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落下という自然な現象:相互落下の進化論

生命の起源について考える時、生物が非生物とは根本的に異なるという前提に立つと、自然に逆らって誕生したかのような印象を持ってしまいます。

しかし、生物と非生物には共通性があり、生物もまた自然の法則に従って誕生したと考えることができれば、生命の起源の謎を紐解いていくことができるというのが私の考えです。

そこで、相互落下という概念を中心に考えることを提案します。

相互落下とは、複数の要素がお互いに対して落下するような現象を指しています。物が落下することはごく当たり前の現象です。そして同程度の質量の物体同士であれば、相互に落下していくはずです。

パターン化された外乱が常時存在しているような環境下では、この相互落下という現象も様々なパターンを持つことができます。その中で、より安定することができる相互落下のパターンが持続的に残っていきます。これは、相互落下の自然選択、つまり進化を意味します。

相互落下はごく自然な現象であり、パターン化された外乱の中で進化することも自然な現象です。その結果として、無生物から生物が誕生したという説明ができれば、生物が自然法則に従って誕生したと言えるわけです。

■相互に落ちていく

まず、相互落下という現象について整理しておきましょう。

リンゴは地面に落ちていきます。水も高いところから低いところへ流れます。月は地球の周りを巡り、地球もまた太陽の周りを巡っています。これらも、落ち続けているようなものです。

全て、自然の法則に従っているだけです。ただ、重力により大きなものに対して小さなものが落ちていく現象です。

落下は通常、重力の作用を指す言葉ですが、重力に限らず力が働いて物体同士が低エネルギーになるような位置関係に向かって作用するという意味に拡張してもその意味合いは失われません。

ここで、分子を考えてみます。分子は原子が結合したものです。離れていた複数の原子が結合する際、相互に位置が近づき、やがて安定する位置関係に到達することで結合します。

これは、原子同士が相互に落下したと捉えることができるでしょう。これは原子同士に限らず、力が働き合うものであれば全ての物に現れる現象です。

■相互落下ネットワーク

これらの概念は、相互落下という現象に統合されます。 引力で引き合う物体同士は、エネルギーが最小化して安定するところまで移動します。これは落下と言えます。ただし、片方が他方に対して落下するのではなく、相互に落下する関係です。

より物理的な表現をするなら、相互落下はエネルギー的に安定するようにお互いの状態が変化することを指しています。これは、自然の法則に従っています。

そして、複数の物体は、相互落下のネットワークを形成します。多数の相互落下の関係を持つ物体は、相互落下ネットワークの中で、より安定した位置を保つことができます。

■恒常性、代謝、複製

相互落下ネットワークに外側から一時的に力が働いて、それぞれの物体の位置が変化したとしても、時間と共に元の位置に戻ります。これは相互落下ネットワークがある程度の恒常性を持っていることを意味します。

また、相互落下ネットワークの中で多数の相互落下の関係を持つ物体は、類似の物体が衝突した場合に、同じ位置でその物体と入れ替わることがあります。そのような入れ替わりが起きても、相互落下ネットワーク全体は維持されます。これは構成要素の代謝が可能だということです。

さらに、相互落下ネットワーク内で発生した変動は、ネットワークを伝わって全体に影響を及ぼします。これは周囲に同様の変化を及ぼし、その変化が広がっていくという点で、一種の精度の低い複製と見ることができます。

恒常性、代謝、複製という生物の性質として考えられているこれらの性質が、ごくシンプルな相互落下ネットワークに内在しているという点を、ここでは強調しておきます。

■パターンの伝播

局所的な配置や変動がパターンを持ち、そのパターンが周囲に伝播して類似のパターンが相互落下ネットワーク内で多数現れる場合もあります。これはより高い精度の複製です。

このように伝播する性質を持つ配置や変動のパターンは、相互落下ネットワーク内に単に広がっていくだけでなく、繰り返し反響し続けることになります。

配置や変動のパターンが反響し続けると、外部から一次的な力が加わって一部のパターンが崩れても、時間と共に復元されます。ここにも、恒常性があります。

また、構成要素の追加や入れ替えがあっても、これらのパターンは伝播するため、構成要素の代謝も可能です。

また、変動が反響し続けるためには外部からエネルギーが供給され続ける必要があります。また、変動パターンによって維持される配置のパターンも考えられますので、エネルギーの供給が途切れれば配置が崩れることもあります。したがって、反響し続けるパターンは、外部からエネルギーを受け取って代謝することが必要になります。逆に言えば、反響し続けているということはエネルギーを代謝しているということになります。

このように、相互落下ネットワーク内に現れる伝播するパターンは、そのパターン自体が恒常性、代謝、複製という性質を持ちます。

これらの配置や変動のパターンが反響し続けることで相互落下ネットワーク内に維持されると、さらにそこに新しい配置や変動パターンが現れるて伝播することもあります。このため、時間と共に相互落下ネットワーク内の配置や変動のパターンが積み重なって複雑化していく可能性があります。

■外部からの定常的な力

通常は、このような新しい配置や変動のパターンが次々と生み出されることはなく、相互落下ネットワークはある一定の状態に落ち着くと考えられます。

しかし定常的に外部からの力が加わることで、相互落下ネットワークが一定の状態に落ち着くことを阻害されるような場合には、新しい配置や変動のパターンが生み出される機会が得られます。

そのような外部からの力が様々なパターンを持っていれば、より様々な配置や変動のパターンが生みされる可能性が増えます。

そして、新しい配置や変動のパターンが生み出され、それが相互落下ネットワーク内に伝播して反響するということが積み重なると、相互落下ネットワーク自体が複雑に進化していくことになります。

つまり、外部からの定常的な力が加わることで、相互落下ネットワークは進化する性質も持つことになります。

また、外部からの定常的な力は、パターンが反響をし続けるためのエネルギー代謝の供給源にもなります。

■進化に適した相互落下ネットワーク

相互落下ネットワークは、必ずしも近接した物体同士だけで構成されるわけではありません。遠く離れていても、双方の物体が及ぼした影響が時間をかけて運搬され、それが双方のエネルギー状態を安定させるなら、相互落下は成立します。そこに影響を運搬する安定した経路があれば良いのです。

このため、広大な空間であっても安定的な経路で接続されていれば、それは大きな相互落下ネットワークと見なすことができます。

そして、物体の数や種類が多ければ多いほど、強固で安定した相互落下ネットワークを形成できる可能性が高まります。また、外部からの定常的な力の多様性や、相互落下ネットワーク内のクラスタやクラスタ間の経路の多様性は、新しい配置や変動のパターンが生み出される可能性を高めます。

また、鎖状に連結されるような相互落下をする物体は、物体の種類の多様性を生み出すのに有利です。なぜなら、連結という1種類の相互落下が繰り返されるだけで、鎖の長さは事実上無限に伸ばすことができ、その分だけ物体の多様性が広がっていくためです。

■地球環境の利点

これらの条件は、地球環境によく当てはまります。

まず、地球上の化学的な条件は、核酸やアミノ酸、脂肪酸や炭水化物など、ポリマーを形成することができる有機化合物によって有利です。ポリマーは先ほど説明した鎖状の物質に当てはまります。

地球は海だけでなく水や大気の循環を通して、文字通り地球規模の相互落下ネットワークを形成することができます。そこに存在する化学物質は、全て相互落下ネットワークの構成要素となります。

単に水や大気が循環して地球全体が接続されるだけでなく、局所的に化学物質が集積される湖や池が無数に存在し、クラスタの間は安定した河川が接続しています。これは先ほど述べたクラスタとクラスタ間の経路に相当します。

加えて、昼と夜、季節変動、クラスタ内の水の循環、地球全体の水と大気の循環などは、様々なパターンの外部からの定常的な力を生み出します。これも相互落下ネットワークの進化にとって非常に重要な要件です。

このように地球は、化学物質により構成される巨大な相互落下ネットワークを実現し、その進化に適した環境を提供しているのです。

■化学物質の生態系と生物

化学物質の相互落下ネットワークは、恒常性、代謝、複製、そして進化の性質を持っています。しかし、これは生物というよりも生態系として捉えた方が適切です。地球は、いわば化学物質の生態系を形成していたと考えられます。

そして、化学物質の生態系が相互落下ネットワークの原理に従って進化をした結果として、その内部に最初の単細胞生物が登場することになります。それが生命の起源だと考える事ができます。

そして、単細胞生物が化学物質の生態系の中で繁殖していったと考えられます。これは、配置と変動のパターンの伝播が反響し続けることと同じ構図です。そして、化学物質の生態系の上に、生物の生態系を形成していったことになります。

■さいごに

相互落下という自然現象に着目することで、無生物と生物の共通性を理解することができるようになります。そしてこの視点からは、無生物から生物が誕生することは大きな概念的な飛躍ではなく、むしろ複雑性が増加する環境が整うことで、エネルギーが低く安定した状態に自然に落ちていった結果として捉えることができるのです。

相互落下が興味深いのは、複雑なシステムを全体論的に捉えるのではなく、むしろ還元論的に分解して捉えることができるという点です。

従来の還元論は、複雑なシステムを物質や粒子などのエンティティに分解して理解しようとしますが、相互落下はエンティティ間の関係に分解している点が大きな違いです。しかし、分解することで精緻な分析が可能になると共に、相互落下による関係を組み立てて相互落下ネットワークとして捉えれば、全体の性質を捉えることもできます。

これは全体論的な議論が陥りがちな、全体は部分の合計以上であるという固定観念に挑戦します。部分をエンティティと理解すれば、この言説は成立します。しかし、部分に関係を含めると、全体は部分の合計に等しくなります。そこに全体特有の何かがあるのではなく、単に関係を部分に含めていなかったに過ぎません。

このことは、エンティティの数と関係の数を比較すると、より鮮明に理解できます。

エンティティが3つであれば関係は3つしかありませんが、エンティティが4つになると関係は6つ、エンティティが5つなら関係は10個、という具合に、関係の数はエンティティの二乗に比例して飛躍的に増加します。つまり、エンティティの数が大きなシステムを分析する際に関係を見落としていれば、全体に対してほとんど何も分析していないことと等しいのです。

もう一つ、相互落下が興味深い点は、コペルニクスの地動説、ニュートンの万有引力、アインシュタインの相対性理論、ダーウィンの進化論など、科学的なブレイクスルーを引き起こした考え方の転換と、概念的にリンクしている点です。

中心となるものを従来の視点から変える方が理解が容易になるという点、全ての物に等しく適用される力学法則、要素でなく関係性への着目、適応と自然淘汰という要素が、相互落下の概念に内包されています。

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katoshi
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