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情報処理システムとしての生物システム

私は個人研究として生命の起源について考えていますが、専門はソフトウェアシステム開発です。

ソフトウェアシステムは、情報処理システムと呼ばれることもありますが、情報というキーワードで考えると興味深い点があります。それは、ソフトウェアが処理する対象であるデータは情報ですが、ソフトウェア自体も情報であり、処理中の内部状態もまた情報である、という点です。

そして、生物もまた、考えてみると情報処理システムとしての側面を持っています。

生物は環境に反応して自身の生存に有利な行動を取ります。これは、環境の情報を入力として受け取り、その情報を処理して、処理結果の情報を身体への指示として送る、という処理を実行していると考える事ができるためです。

また、生物は自分自身の身体の構造を維持しています。これは、正常な身体の構造を情報として記憶しており、現実の身体の構造とのズレが生じたら、情報に合わせて現実の身体をメンテナンスしていると解釈することができます。

そして、生物はこれらの情報を処理する仕組みとして機能し、身体の構造をプログラム、身体の状態を内部状態、環境を処理対象、という形で情報処理システムとして捉えることができるのです。

■ソフトウェアによる情報処理システム

例えば日々の売り上げを入力すると、月末に今月の売り上げが集計される、というシンプルな情報システムを考えてみます。

この情報システムに入力する日々の売上データと、最終的な月間売り上げデータは、もちろん情報です。

この計算を行うソフトウェアは、日々の売上データの入力を受け付ける処理、売上データを足し合わせる処理、足し合わせた結果を保存する処理、月末に結果を出力する処理、を実現します。これらの処理は、ソフトウェア内に書かれたコンピュータへの指示となるコマンドと、その順序構造によって実現されます。このコマンドには番号が振られており、一種のデータです。そのコマンドを構造化して集めたものがソフトウェアですので、ソフトウェアは情報と言えます。

かつ、このソフトウェアの処理の中で、内部で日々の売上データを足し合わせた中間的な集計値を保存しています。保存された集計値は、入力や出力、あるいはソフトウェアではありません。いわばシステムの内部状態です。この内部状態も情報です。

このように、情報処理システムは、情報(ソフトウェア)が情報(内部状態)を使って情報(処理対象)を処理するという関係にあります。

■構造情報

生物は時間が経つと自然に崩れてしまう身体を持っています。このため、身体の構造を情報として保持し、身体が情報とずれたら、身体を情報に合うように調整する機能を持っていることになります。

その観点からは、生物の成長は身体の構造情報の成長であり、生物の増殖は身体の構造情報の増殖と言えます。また、生物の進化は、生物の身体の進化であり、身体の構造情報の進化と言えます。

従って、生命システムを情報の観点から捉えると、身体の構造情報を維持、成長、増殖、進化させることができるシステムであると言えます。

■環境情報と身体の内部状態情報

生命システムが扱う情報は、身体の構造情報だけではありません。

生物は環境に応じて反応を変えることができます。反応は、身体の内部状態を変化させることを意味します。

従って、生物は環境の情報を受信し、身体の内部状態を変化させることになります。

これは身体の内部状態情報の変化とみなすことができます。身体の内部状態情報に合うように、生物は身体の状態を調整します。

これは、環境情報と現在の身体状態情報に応じて、身体状態情報を変化させる情報処理と言えます。

■ソフトウェアとしての身体の構造情報

生物の情報処理は、生物の身体の構造によって決まります。環境からどのような情報を受信する事ができるかも、身体の構造により決まります。

また、受信した環境情報と現在の身体の内部状態に応じて反応を決定することも、身体の構造が決めています。

さらに、決定した反応に従って変化させることができる身体の内部状態の種類や範囲や構造も、身体の構造によって決まります。

このように、身体の構造が情報処理を行う役割を果たしています。従って、身体の構造情報は、情報処理システムにおけるソフトウェアと言えます。

■環境情報への作用

身体の内部状態情報の変化は、身体の内部だけに影響するわけではありません。身体の内部状態には、身体の形状の変化も含まれるためです。

身体の形状の変化は、身体の内部から環境に向けて物質や熱や光のようなエネルギーを放出したり、身体を構成する物質から環境に存在する物質への運動量の伝達を伴います。

こうした物理的な作用を利用することで、身体の内部状態情報の変化を介して、環境情報を変化させることができます。

■身体の内部状態情報と環境情報の操作

単に身体の内部状態がパターンに従って反射的に変化し、それによって環境情報が変化し、それが結果的に生物にとって有利に働く、という場合もあります。むしろ原始的な情報処理システムとしての生物には、そうした偶発的な反応パターンが自然淘汰によって高度に蓄積しています。

一方で、情報処理システムが高度化することで、遺伝子に組み込まれていない状況でも、環境情報を集め、それに基づいて環境情報を操作し、自己の生存に有利にすることもできます。

環境情報の操作をするためには、身体の内部状態情報を適切に操作できる必要があります。適切に操作するためには、現在の身体の内部状態情報を情報処理システムが取得することができる必要があります。

情報処理システムとしての生物は、進化によって身体の内部状態情報と環境情報を操作する能力を獲得します。そして、その能力を進化によってさらに高めていきます。

■身体の構造情報の操作

一方で、身体の構造情報の制約により、この能力は制限を受けます。身体の内部状態情報は、身体の構造情報の範囲でしか操作できないためです。そして、身体の内部状態情報の操作能力の範囲でしか、環境情報を操作することができません。

このため、生物は進化の過程で、身体の構造情報を変化させ、身体の内部状態情報と環境情報の操作能力を向上させるようになります。

そして、情報処理システムとして進化することで、遺伝子による進化を経ることなく、身体の構造情報を変化させて、身体の内部状態情報と環境情報の操作能力を向上させることができるようにもなります。

さらに情報処理システムが進化すると、身体の構造情報を自分に有利になるように操作することもできるようになります。もちろんそのためには、身体の構造情報を情報処理システムが取得できるようにする必要があります。

■情報処理システムとしての最終形態

この段階が、情報処理システムとしての生物の大きな進化段階の中の最終形態と言えます。構造情報、内部状態情報、環境情報の3つそれぞれの情報に対して、現状の把握と操作の能力を持っているためです。

現状を把握して、構造情報、内部状態情報、環境情報のうち、どの情報がどのように変化すれば、自分の生存に有利であるかを判断するためには、高度な知能が必要です。単に変化させることができるのではなく、操作できるということは、少なくともこうした判断能力は不可欠です。

一方で、自分の身体の構造情報や内部状態情報、あるいは環境情報の全てを正確に操作できるような完全なシステムは存在するはずはありません。このため、操作できる情報が部分的であったり、失敗することがある、という点は、最終形態に達しているかどうかという条件とは無関係です。

範囲が部分的で成功率が低いとしても、構造情報、内部状態情報、環境情報の3つそれぞれの情報を、自分に有利になるように操作することができるなら、それは情報処理システムの最終形態に達していることになります。

■最終形態の特異性

この情報処理システムの最終形態に達しているかどうかの基準を満たしているかどうかは、重要です。

なぜなら、最終形態に達した情報処理システムは、自己改良が可能であるという事を意味するためです。内部状態情報や環境情報を操作することで、生存に対する有利性を高めることはできますが、構造情報を操作できる能力の効果は、次元が異なります。

的確に構造情報を操作できれば、内部状態情報や環境情報を操作する能力自体を向上させることができるためです。

■生物における情報処理システムの最終形態

人間は、この情報処理システムの最終形態に達しています。

これは、例えば肉体労働に従事する人が、単にその労働によって受動的に筋肉が強くなるというだけでなく、能動的に筋肉を鍛えるという例を考えればわかりやすいでしょう。

これは、筋肉を鍛えることで自分自身が有利になると判断し、その判断に従って身体の構造情報を操作していることを意味します。筋肉の鍛錬を身体の構造情報の操作と言うのは違和感があるかもしれませんが、自分の身体のあるべき姿をイメージし、そのイメージに向かって鍛錬することは、広い意味で操作と言えます。

■構造情報としての脳の神経回路

また、身体の構造情報は、筋肉だけではありません。脳の内部の神経回路も、身体の構造情報です。

脳の内部の神経回路は、筋肉やその他の身体の部位と同じように、身体の構造情報です。そして、生物は生存に有利になるように身体の構造情報を進化させてきましたが、その結果として、情報そのものを扱う事ができる身体の構造情報として、脳という部位を獲得したということです。

脳は長期記憶と短期記憶を持ちます。

脳の長期記憶は、身体の構造情報としての役割を果たします。獲得するためには筋肉のように反復や強い刺激が必要ですが、一度獲得すると長期間利用することができます。そして、長期記憶は、様々な環境情報を処理する際に繰り返し利用することができます。

一方で、短期記憶は、身体の内部状態情報としての役割を果たします。環境情報をすぐに内部状態として連続的に記憶することができ、それを活用して判断をして、身体の内部状態を操作や環境の操作ができます。しかし、すぐにその内部状態は消失してしまいます。

■構造情報としての長期記憶

長期記憶には、知識や経験、考え方や信念などが記憶されています。そして、筋肉と同じように、自分自身が有利になるように、これらを操作することができます。つまり、勉強して知識や考え方を身に付けたり、様々な体験を通して経験や信念を形成したりすることができます。

情報処理システムの最終形態は、自己改良を行える点で非常に強力であると説明しましたが、脳のこの能力はその最たる例です。

人間は、単に受動的に知識や経験、考え方や信念などを長期記憶して、自分に有利になるように生かすことももちろんできます。しかし、筋肉を鍛錬する場合と同じように、自ら能動的にこれらの能力が向上するように操作することもできます。

この能動性による操作は、より高くこれらの能力を向上させます。人間がこれだけの繁栄ができ、生存のための都市、技術、社会、文化を形成してきたのは、まさに長期記憶という構造情報を操作する能力によるものです。

■さいごに

このような枠組みで生物システムを捉えると、その機能や能力の進化を情報処理システムの観点から理解できるようになります。

この枠組みの利点は、脳の情報処理能力を、生物の進化の延長線上として捉えることができる点です。つまり、脳が持つ様々な性質を、生物の進化の観点から理解することができるわけです。これは例えば、感情や意識の意味を、情報処理システムの進化の文脈から理解できるようになるということです。

加えて、情報処理システムの質的な最終形態として、構造情報、内部状態情報、環境情報の操作能力の獲得という条件を見つけることができました。この条件を満たしているかどうかで、情報処理システムの質的なカテゴリが大きく変化するということが分かります。

これは、人工知能システムの質的な変化に対する明確な基準となります。

つまり、これまであいまいだった汎用人工知能(AGI)の基準として、情報処理システムの質的な最終形態を達成しているかどうかという判断基準を採用することが考えられるわけです。

この要件を達成していれば、自己改良を加える能力を人工知能が獲得したことが明確になります。このため、実用性と明確性という点で、一定の価値があると私は考えています。

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katoshi
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