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犯罪の匂いが漂う美男スター


昭和30年代の後期になると、日活アクション映画にはほぼ決別し、洋画の世界へのめり込んだ。
このころは、アラン・ドロンや、スティーブ・マックイーンといった外国人俳優に憧れを抱いた。
なかでも、アラン・ドロンは、美男子ながら恋愛映画に向かない不思議な俳優で、むしろ犯罪の匂いが付きまとう役者である。なぜか彼にはこうした役がピッタリとはまる。
方や、スティーブン・マックイーンはというと、孤高のヒーロー像が似合い、運動神経が抜群でアクション映画を得意とし、その地位を高めた。
この時代の二人、常に毎月の洋画雑誌では人気一、二を競うトップ級スターだった。
容姿を比べてみると、スマートなドロンが圧倒的優位に見えるも、体を張ってあらゆるアクション映画を熟すマックイーンは、ドロンに一歩もひけをとらない誇り高き人気スターであり続けた。
ここで、自分があの当時好きだった、ドロン映画作品のトップ3を挙げてみよう。
まず、ナンバーワンの一作目は、日本でも彼の人気を決定づけた「太陽がいっぱい」だろう。次いで、「サムライ」、「地下室のメロディー」と続く。次点には、「冒険者たち」や「さらば友よ」を挙げたい。
映画「太陽がいっぱい」を語るとき、忘れてはならないのは、あの哀愁あふれる独特のテーマ音楽。地中海の真っ新な太陽と海、それと相反するかのような物悲しいメロディーは、若かりし頃に胸中を彷徨っていた孤独な世界と重なる。練りに練られたストーリーは抜群に冴え、ラストシーンのどんでん返しと相まって、その魅力を引き起こす名作といえよう。
ドロンの美貌と、テーマ音楽、そして罪を犯すその空しさは、青春時代の教訓として今でも心に残り続ける。
次いで、「サムライ」は、フランス映画フィルム・ノワールの秀作としても名高い作品。
冒頭に サムライの孤独ほど深いものはない さらに深い孤独があるとすれば- ジャングルに生きるトラのそれだけだ  《武士道》より
という一節が表示される。これがなんとも、日本人には分かりにくい要素ではあるのだが、憎い演出でもある。カラー作品なのだが、なぜか暗いモノトーン調の画面に引き寄せられてしまう。パリ暗黒街の無秩序な抗争と無口なドロンの演技とが相まって、ミステリータッチの映画に仕上がっている。ドロンのトレンチコート姿がカッコよく、この映画に感化され、トレンチコートを着飾り街中をかっ歩した気恥ずかしい思い出がよみがえる。
三作目の「地下室のメロディー」は、ドロンが大御所ジャンギャバンと初の共演作だったはず。御大が奏でる雰囲気と圧倒感に、ドロンもやや押され気味になるが、「使い走り」的役でも見事に熟す。さすがにドロンの役者魂には敬服の一言。その身軽さを駆使した女性を口説き落とすテクニックは、彼だけにさまになる。なによりも新鮮な感覚のテーマ曲が映画の魅力を際立たせている。そして、あのラストシーンの結末も、ドロン映画の真骨頂と言えるのではないか。
昭和30年代から40年代にかけ、洋画界を席巻し、輝き続けたあのようなスターにいま出合うことはない。

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