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無職男と時給870円女子の起業物語 【第2話:スパイ大作戦と砦の確認】

前回までのあらすじ。アパレルでの起業は諦め未経験の脱毛サロンを開くため、急遽ワックス脱毛サロンにアルバイトで潜入し技術を習得することに。


起業準備に入った27歳女子と36歳おっさんの歳の差カップル。アントレプレナーと言えば聞こえもいいが世間的なステータスは無職カップルだ。響きがヤバい。

麻美はアドバイス通り、複数店舗を運営している会社と個人店の2店舗掛け持ちで働くことが決まる。
嘘がつけない性格なので面接では技術を身に付け、いつか独立したいと正直に伝えた。狭い業界だ。スパイをするにしても後で揉めたくないし、欲を言えば一緒に業界を盛り上げる存在になりたい。
ただしそれが3ヶ月後、夏の繁忙期に独立予定ですとナメたことはさすがに言えなかったようだが。

さて給料については2社とも技術を習得しお客様を施術できるまでは時給0円とのこと。気持ち良いほどの労働基準法フルシカト。前職アパレル店の上をいくドSな業界のようだ。

とはいえ、こちらも技術や店舗運営に必要な知識を収集してさっさと独立する気だ。文句は言えない。
今なら分かるが(当時も分かれよ)、先方としては最悪な人材採用だ。やっと使えるように育ったらライバル店として独立されるのだから。

それでもマナーとして2つのことを決めた。
●売上を立て会社にしっかり貢献すること(絶対に損はさせない)。
●お客様は絶対に持って行かないこと。

一方、僕といえば。
丁稚先の恩人兼経営者に取り急ぎご挨拶。今まで有難うございました、私もいよいよ身を起こそうと思います。つきましては商売のアイデアを聞いてください、と。
当時、脱毛サロンがTVCMで脇の脱毛を300円で打ち出し集客するほど主流だったが、まだまだデリケートゾーン(VIO)脱毛は少数派。
海外では当たり前のようにワックス脱毛でお手入れされているデリケートゾーンだが日本だと攻めてる部類の存在だった。
「そこを脱毛してるなんてイヤらしい」「何で陰毛をワザワザお手入れするの?」というイメージ。
今では脱毛法を問わず、男女ともお手入れをしていない方が不潔と印象を持たれるほどメジャーな脱毛箇所だが、当時男性のVIO脱毛に至っては、もはや変態の域であった。
ここ10年で人の感性なんて簡単にひっくり返ることを身をもって体感している。

ホビーショップや飲食店を多店舗展開している恩人経営者は、脱毛は畑違いでよく分からないとしつつもVIO専門ワックス脱毛の市場規模や1店舗あたりの売上を気にしていた。また現場も出れないカツオは何やるの?と。

自分の役割も定まっておらず、ふわふわレベルの相談をしている照れもあり、カッコつけて「どの店も雑居ビルでこぢんまりやってるので。まぁ僕も片手間で手伝いながら何か他の、、、」

「片手間だぁ??お前、VIOビジネス舐めてんじゃねぇよ!!」

「え?」(あんたVIO脱毛の何知ってるのよ!てかVIOビジネスって勝手に名付けないで!)

「お前な!どんな商売も"片手間"でうまく行くほど甘くねぇぞ!!やるならトコトン真剣にやれよ!!」

「は、はい、、」

「ちなみに俺は毛がある人が好き!」

「え?」(あんたの好み聞いてない!)

「可愛いのに、毛があるっていうギャップが良いかも!」

「そ、そうですか、、」(設定が細かい!)

「あとお前、安いとこ住め!固定費下げろ!俺が見つけておいてやる!」

後日、連れられて行くと6畳1間、風呂トイレ共同で3.8万円の部屋。

味がありすぎる。
襖を開けるとネズミの糞が大量に見つかる。

「ぎゃゃあああーーー!!嫌すぎる!!俺ねずみ超苦手なのよ!!」

叫ぶ恩人経営者。

「いやいや、僕もっ!!」

さらに、

掃除当番制度あり!これから起業するのに、こんなことしてて良いんだっけ?となる張り紙も発見。

恩人経営者はネズミに怯えながら僕に言う。

「失敗したら女にも捨てられるから!そしたら良い歳してこの部屋からやり直しだからな!覚えておけ、ここがお前の最後の砦だ!よろしく!」

なるほど、たしかに。商売失敗したら彼女に振られてネズミと同棲しながらトイレ掃除から出発なのね。ドン底ラインを見せられて気が引き締まる僕。

やってやんよ。地べたに這いつくばってでも生き抜いてやる。
片手間から本気へのスイッチが入った。

研修が終わった麻美は労働基準法をすすんで無視して働きまくり売上No.1を2ヶ月連続で達成。エース人材となっていた。

そろそろ頃合いだ。
2人で夜な夜なマクドナルドで作戦会議をして出店計画を立てた。

場所はマナーとして働いている会社が出している地域(新宿、池袋、渋谷)とはかぶらず、検索キーワードで上位にあった六本木に絞ることにした。

こういうキャプションも取っておいてよかった。


毎日クタクタになるまで六本木を歩き回り、不動産屋を見つけては熱意を持ってサロン開店を伝え物件探しをするも、なかなか相手にされない。
信用がないのか?いや、違う。僕は、麻美を見つめて言った。


物件を貸したくない雰囲気No.1

まず、おへそを隠すところからスタートだ!社会人に話を聞いてもらうのに、この服装はダメよ!

ただ、たまたま入った不動産屋の店長の山本さんが海外育ちでフラットな方。丁寧に根気よく六本木の雑居ビルの家賃相場や土地柄を教えてくれた。

そして駅から徒歩1分、想定より安い20平米弱で10万円の物件を発掘してもらう。六本木俳優座ビル908号室。ここに城を築くことにした。

安家賃の理由が間取りでわかる。

物件の保証人は麻美の父親にお願いした。自衛隊として長年勤務し叙勲まで受章するなど信用の塊のような生き方をしている人なのだ。

さて、問題は開店資金だ。次回は資金調達について書いていく。


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ホームレスになったヒモ男、世界一周したら小金持ちになった話。

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無職男と時給870円女子の起業物語
【第1話:火傷しない商売のルール】
【第2話:スパイ大作戦と砦の確認】
【第3話:半径1mの資金調達】
【第4話:六本木No.1戦略】
【第5話:洗面器に顔を突っ込む】
【第6話:飛び道具の開発方法】
【第7話:無鉄砲な当てずっぽう】
【第8話:順調は不調の始まり】
【第9話:1億円を燃やして得た教訓】
【最終話:最高のマーケティング、そして売却へ】

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