥屋さんで、皆様にご説法を頂いた。こんなに真剣にアドバイスをくださる方がいる僕はとっても幸せものだ。お金のことは書きたくないが、ここにいる人達の時間とアドバイスフィーを商売的にリアルに計算すると世界一周は行けるのではないだろうか。
僕が一番残念で心惜しく思うのは、こんな素敵な皆さんのと疎遠になってしまうことだ。正直、旅は考えるだけで面倒でリスキーだ。社会的に成功されている彼らの意見が100%正しい。
旅のお金があるなら、別れた家族のために使ったり、貯金して起業するなり何か違うことに回すほうがよっぽど良いだろう。旅に出たところで何かを得たり新しい商売のネタを見つけれる自信もない。お金を使ってお終いの可能性だって充分にある。
でも、値段のついているモノって取り返しがつくもので、かけがえのないものではない。
僕が言うなんて超生意気だけど、たかだか1〜2百万円である。小銭ではないが、このお金で劇的にライフスタイルを変えられる程の金額でもない。
それならば、僕はこの使える時間とお金を持って今までにやったこともない、何か新しく、楽しそうな旅に飛び込むのも、精神的にもお金的にも健全なのではないかとこの数日間で思うようになっていた。
わがまま、常識はずれ、無責任。本当に申し訳ありませんでした。
僕は決意をわざわざ集まってくれた経営者の方々に伝えると、呆れた顔をしていた。
けれど、僕が言う事を聞かないのは仕方ない、なんて思ってくれているのも垣間見れた。航空券のキャンセルは保留になり、いつでも相談にのってくれる状態にしてくれていた。
旅の向こう側に何があるなんて分からないし探そうとも思わない。森羅万象、諸行無常。
井上勝雄という人間が、いつか誰かのお役に立てると確信できるまで、僕はあてもなく彷徨い続けるのかもしれない。
成功者の人生の素晴らしさを頭で理解は出来ても、鼻つまみ者に惹かれることも、これ事実。
さぁ今日もハレルヤ
出発まであと2日!
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noteは週2,3回ほど更新し、【旅の準備→世界一周→起業→会社売却】までを気長にまとめようと思います。面白いと思った方はnoteまたはTwitterをフォローいただければ幸いです。
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ホームレスになったヒモ男、世界一周したら小金持ちになった話。
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