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アプリを規制してくれ、人類が滅びる前に
引っ越しをすることになった。
電気だのガスだのの停止だの開始だのの手続きが必要である。
昔に比べて本当に面倒くさくなった。
以前であれば窓口に電話をして、要件を伝えれば万事平和に片付いたものだ。
しかし今では何事もスマホのアプリを入れてそこから手続きしろといわれる。
ひどいものだと、電話をかけてもすぐにつながらず、
「実は今たてこんでてすぐ電話に出れないんですが、アプリでもできますよ、かんたんですよ、ご案内のショートメール送っていいですか」
などというおせっかいな機械音声が流れる。
よしてくれ、アプリなんぞまっぴらごめんだ。
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一回しか使わないアプリを入れて、会員登録をして、今後メールを送信しますのチェックを外して、停止の手続きをして、アプリをアンインストールする。
ウルトラミラクル不毛である。
しかも「今後メールを送信します」チェックをちゃんと外さないと、罰ゲームのごとく営業メールをエンドレス受信する羽目に陥る。
営業メールが来るようになってしまったら、またアプリをインストールして、忘れた会員IDとパスワードを再取得して、マイページからメール送りますチェックを外すなどの地獄作業が待っている。
大きな会社だとセキュリティがどうたらで、新しい会員IDとパスワードを郵送で送ってくる場合もある。
郵送物が届くのを待ってから、チェック外し作業が開始される。
郵送物が届くまでは、つねにそのことを念頭に置いていなければならない。
メモろうがリマインダー設定しようが忘れるに決まっているからだ。
ずっと郵送物とチェック外し作業のことを考えているから、その間の私は廃人同然になってしまう。
私はそんなことはしたくない。
よって機械音声が「ただいま大変混み合っています」というのも構わず電話を鳴らし続け、電話で手続きをするものである。
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だが、そんな私もついにアプリに膝を屈する時が来た。
ガスの開始の電話をしたところ、支払いを振込用紙以外にするにはアプリからご登録してください、振込用紙のままだと毎月手数料としてウン百円いただきますと仰せである。
昔は紙でできたじゃないか。
私は結局先程までの決意を曲げてアプリをインストール、会員登録とクレカの登録をした。
メール云々のチェックはちゃんと外しただろうか。
もう覚えていない。
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我々がアプリから逃れることはできないのだ。
椎名誠が「アドバード」で広告が猖獗を極めたせいで滅びた街を描いたように、すでに誰かが「アプリバード」を書いているに違いないのである。
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