「はじめての出版⑤〜デッドライン・オア・アライブ」
想像してみてください。あなたが仕事をするとして、一番つらい状況とは何でしょう?
仕事が多すぎするとか、人間関係が辛いとか、仕事相手が理不尽だとか、
真っ当にお仕事を汗水垂らしてやっている人からは、あとからあとからその記憶が溢れてくるのではないでしょうか。
でもですね、僕は一番つらい状況とは「締め切りがない事」
つまり「その仕事がいつまでに終わるのかわからない事」
だと思うのですよ。いろんな仕事や作業において「あと○○で終わる」「今、○○合目まで来た」という実感のないまま進むタスクは地獄の苦しみです。そう、それは古代エジプトのピラミッド建築で、今自分が何をしているか、自分の担当部分がどれくらい進捗しているのか何も知らされず日々の単純労働で働かされていた名も無き民の苦しみと同じです。
今回の執筆で、それを思い知りました。
スタート時にインテリ(風)担当編集者に「原稿の締め切り」を聞いたところ、
「特にありません、まとまった段階でも小分けでも、キリのいいところでみせてください」と言われていました。
キリのいいところ、だと…?どこだよ、それ…?
これがとにかく良くなかった。どのくらい書ければキリがいいなんてわからないから、最初の章を書き始めてあっという間に止まる筆。まず何とか序章を粗々で書き上げたものの、読み直すたびにおかしい気がしてたった一章が提出できない。
本をこれから書くみなさんに声を大にして言いたいのは、
一冊の本を書き上げる秘訣は、「まず6.7割で書き上げる」という事です。
8割、9割、初稿の段階でより完璧なものを書こうとすると絶対に筆が止まります。
とにかく、その章で自分が言いたい大事なことや欠くことの出来ない要素を入れ込んで多少論理構成がおかしくても、短くフィニッシュを繰り返す事です。
考えてみれば普段の仕事でも、自分が企画する時には、
「ザックリ企画して、あとは磨いていく」
という手法で仕事をしていたのに、書籍の執筆という未知のタスクを背負った途端に気負ってしまい、ペースを乱しまくってしまったのでした。
後輩に偉そうに
「完璧な企画よりもまず、切り口をたくさん出してね、それを俺が拾っていっしょに磨くから」
なんて偉そうに言ってるわりには、まんまとドツボにハマッてしまったのでした。
ちなみに担当の編集者はインテリ(風)ともう一人、つまり2人いたのですが、基本的にどちらも
「締め切りは特にもうけません、原稿お待ちしております」
というスタンスでした。
で、編集者に対して何を要求していいかよくわからなかった僕はそれをそのまま鵜呑みにしていたわけですが、途中から自分でExcelのスケジュール表をつくって
「締め切りを設定しないと書けません。ザックリでいいのでここにスケジュールを書き込んでもらえませんか?」
というやり取りをしました。と、アッサリと、
「あ、はい、そうしましょう。原稿お待ちしております」
という返事がかえってきました。のちのちイヤと言うほど知るのですが、
編集者さんは盟友であり、戦友であり、導師でもあります。
遠慮しないで、なるべく思うところは率直に相談し、要求すべきところはしてお互いにとって心地よい関係性を保ったまま、執筆をしていきましょう。
ちなみに、これまでの編集者さんとのやり取りの中ですべて最後に
「原稿お待ちしております」
というフレーズが入っていますが、これは誇張でもなんでもなく必ずメールの一文に添えられていました。
編集者にしてみれば、原稿が上がらないと良いとも悪いとも判断できないし、アドバイスすら出来ないのです。
その観点からいうと、やはり、原稿は完璧を求めずにまず「第1原稿」として大まかな自分の主張がわかるものを渡し、そこからコメントや議論を踏まえてブラッシュアップしていくのが良いのだと思います。
村上春樹も、第1原稿を上げたあとに、とにかく推敲に時間をかけると言っていました。そして、推敲という行為が大好きだとも。
え?お前と村上春樹ではレベルが違うだろう?
いやいや、僕は彼のように休日にパスタを茹でないけどうどんは茹でてるし、よく「やれやれ」って言うし、同じようにハードにランニングはするし、卵と壁のどちらかを選べと言われたら「弾力性のある壁」って答えるだろうし、世界を真っ二つに割ったら村上春樹寄りの人だと思うですけどねぇ…。
話は、去年までの藤波のストレートのように逸れましたが
とにかく締め切りってありがたい。
ところで、人間にとって最強の締切は何かは、もうわかりますね?そう、それは「死」です。
死があるから、我々は一生を美しく燃やす事ができるのです。さあ、締切を大切に限りある生を生きていきましょう。
なんのこっちゃ。
<つづく>