鉛筆派疾風録
最近好んで鉛筆を使っている。
そもそも学生の頃のわたしは鉛筆派だったのだ。
大学の前の文具屋で買った鉛筆を、これまた同じ文具屋で買ったボンナイフというのか、50円のずんぐりしたナイフで削って使っていた。
私は筆圧が強いので、シャーペンだと芯が折れてしまう。
だから鉛筆のほうが都合がよい。
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その大学生の時分、いつもの文具屋で鉛筆を買ったところ、それまでレジ横で文具屋のおばさんと喋っていたおじさんから声をかけられた。
グレーでいい感じのダブルのスーツを着ている。
「おや、君は鉛筆を使うんだね!」
文具屋のおばさんいわく、この偉いっぽい人は三菱鉛筆の部長さんだという。
「嬉しいねえ、若い子はみんな鉛筆なんて使わないと思っていたよ」
「ええ、僕は鉛筆派です。鉛筆が一番使いやすいです。コレで削るんですよ」
わたしはずんぐりナイフを出してみせた。
「うわー、こんなナイフまだあったんだ! わたしが子供の頃持ってたやつだよ!」
ますます喜ぶおじさん。
「本当に嬉しいなあ、これからも鉛筆を頼むね!!」
そう言っておじさんは三菱鉛筆のロゴが入ったかっこいい名刺をくれた。
以来、わたしは鉛筆派の中でも、三菱鉛筆派に属する。
おじさんに会うまで、トンボ鉛筆を常用していたのはないしょだ。
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鉛筆にもいろいろあるが、消しゴムがおしりについていたほうが使いやすい。
消したいときに、サッと消せる。
学生だと消す量が半端じゃないため、物足りないかもしれない。
が、大人のメモ書き程度ならあれで用が足りるというものだ。
わたしは大人になってはじめて尻消しゴムのよさに気づいた。
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今使っているのは三菱鉛筆の9852といい、消しゴムつきにありがちなチェダーチーズ色、胴体に銀の箔押しでMaster Writingと書いてある。
言葉の意味は分からんが、とにかくすごい自信だ。
鉛筆にはこういう大げさなところがあり、以前急場をしのぐべく100均で買った鉛筆にはGOLDEN SWORDと書いてあった。
これを見ると頭の中でRhapsodyのEmerald Swordが流れてくる。
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例のずんぐりナイフはなくしてしまったので、今は普通のカッターナイフで鉛筆を削っている。
技術がどんどん上達し、いまやわたしの鉛筆は機械で削ったよりも滑らかで、美しい。
今朝も仕事用の一本を削ったところ、日本刀の如き涼やかな切っ先に仕上がったので、会社で自慢して歩いた。
「見てくださいこの鉛筆。カッターで削ったんですよ。美しいでしょう?」
みんなわたしを憐れみ、「鉛筆削りを買ってあげましょうか?」と声をかけてくる人までいる。
失敬な、と思った次第。