個性的な犬、ダンゴムシと女子高生に執着する
私が子どものころ、我が家には一頭の犬がいて、名前をミームといった。
オスのシーズーで、目玉が出目金みたいに出っ張っていた。
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この犬が、散歩中、路傍の石をずらして下の湿った土を念入りに検分する。
ダンゴムシを探しているのだ。
見つけると何匹も口に含む。
口の中でダンゴムシがうごめく。
それがおもしろいらしい。
虫を監禁した口を固くとざし、上機嫌で家に持って帰ろうとする。
残念な趣味といわざるをえない。
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またメスの犬よりも、猫とか、人間の女性の方が好きだった。
野良猫が通りかかると、必ず「ウォォーン」というような、恋しがるような声をかける。
猫にはそんな声は通用しないから、全くの無駄骨だ。
犬のくせに人間もちゃんと雌雄の区別がついていて、さらに老若の区別もあった。
だから道行く女子高生などに「かわいい〜」とやられると、胸を張って誇らしげに愛想をふりまくし、なんならそのままついていこうとする。
男子高校生やお年を召した往年の女子は歯牙にもかけない。
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この犬を祖父母の家に連れて行った。
そこにはメスの柴がいて、好物のとうもろこしをとっておいて、期待のこもった眼差しでシーズーを見ている。
とうもろこしで誘って、仲良しになりたかったのだろう。
だが意気地なしのシーズーは傍目にもあきらかなうろたえようで、必死に柴犬から目を逸らしつづけていた。
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祖父母の家には親戚があつまっていて、まだ歩き始めたような小さい子もそこらを歩いていた。
柴犬には勝てないが、子どもには勝てると踏んだらしく、性悪なシーズーは子どもに喧嘩を売っていく。
子どもの前にテテテっと走っていき、後ろ足で立ち上がったと見るや子どもの両肩に前足をかけ、体重を乗せてぐいと押すのである。
まだ足腰のおぼつかない幼児はひっくり返り、驚いてわんわん泣く。
シーズーはご満悦の様子である。
私の親は犬が悪戯をするたびに叱りつけ、子どもとその親に平謝りしていた。
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ただ子ども軍団も負けてばかりはいない。
犬の予想以上に足腰のしっかりした子の場合、押されても踏みとどまる。
端から見るとお互い真剣な顔で相撲を取っているようで滑稽だ。
うちの犬は根性がないから、ちょっと押し合いになるとすぐ諦めてどっかに行ってしまう。
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性格の悪い人がいるように、性格の悪い犬もいる。
ヘンな趣味の人間がいるように、ヘンな趣味の犬もいる。
犬だけでなく、動物界全体がそんな感じで成り立っているのだ。