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人間もどきはいい感じの部屋の夢を見るか

家のない友人がいた。
その人は会社で寝泊まりしていたのだった。
奇人である。

そんな友人が、ついにアパートを借りたという。
私は遊びに行った。

部屋にはなにもなかった。
毛布が丸くなって、部屋の隅にあるだけだった。
友人の曰く寝床であるという。
私は毛布を見ながら、率直な感想を言った。

「なんだか、鳥の巣みたいだな…」

鳥の巣を尻目に、酒を飲んだ。
以下余談ながら、面倒を嫌う我らの飲料はスコッチウイスキー、飲み方はストレートと決まっていた。
RTDは空き缶が大量に出るからね。

ところが友人は会社で謎の薫陶を受けた。
以来、ウイスキーは日本のが最高とのたまい出した。
さらにウイスキーよりワイン好きになってしまった。
ワインを常飲していい男は武豊とGACKTだけだとあれほど言ってあったのに。
深刻な裏切りである。

飲みながら、部屋をアップデートしようという話になった。
鳥の巣からいい感じの人間の巣をひとつ生み出してやろうではないか。
気宇壮大な試みである。

しかし部屋のヤバさについては、私も人後に落ちない。
私の部屋はすな砂漠のような趣がある。
狭小ワンルームなのに、ものがなさすぎて広く感じるという体たらくだ。

こと部屋関連の感性について、我々はあきらかな人間もどきであった。
フォークト=カンプフ感情移入度測定法を実施するまでもない。
作業は困難が予想された。

さて、結果からいうと、我々はカーテンを購入したのである。
なんとなれば、カーテンこそが、人間をして部屋を人間の住処とみなす目印となるからだ。
カーテンがかかっていれば、そこはいい感じの住居となる。
部屋感受性の極端に低い我々が至った結論は、カーテンであった。

ニトリで灰色のカーテンと激安パイプベッドを購入した。
ベッドは友人の生活の質を上げるためのもので、部屋のアップデートとはあまり関係ない。
しかし枯れ木も山の賑わいという。
ベッドのために部屋の人間味が増す可能性は高い。
買ったベッドの箱の上にカーテンの包みを乗せ、それを前後から抱えて、我々は片道2kmの家路を急いだ。

カーテンとベッドを設置した部屋は、見違えるようになった。
これはもう、だれがどうみても立派な独身男の部屋である。
私は深い満足を表明した。
友人もまんざらでない様子だった。

しかし、何事にも客観的な評価が必要である。
我々は第三者機関による部屋の人間味調査を依頼することにした。
共通の知人を友人宅に招き、率直な感想を求めたのだった。

「部屋に家具入れたんだって? 
ん、なにもないね。
あとから届くのかな…?」

これが第三者の意見だった。
革命未だならず。
道のりは険しい。

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