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Photo by
sakurasaku369
#106『昔歳の糸⑥』
日が横から肌を焼くようになった。
どろんこが包んだ両手足を川で洗い、僕たちは夕食の準備を進めた。
飯盒炊飯をして、カレーを作るのだ。
ピーカー(当時はピーラーをずっとそう呼んでいた)で野菜の皮を剥くのが僕の仕事で、丸裸の野菜を水で洗うのが弟の仕事だ。
慣れない仕事だが、想像していたより簡単で楽しかった。
なんで野菜を水で流す方が遅いんだ!
そんな愚痴を頬張り、最後のジャガイモを剥き終えた。
野菜を切るのは母に任せ、僕は父と火をつけることにした。
うちわを持ち、父が住みを敷き終えるのを待った。
父は敷き詰めた炭の上に、字が読めなくなっていく新聞紙を置いた。
日が沈むのに対抗するように炎は上がった。
暗闇が支配し始めた山間部に現れた炎は、かなり幻想的だった。
精一杯上に上に伸びようとしては、僕が扇ぐ風に吹かれていた。
徐々に赤さを強め、ホタルのように空を舞うようになった。
あまりにも短い命に僕は少し寂しさを感じ、扇ぐのをやめた。
それでも、生れ落ちる火花は儚いものだった。
それからすぐに上から鉄で抑え込まれ、炎は活気を失ってしまった。
出来上がったカレーは今まで食べた中で一番辛く、美味しかった。
これが命の重みと言うものなのだろうか。
僕はカレーを食べ終え、感謝と謝罪のミルクコーヒーを服した。
雲は一つとして無かった。
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