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【短編小説】転職したらハムスターだった

 カラカラカラカラ。
 乾いた音が室内に響く。
「おい新入り」
 誰かに呼ばれ振り向いた。
「オレのことですか」
「お前しかいないだろう」
「何の用事でしょうか」
 カラカラカラカラ。
「たまには休んで水も飲め」
「あ、はい、そうですね」
 目線を上げ水を飲んだ。
 カラカラカラカラ。
 昨日、一人の男がとあるベンチャー企業の面接を受けた。
  「体力はありますか」
「はい、前職は建設業でした」
「ここは基本夜勤ですが大丈夫ですか」
「はい、夜の工事現場には慣れています」
「契約は3年間です。それ以上の延長はありませんがよろしいですか」
「はい、構いません」
 男は質問に疑問を持ちながらも藁にもすがる思いだった。
 どうしても就職したい。
 転職活動が難しい昨今どんな仕事でもいい。働きたいんだ。
「では明日の夜から来てください」
「ありがとうございました」
 男は面接会場を後にした。
 翌日の夜、現場に入ると、そこには幾多の者がいた。
 面接官に一つの道具を渡された。
「朝までこれを回し続けてください。休憩は適宜とるように。食事はそこに置いてあります」
「はい」
 仕事がもらえるならなんでもする。
 男はそんな気持ちだった。
「おい新入り」
「はい」
「お前はなんでこの仕事を選んだ」
「わかりません。でもこういう単純作業は楽しいです。オレは難しいことはわからないから。朝になれば眠れるし、ご飯も食べ放題だし、衣食住そろってます」
「そうか。おい、ねえちゃん!」
「あいよ」
「こいつは今日入ったばかりの新入りだ。面倒見てやってくれよ」
「わかってるよ。ここのメンバーはほとんどが3年契約だからね。短い間だけどよろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いします」
 カラカラカラカラ。
 朝まで仕事を続けていると急に眠気が襲ってきた。
 ご飯……。
 ご飯……。
 スー……。
「おーや、新入りは寝ちまったのかい。まだまだお子様だねえ」
「大の字で寝てら」
 がははと大きく笑った。
「おりゃあそろそろお役御免だけどな。ここは天国よ。すぐに仲間もできるさ」
「そうだね。独りは寂しいからね」

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