アメリカで5回の転職を経験し、変わっていった転職の考え方
僕は今年でアメリカで20年働いたことになる。その20年間に5回の転職を経験した。今、5度目の転職の真っ只中。最初の3回は何とか自分を拾ってもらおうと余裕もなく必死だった。その後の2回は超楽しかった。転職慣れしたからというのもあるが、もっと早くから知っておけばよかったことがあった。
アメリカでの転職の流れ
リクルーターから話を持ち掛けられるか、自らでジョブサーチして転職活動が始まる。最近は、リクルーターを介さずにLinkedIn、Indeedなどのジョブサーチサイトや応募したい会社のホームページからOpen Positionを見つけ、本人が直接応募するものが多くなった。本人の直接応募のみ可で、リクルーターお断りとなっているものも多い。応募する際には、自分の履歴書 (Curriculum Vitae, CV) と、簡単なカバーレターをアップロードする。自分のCVに書かれている内容が、ターゲットとするOpen Positionの必要事項をいかに満たしているかがカギだ。
候補に選考されると、Talent AcquisitionとかHuman Resourceと呼ばれる採用担当の部署の人から最初のインタビューをしたいとメールが来る。会社にもよるが、この段階では、ビデオ面談よりも声だけの電話インタビューの場合が多い。通常30分以内に終わる。この段階で、採用条件の基本的なことが確認される。
採用されたらいつから働けるか?
移動が伴う場合は、リロケーションは可能なのか? あるいは、リモートで働くことを考えているのか?
米国市民権・永住権を持っていてビザのサポートの必要はないか? それとも、ビザのサポートが必要か? (ビザのサポートを考慮してくれる会社[とくに大企業]も多いので永住権を持っていない日本人にはチャンス)
現在の年収はいくらか? Open Positionに予定年収レンジが書かれている場合、それでOKしているか?
リクルーターを介して転職活動をする場合は、上記の採用担当との話し合いをリクルーターが代行してくれる。なので、相性がよく、きめ細かくよく働いてくれる優秀なリクルーターだと、リクルーターを使うメリットはある。
採用担当との電話インタビューで候補に残ると、いよいよHiring Managerとのインタビューとなる。もし、その会社に入った場合、自分の直属上司となる人だ。ほとんどの場合、45分から1時間、ZoomやMicrosoft Teamなどのビデオ面談となる。
Hiring Managerにも気に入られ、最終候補に残ると、さらに複数の人(5~10人)とそれぞれ30~45分の個別ビデオ面談をする。小さな会社で、自分と同じ仕事をする人が限られている場合は、さまざまな別の部署の人と話をすることになる。大きな会社で、自分が入る部署にたくさんの人がいる場合、その部署内の複数の人とインタビューすることが多い。それぞれの会社のやり方で、その会社の文化や雰囲気が分かるから面白い。
インタビューに加えて、僕のような専門職の場合、自分のこれまでの成果をセミナーとしてプレゼンすることが求められる。通常、1時間。インタビューを担当した人やそれ以外の人が傍聴者となり、45分程度のプレゼンをして、その後に15分程度の質疑応答をする。
これらの行程をすべてビデオでリモートで行うことが多くなった。でも、会社によっては、さらに実際の会社に訪問することを求められる場合もある。その場合、飛行機や宿泊などの旅費はすべて採用側の会社が持ってくれる。
いよいよオファーレターを出したいとなると、リファレンスチェックを求められる。過去に一緒に働いた直属上司や同僚で、自分をサポートしてくれる3~4人を紹介する。通常、Hiring Managerが紹介されたリファレンスに電話して、僕の経歴にうそがないか?確認する。同時に博士号・資格などの証明書なども提出する。
最後は、もう一度採用担当と、ドラフトオファーレターを見ながら、いつから働くか、給料、インセンティブ、ベネフィット、(移動がある場合)リロケーションなどの条件を確認する。最終合意に至ったら、オファーレターにサインして、転職が完了する。
転職活動でもっと早くから知っておけばよかったこと
1.対等なゲームと考えていい
最初の3回の転職はとにかく心に余裕がなかった。転職の経験が浅かったこともあるが、状況も切羽詰まっていた。
1回目:任期終了で日本帰国か、アメリカに残れるかが転職にかかっていた
2回目:レイオフされ、次の職を早く見つけなければならなくなった
3回目:上司と合わず、次が決まっていないうちに会社を去ってしまった
こんな状況もあって、とにかく自分を売り込まなければならない。自分の強みだけを見せて、弱みはできるだけ隠さなければならない。どんな条件でもいいからとにかく拾ってもらいたい。
ところが自分も年を食って採用する側に立つ機会も経験すると、雇う側もかなり必死になっていることが分かった。
候補者は、複数の会社にアプローチしているかもしれない。有力な候補者がいたら、別の会社に決めてしまわないうちに早急に採用を進めなければならない。有力な候補者がうちの会社を選んでくれるように、うちの会社に入ってくれれば、どんな良いことがあるかを説明しなければならない。
採用する会社側の立場に立って考えてみると、採用する側もかなり必死なのだ。
インタビューの際は、相手の突込みに乗ってみるのも面白い。例えば、僕のCVを見て、「我が社に入った場合、Aという仕事が発生しますが、Aの経験がありませんよね? 大丈夫ですか? やっていく自信はありますか?」などと突っ込まれた場合。あえて、それに乗ってみる。「なるほど。Aの仕事は本当に重要なんですね? 実際のAの経験がないことはかなり懸念されるのですね? 僕はB, Cの経験があれば十分にAの仕事にも応用できると考えてましたが、考えが甘かったかもしれません。貴重なアドバイスありがとうございます。もっと慎重に考えてみます。」などと。すると結構、相手側から「いえいえ、B, Cの経験があれば、Aなんて十分こなせると思いますよ。安心してください。」などと慌てて歩み寄ってきたりもするから面白い。
あえて失敗・挫折・欠点を話す
冷静に考えれば当たり前だが、失敗も挫折も経験したことがない非の打ち所がない完璧な人間なんて存在しない。失敗、挫折、欠点も隠す必要はない、むしろ積極的に開示し、それらは貴重な経験・学びと捉えればよいと考えるようになった。
僕のCVには、6か月の不自然な空白期間がある。上司とうまく人間関係が作れず、次の仕事が決まっていないうちに会社を逃げ出した。次の職を見つけるまでに6か月かかった。インタビューの際、その部分を指摘されることがある。「B社からA社に移る間、6か月間コンサルタントとなってますが、何があったんですか?」
以前の僕はその質問を受けるのにビクビクしていた。どう取り繕えばいいのか、しどろもどろになっていた。しかし、これを堂々と自分の失敗・挫折で、それが今の自分の貴重な経験・学びになっているというと、逆にポジティブなアピールになることに気づいた。
今ではインタビューの際、CVを見て空白の6か月間を指摘されると、待ってました!とばかり、堂々と説明できるようになった。
「僕は失敗したんです。僕にとってとても大きな挫折でした。これまでずっと日本企業で働いてきた僕の初めての純アメリカ企業への挑戦でした。僕はそれまでの経験でプロジェクト業務さえ、きちんとこなしていけば、楽勝だと甘く見積もっていました。はじめてのアメリカ企業なのに、会社文化・人間関係の構築といったソフトな部分を無視してしまっていました。そのため、直属上司との人間関係が最悪となり、次の職が決まっていないにも関わらず、会社を逃げ出してしまったのです。とても辛い失敗でしたが、そのおかげで今の自分があるとも言えます。次の会社では、その部分をとても大切にし、上司や同僚たちととても良い人間関係を築くことができ、プロジェクトの大成功にもつながったのです。」
2.転職活動の途方もないベネフィットを把握する
転職を本気で考えていなくても、転職活動には価値がある。ちまたでは、自分の価値を客観的に把握できる;業界状況が俯瞰できる;視野が広がる;などのベネフィットがあると言われる。でも、僕はそんな程度ではない、もっと途方もないベネフィットがあると思う。高いお金を払って参加する自己啓発セミナーの何倍もの威力がある次元上昇の機会なのではとも思える。
ジョブインタヴューは、自分の業界にいる兵どもと1:1でできる貴重なカウンセリングとも捉えられる。しかも、無料だ。ひとつの会社の何名もの人と1対1で個別に話が聞けて、超貴重な一次情報がいただける。ハードな会社の機密情報なんて必要ない。それより、それぞれの人の仕事への考え方、会社文化・人間関係への適応の仕方、などのソフトな一次情報は超貴重だ。そして、自分の弱みなどを敢えて話してアドバイスを乞う。たくさんの人を巻き込んでこんな贅沢なことが堂々とできるのは転職活動をしている時くらいだろう。
自分がジョブインタヴューの一環としてセミナープレゼンテーションをやることになったら、それも超貴重な機会だ。オーディエンスは、自分のプレゼンに関心を持った人たちだけからできた超洗練された人たちだ。極上のフィードバックがもらえる。特にポジティブなフィードバックからは、普段の仕事とはまた異なる達成感や満足感が得られる。
転職後、すぐは無理だが、転職してから1年以上経過したら、この途方もないベネフィットを享受するためにも、実際に転職する気がなくても転職活動だけしてみるのもよいなと思った。少なくともリクルーターが面白いポジションを持ち掛けてきたら、耳を傾ける価値はありそうだ。
3.ソフト面(ケミストリー)重視
直属上司との人間関係の構築に失敗した経験を持つ僕は、1対1のジョブインタヴュー、特にHiring Managerとなる人とのインタビューで、相手とのケミストリー(相性)の直感を超重要視するようになった。きちんと言語化できなくてもいい、相手と話してみて、何かいい感じ、楽しい、ワクワクする、安心できるか? 逆に、何か違和感、ストレス、冷たさを感じるか? 顔、表情、話し方、話す速度、アクセント、ボディランゲージ、さまざまな要素が複雑に絡み合って相手とのケミストリーを感じるだろうから、とにかく自分の直感を大切にする。Hiring Managerとのインタビューでは、Hiring Managerは、実際に会社に入った場合の仕事内容、仕事の進め方、組織構成などを説明する。もちろんその説明内容も重要だが、それ以上に、自分への説明の仕方、接し方、言葉遣いなど、ソフトな部分を観察し、それに対する自分の直感に耳を傾けるのが重要だ。
どんなに魅力的な仕事内容でも、給料でも、待遇でも、この相手とのケミストリーで違和感を感じたら、慎重に判断せよ!が僕の転職活動での重要項目となっている。
まとめ
かつては、転職活動は、一方的に相手に選んでもらうもの、下手に出なければならないと考えていた。しかし、経験を重ね、転職活動はもっと楽しんでいいものと考えられるようになった。しかも、転職するしないに関わらず転職活動自体に底知れぬベネフィットがある。転職は、自分の人生に大きな影響をもたらす。そして転職が成功するかどうかには人間関係が大きく関わっている。だから、相手とのケミストリーに対する自分の直感を何よりも重視すべきだ。