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【オリジナル小説】友達

――友達。
一緒に何かをしたり遊んだりして、気持ちの通い合っている人。友人。

――友人。
「とも(だち)」の意のやや改まった表現。

――友情。
友人として、相手を思い、また裏切らぬ真心。

    新明解国語辞典 第八版(三省堂) より引用


 寒い雪の日だった。友達からの突然のLINE。
――カレシが浮気してる、助けて!
 どうやって? 疑問には思ったけど、とにかく落ち着いてって返信した。
 冬休みに入り、友達と会うことはほとんどない。
 特に冬休みはクリスマスや年末年始があるから、よほどじゃない限り会わないかな。
 それに来年は受験。受験生は今頃冬休みどころではないんだろうね。
 スマートフォンが鳴る。
 アプリを開くと大量のスクリーンショットと音声ファイル。
 スクショにはカレシさんが浮気してる証拠がバッチリと写っていた。
 とりあえず音声ファイルを聞いてみよう。
「浮気してるよね! クリスマスもその子と一緒だったんでしょ! アタシ知ってるんだから!」
「ああ! してるよ! お前が勉強だの部活だので暇だったからな!」
「開き直り? アリエナイんだけど!」
 聞くに耐えない。
――アタシ絶対に別れないから!

「アタシタチ親友だよね」
 腕を組みながら彼女は言った。
 学校の帰り道で一緒にアイスを食べたり、ウインドウショッピングをしたり。
「大人になったら買えるかな」
 なんてたわいもない話をして笑い合ったり。
 彼女といるときはとても楽しくて、だから困っているなら力になりたいって思ってる。
 でも、時々そうじゃないかもって瞬間もあるんだ。

「ねえ! みんなでカラオケ行かない? 今日は貴重な部活休みでーす!」
 彼女が大声でアピールした。
「アンタは塾だよね? アタシ、ちゃんとスケジュール把握してるから」
「うん、そうだよ」
 こういう時嘘つきたくなる。自分でもなんでそう思うのかわからないけど。
「駅前集合ね!」
「カレシはいいの?」
 私は彼女に聞いた。
「いいの、いいの。カレシは部活だから。そっちのスケジュールもバッチリよ!」
 友達だから、カレシさんと同列の扱いなのかな。
 位置情報アプリ。友達は入れようよ、って言ってたけど容量がいっぱいだったから断ったんだよね。
 人の心も方程式はめれば解るようにして欲しいって思う時がある。
 カラオケに行けないのは少し寂しい。
「そういえばさー」
 彼女が私に向かって大声を出した。
「前に言ってたピアス。ピンクだけ残ってたよ。やっぱりブルーの方が良かったんだって。アタシがいくらブルーがイイって言ってもピンク買ったよね? ブルーの方が人気なのに」
 なんか胸の中がモヤモヤして、言葉にはできないけど嫌な気分になった。
 多分思春期のせいだ。
 だって親友だもん。

「もしもし」
 今何時? 朝? 5時?
 電話越しには泣き声しか聞こえない。
「え? ちょっと? どうしたの?」
「うっ……わ……」
 全然声になってない。スマホを見ると友達からの着信だ。
「え? 何? わかんないよ」
 ひっくひっくと泣いている声だけする。
「わかった、わかった。泣いていいよ。たくさん泣いて。それで落ち着いたら話そ」
「うう……」
 こちらの声は届いているようだ。
「カレシと……ケンカして……アイツ別れるって……」
「浮気が原因?」
「それだけじゃないって言ってた。束縛されるのが嫌だって。そういうの耐えられないんだって」
「それは辛いね」
 こうなったときは聞き役に徹するしかない。
 私も友達の束縛は行き過ぎてると思う時あるよ。
「最終的に別れるとか別れないとか決めるのはアンタだよ」
「そうだよね。いつもごめん。アタシの話ばっかりしちゃって。カレシが出来たら教えてね。いつでも相談に乗るから」
 そのLINEを境に連絡は来なくなった。
 私は正直ほっとしていた。
 深夜早朝かかわらず泣きながら電話してくるアンタに心底疲れてたからね。
 そうだよ、アンタが言うとおりいつも「自分に都合のイイ時」だけ連絡してくる。
 こんなの友達って言える?

 冬休みが明けて学校へ行くと友達はいつもと変わらず大声で下品に笑っていた。
「こないだ買ったコスメめっちゃイイんだけど! チークも買おうかな。なんか同じのでそろえたいじゃん?」
 クラスメイトがこっそりとやってきて私に耳打ちした。
「なんか『カレシ、フった』らしくて、冬休みの間みんなと遊び回ってたみたいよ」
 あー、そういうことか。
 ヒマしてるのが私しかいなかったから連絡してきただけだよね。
 聞いてくれる人が欲しかっただけでしょ?
 私はいつもそれに振り回されてただけ。
 そんな気はしてたよ。
 滑稽だよね。

 いつもいつもいつも! 泣いて、わめいて思い通りになると思ったら大間違いだから!
 親友なんて大ウソよ!
 ウザイ……ウザイ……ウザイ……!
 だからアンタのカレシを寝取ったんだよ!

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