【小説】うさぎの女王様~私は下僕です~②
8日目~お迎え当日~
自分で言うのもアレだが俺は真面目なので受け取った資料をすべて読破し、王女様を迎える準備をした。
王女様の部屋んぽスペースにはカーペットを敷き、滑らないようにした。 カーペットにも種類があるがこの国ではウサギ様用しか販売していない。
人間用は需要がないからだ。
俺のスペースはフローリングだ。
これは予算とウサギ様の行動範囲を考えた結果だ。
さて王女様を迎えに行くか。
俺が部屋のドアを開けた瞬間何かが飛び込んできた。
「国王!」
「うむ。なかなか良い部屋じゃのう。これなら安心して任せられる」
「ありがとうございます」
「良い良い」
ぴょんぴょんと走りながら国王はこの場を去った。
いったい何の用事だったんだ。
改めて、迎えに行こう。
俺はブリーダーのいる兎舎に行った。
「こんにちは」
「お待ちしてました」
「王女を迎えに来ました」
「こちらへどうぞ」
え?
でかくなってる。
「一週間で百グラム増えましたからね。この頃の成長はすごいですよ。毎朝起きるたびに大きくなってるんです」
「元気で何よりです。これからが楽しみですね」
「王女様はお顔が小さいので大人になっても千三00グラムくらいでしょうね。小柄だと思います」
「そうなんですね」
王女様はロップイヤーという種類に分類され、千五00グラムが平均である。それを考えると小柄だな。
国王が確か千五00グラムくらいだった気がする。
ウサギ様にも様々な品種があり、大きなウサギ様は十キログラムにもなるとか。
時々街を歩いているとうさんぽ中の巨兎様に遭遇し二度見してしまうほどだ。
「ではこちらが契約書です」
と、初めて来たとき同様に書類をドンと机に置かれた。
王女様の検診結果、戸籍、母子手帳ならぬ兎手帳、今後の育て方、などなど。
ひとつひとつに目を通し、署名と捺印をする。
最後の一枚の書類、これが一番大事だ。
誓約書。
「ウサギ様を最期の時までお世話すること」
お世話を放棄することや虐待をすることは一切許されない。
この誓約書にはウサギ様愛護法に関する事項が書かれている。
俺は隅々まで目を通しサインした。
ブリーダーはキャリーバッグに王女様を入れた。
「これからが大変かと思いますが、がんばってください」
「はい」
俺は気を引き締め、キャリーバッグを受け取った。
「王女様、着きました。今日からここが我が家です。この部屋で一緒に過ごすんですよ」
部屋までの道中も王女様はおとなしかった。
キャリーバッグを開けると隅で小さくなっていた。
ああ、かわいい。
俺はそっと抱き上げケージに移した。
「もしかしたら最初はご飯を食べたりお水を飲んだりしないかもしれません」
ブリーダーがそう言っていた。
ウサギ様にかぎらず生き物というのは環境の変化に弱い。
食欲がなくなるのも当然だ。
当然なんだ。
俺は自分にそう言い聞かせている。
まさに今!
「モグモグモグ」
……。
「モグモグモグ。ウマウマ」
……。
「移動中は水も飲めんかった。ゴクゴクゴク」
……。
「おい、下僕。メシがないぞ」
……。
「下僕! 聞いておるのか! メシじゃ! メシ! ペレットが空っぽじゃ!」
「えーっと。すみません、私の名前はセバスチャ……」
「下僕! 下僕! 下僕!」
「あ、はい。私は下僕です……」
こうして俺の下僕生活は始まった。