
デシジョンを早くする超濃密ミーティング
僕はアメリカの製薬会社で働く日本人研究者です。プロジェクトを進める中では、次に進むために明確なデシジョンを早急に行わなければならない場面がたくさんあります。僕が行っているデシジョンを早くする超濃密ミーティングを紹介します。
超濃密ミーティングのプロセス
DAIを決める
ある件についてデシジョンを行うミーティングを行うことをアナウンスしたら、参加者を3つの役割に分けて、責任を明確にします。
D (Decision Maker):提案し、最終的にデシジョンを行う責任者
A (Advisor):自分の専門分野・責任部署からデシジョンに必要なことを、Dに責任を持ってアドバイスするアドバイザー
I (Informed):デシジョンには責任を負わないが、最終的なデシジョンとその経緯を知る権利のあるプロジェクトのメンバー
DはPre-readを超明確に準備する
DはPre-read(事前に読んでおくべき資料)を超明確に準備する必要があります。通常はパワーポイントスライドでプレゼン用のスライドのように作成します。自分の提案とその理由を示し、ミーティングに参加するAが、それを見て的確なアドバイスができるようにしなければなりません。
大雑把に言うとキーメッセージは下記のようになります
私はAという提案でデシジョンをしたいと考えています。
その理由はX, Y, Zです。
それぞれの専門分野・責任部署から何か考慮する点はありますか?
異議なし(賛成)、一部修正・変更、反対など
特定の分野・部署に特別な質問がある場合、アドバイスを得たい場合は、その質問も記載
もっと乱暴に言うと「私の提案は~です。何か文句ありますか?」です。
Pre-readの最初のスライドにこのようなキーメッセージを示し、それ以降のスライドで、理由X, Y, Zを説明する十分な情報・データを入れます。
Pre-readは、通常はミーティングの2~3日、少なくとも1日前に参加者に送信します。大きなデシジョンになるほど、Aが十分な準備ができるよう早めに配布すべきでしょう。
AはPre-readを事前に読み込み、準備万全でミーティングに臨む
Aは、ミーティング前にPre-readを読み込み、自分の専門分野・責任部署の代表として的確な意見・アドバイスが言えるように準備万全でミーティングに臨まなければなりません。もし、都合が合わず、ミーティングに参加できないような場合は、自分の意見・アドバイスを責任を持って事前にDに伝えるか、代理人を立てます。
形式的なプレゼンなしにいきなりディスカッションに突入
超濃密ミーティングでは、形式的なプレゼンはしません。Dは、ミーティングの冒頭の数分だけで、ミーティングの主旨だけを伝えます。すべての参加者がPre-readを読み込み準備万全でいることを前提に、すぐにディスカッションに突入します。各専門分野・部署のAが、Dの提案に賛成か反対か? 提案の一部に変更や修正が必要か?などの意見を述べます。Dは、Aのアドバイスを元に最終デシジョンの落とし所に向かってディスカッションを導いていかなければなりません。
通常、ミーティングは30分、デシジョンの項目が多いと1時間の時もあります。
ミーティングの最後にDがデシジョンする
ミーティングの最後の5~10分間を予めキープしておき、そこでDは最終デシジョンと確認事項などを明確にします。特にAから出されたアドバイスで最初の提案に修正・変更の必要が生じたり、提案に反対意見が出た場合は、それによって生じたアクションアイテムなども明確に示す必要があります。
ミーティング直後に議事録を配布
ミーティング後、Dは、可能な限り早急に、最終デシジョンとそれに関わる重要項目(デシジョンに影響を与えたアドバイス、新たに生じたアクションアイテムなど)をごく簡潔にまとめた議事録を作成します。ディスカッションに関わったすべてのAに確認を求め、内容が正確なことを確認したら最終化してすべての関係者に配布します。
これでプロジェクトが次に進むためのデシジョンが得られたことになります。
成功の条件
超濃密ミーティングがうまく行くかどうかは、ひとえに参加者が自分の役割を理解し、責任を全うできるかどうかにかかっています。Dの準備したpre-readが不十分でミーティング中に内容の確認に時間が取られたり、Aがpre-readをしっかり読み込まないで準備不十分の状態でミーティングに臨み、pre-readにすでに書かれていることを質問したり、場当たり的なアドバイスしかできないようでは、超濃密ミーティングは成立しません。
ハイクォリティなPre-read
ミーティングが成功するかどうかは、Dが準備するPre-readのクォリティに大きく関わっています。自分が推したい提案とそれをサポートする理由がいかに明確に書かれているか?理由を後押しする情報・データが理路整然とまとめられているか?で、Aの意見・アドバイスも大きく関わってきます。
最も理想的な結末は、Pre-readだけですでに十分明確で、すべてのAが「異議なし」でミーティングがあっという間に終了してしまう場合です。場合によっては、Pre-readが明確すぎて、メールで配布した段階ですべてのAが満足し、「ミーティングの必要なし」となることもあります。
逆に、Pre-readが隙だらけであれば、Aはツッコミを入れざるを得ません。
信頼関係
DがハイクォリティなPre-readを準備するためには、時として、事前根回しは必要です。Dは、キーとなるAに事前にコンタクトし、自分の提案を後押しする理由・情報をもらい、提案やpre-readのクォリティをさらに上げることができます。実際のミーティングでは、Pre-readのオリジナル提案からの修正・変更点が少なければ少ないほど、Dはディスカッションを進めやすくなり、デシジョンも簡単になります。Aとしてもより自分の責任が全うしやすくなり、Win-Winの関係が構築できます。その意味では、部署間で信頼関係が十分構築されている会社風土が必須条件であり、部署間で仲が悪く、お互い足を引っ張り合って情報提供を拒むような職場では、成立できなミーティングかもしれません。
劇薬オプションを入れる
いくつかのオプション(選択肢)が考えられ、部署間で利害関係が異なり、どのオプションを取るかの意見が分かれそうな時、僕はあえて劇薬オプションを入れて、ディスカッションを進めやすくしています。
最近、ある重要プロジェクトで、僕がDとなり、次に行う安全性試験プランのデシジョンをする機会がありました。僕は、大胆に検査項目を削り、試験期間を短くした「超簡素化プラン」を提案しました。当然「簡素化したら、リスクが大きくなるじゃないか!」という意見が予測されます。そこで自分の提案をする際に、別の2つの極端なオプション(劇薬オプションと呼んでます)も入れました。ひとつは、超簡素化プランの真逆の「超慎重お高くつくプラン」、もうひとつは「リスクがあるからプロジェクトやめちゃおうプラン」。
「超慎重お高くつくプラン」で、いくら慎重に項目を充実させても、リスクは完全には消えない。慎重に進めることで、失う時間と新たに発生するコストと、そこから得られるリスク低減のレベルを天秤にかけて、提案する「超簡素化プラン」と比較し易くなります。
「リスクがあるからプロジェクトやめちゃおうプラン」では、今あるリスクは、本当にこの魅力あるプロジェクトを中止してもよいほど手に負えない大きいものかどうかを確認し、リスクだけに議論が傾くディスカッションを軌道修正できます。
ミーティング時間内に議論をまとめ上げ、明確なデシジョンを得るために、Dは、このような戦略を練る必要があるのです。
超濃密ミーティングの長所
この超濃密ミーティングは、実務的、職場環境的、さらに教育的観点から見てすばらしいことがあります。
デシジョンが必ず得られる
実務的観点では、デシジョンが必ず得られて、プロジェクトを確実に次の段階に進められる点があげられます。
予め参加者にミーティングのゴール、役割責任を周知徹底するので、ミーティングはピリピリした真剣勝負との場となります。参加者がプロセスをしっかり守れば、必ず会議の最後にはデシジョンが得られます。曖昧な状態でミーティングを何回も繰り返すのに比べて、大きな時間の節約になります。
正当な評価がしやすい
どの会社にも、プロジェクトへの実質的な貢献は殆どしていないのに、ミーティングでは饒舌でたくさん発言し、存在感を示し、実際の貢献度や能力以上の評価を受けているような人はいるでしょう。しかし、超濃密ミーティングでは、そのような人は、その内容の無さがあぶり出され、生き残れません。本当にプロジェクトへの貢献を目的とした実質的な意見・アドバイスができ、責任を全うできる人が、正当に評価される場となります。
理想的な学習機会となる
経験の浅いジュニアレベルのメンバーを、DやAに抜擢する、あるいは、DやAの補佐を務めてもらうことにより、実務を通した経験・知識を積む最上の機会となります。特にジョブ型で自らで積極的にキャリアアップをしていかなければならない職場にいる若い人にとっては、格好の学習機会となります。仕事へのモチベーションの向上にもなるでしょう。最初からDやAに関わらせるのがあまりにも大きな負担になる場合は、Iとしてミーティングに参加するだけでも、キャリアアップを真剣に考えている人だったら、貴重な学習機会と捉えてくれるでしょう。何よりもプロフェッショナル意識を高めることに繋がります。
まとめ
超濃密ミーティングは、とてもエネルギーを要し、ある意味大変ストレスフルでもあるので、頻繁に行えるものではありません。マネージメントが、ミーティングをハシゴして、働く時間の大部分を使っているような環境ですと、取り入れるのは難しいかもしれません。しかし、本当に重要な意思決定を確実に行いたい時には、強力なものとなります。