突然の解雇につながる転職時に気をつけるべき盲点
先週、また嫌なメールが届いた。
"Employee A no longer works for our company as of today."
ひとりの同僚が突然のクビを宣告され、会社を去ったのだ。
超ジョブ型雇用のアメリカの会社で働いていると、昨日まで、あるいは今日のほんの数時間前まで一緒に働き、明日も、明後日も、今後数年一緒に働くと思ってた同僚が突然会社を去ることがある。自分自身も当事者になったことがあり、ジョブ型雇用の厳しさを痛烈に感じる瞬間だ。
特に転職後数ヶ月が要注意だ。解雇された当人も解雇した会社も痛手を負う最悪の結末だ。
転職が当たり前のアメリカでもCV(履歴書)に数ヶ月しか働いてない職歴があると、必ずと言っていいほど「なぜA社には数ヶ月しか在籍せず、転職したのですか?」と聞かれる。採用担当からしたら何か問題を起こしたのではと心配になるのは当然である。今後の転職活動の障害になってしまう経歴にもなりかねない。
そんな同僚が突然解雇された週に、新たな採用候補者をインタヴューする機会もあった。自分の部署ではないが、自分の部署と並列する運命共同体のような部署での新たなポジションなので、インタヴューアーのひとりとなった。同僚が突然解雇された翌日だったので、とても複雑な気持ちになった。ただ、人員を補えばよいなんて安易なものではない。ひとりの人生に大きな影響を与えてしまうとてつもなく重要な行為だ。
悲劇を産まないために、転職時の盲点を把握しておくことが大切だと思った。
突然の解雇の理由
突然の解雇は、以下の2つの理由で起こることがほとんどだ。
1.本当にパフォーマンスが悪かった場合
2.上司やトップマネージメントと修復不可能な軋轢を生んでしまった場合
この2つの理由での突然の解雇を避けるためには、以下の3つの盲点に気をつけるべきだ。
転職時の3つの盲点
盲点1 今の自分でなく将来の希望の自分で転職してしまう
超ジョブ型雇用のアメリカでは、CV(履歴書・職務経歴書)に、これまで働いてきた会社名と役職を書くだけで採用に至ることはまずない。それぞれの職場でどんなふうに働き、どんなことを成し遂げてきたかを具体的に書かないと、採用側には響かない。同時にCVの書き方には自由度があり、本当に自分が成し遂げた以上のことを大げさに書くこともできてしまう。悪い言い方をすると職歴偽証の詐欺ができる。
転職時には、個別のインタヴュー以外に、これまでの実績を1時間程度のプレゼンにして大勢の前で発表することが求められることも多い。その際にも、本人は大きなプロジェクトの中のひとりに過ぎないのに、あたかも自分の力のみで達成したプロジェクトのように発表してしまうこともできる。特にすでに前の会社を辞めていたりして、一刻も早く転職を決めたい場合、背伸びして自分を高く売ってしまいがちだ。今の自分を素直に見せるのではなく、応募したポジションに書かれている必要十分条件に合わせて、将来の希望の自分像を演じてしまうのだ。
もちろん採用する側のインタヴューアーはそんなことがないように厳しく候補者の実績・能力を確認するが、たった30分の個別インタヴューでそれを十分成し遂げるのはかなり難しい。
ただし、本来の自分以上に背伸びして偽った自分像で成功させた転職では、すぐに悲劇が待っている。すぐにあらが出て、「1.本当にパフォーマンスが悪かった場合」の解雇となる。
盲点2 職務に注力しすぎて、会社文化・人間関係を疎かにする
僕の経験では、「1.本当にパフォーマンスが悪かった場合」よりも
「2.上司やその他の重要なマネージメントと修復不可能な軋轢を生んでしまった場合」の突然の解雇の方がずっと多いと感じる。
転職時には誰もが早く結果を出して、仲間やプロジェクトチームや会社に貢献して、仲間からの信頼を勝ち得たいと思う。早く貢献したいと焦って、自分の任務、職務、プロジェクトなどのハードの部分のみに集中しがちである。特にこれまで成功実績があればあるほど、過去の成功体験や実績を持ち出して、プロジェクトに貢献しようとする。致命的な盲点となりがちなのは、ハードの部分のみに集中しすぎて、転職先の人間関係、会社文化、政治力学などのソフトの部分を疎かにしてしまうことだ。
張り切りすぎてこれをやってしまうと、悲劇が待っている。どの会社にも固有の人間関係、会社文化、政治力学がある。前の会社の基準で、それらのソフト面を安易に考えて、ハード面のみに注力すると、プロジェクトに貢献するどころか、背景も分からないままプロジェクトをいたずらにかき回し、混乱を招いていることになってしまう。こうした挙げ句に、上司やトップマネージメントと修復不可能な軋轢を生んでしまうと、本当に悲惨だ。本当は実力・能力は充分あるのに、最悪の場合は、プロジェクトにも貢献できず、パフォーマンスが悪くて解雇になったように捉えられてしまう。
逆に、人間関係、会社文化などのソフトの部分に慎重になり過ぎて、本来の任務でリスクを取らずに思い切ったパフォーマンスが出せなければ、それはそれで本末転倒になってしまう。なので、ハードとソフトの面をバランスよく進めていくのが転職を成功させるためには極めて重要だが、同時にそれが超難しいことでもある。
盲点3 仕事に集中しすぎて、体調を疎かにする
前回の転職で、僕はこの失敗をした。前回の転職では、僕は早く転職先に馴染むことに焦っていた。同時に自信喪失に陥っていた。なぜなら、自分自身が半分クビを宣告され、前前社を去った後での転職だったからだ。この転職で東海岸から西海岸のカリフォルニアに移ることになった。東海岸に妻を残し、半年間ひとりで過ごすことにした。前の会社を半分クビのような形で去ることになり、転職先で本当に自分が通用するかどうか?全く自信がなかった。そのため、ひとりでカリフォルニアに移り、クレイグリストで見つけた一軒家の一部屋を間借りして、本当にクビにならずに仕事を続けていけるか半年間様子を見ることにしたのだ。
間借りした家のご夫婦は僕より10歳くらい年上でとても親切だった。でも、内向的な僕は、他人と同居することはとてもストレスだった。できるだけ間借りした家にはいないように、早朝、まだご夫婦が起きてこない時間にキッチンでトーストだけを焼いて食べて、すぐに会社に行き、夜は会社でシリアルを食べて、間借りする家には寝るだけのために帰った。
ほとんど炭水化物のみの不健康な食生活と仕事のみの日々で、特に体のどこかに痛みがあるとかの明らかな異常はないが、心身ともに超不健全だった。そんな不健全な状態で目覚ましいパフォーマンスが発揮できるわけもなく、僕の転職後最初の半年間は不完全燃焼に終わった。とてもラッキーなことに上司にはとても恵まれ、その後僕は自身を取り戻し、この会社で10年とても楽しく仕事ができたのが不幸中の幸いだった。ただ、もし僕が仕事だけでなく、自分のプライベート、特に体調管理にも気をつけていたら、転職後もっともっと良いスタートダッシュが切れただろう。
失敗してもこの世の終わりではない
ここまで転職失敗に繋がりかねない転職後の3つの盲点について挙げてみた。今後も転職するかもしれない自分への戒め、また、転職先としてアプローチしてくる若者を評価・採用する立場の自分への戒めとして考えてみた。
パフォーマンスが悪いと評価されて、あるいは人間関係の軋轢で会社を去ることになるのは、本当に厳しい試練で、短期的に見れば大きな大きな失敗と捉えられるものだ。でも、そんな失敗でも、この世の終わりのようなものでは全然ない。長期的に見れば、人生の糧とさえなり得る。
僕は、昨年転職した際に、過去にクビ同然で会社を去ったことがあることを積極的にオープンにした。その上で、その失敗経験でどんなことを学んだか、その失敗経験から、今回の転職では、会社のどのような面を注視して転職活動しているのかを伝えた。
過去の転職失敗が、今の転職成功に繋がった。
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