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好きな物を増やそう:積極的な生き方としてのアート鑑賞

美術館に行くのは、私の趣味の一つです。都会に住むことの大きなメリットの一つは、気軽に訪れることのできる美術館の多さだと思っています。

抽象画は、楽しむことが難しいジャンルだと思います。具体的な風景や人物を描いた具象画ではなく、丸や四角などを組み合わせたり、具体的な物に結び付かない模様やテクスチャがキャンバス全面に描かれているような絵です。芸術は難しくて良く分からないという人は、多くの場合、抽象画の事を念頭に置いていると思います。

自分なりに感じることが大事だという人がいますが、それができるのは感性豊かな人だけでしょう。抽象画をただ眺めていても、私は何も感じません。けれども、私は抽象画を楽しむことができます。コツがあるのです。

■抽象画を楽しむコツ

そのコツというのは、仮定する事、信じる事、好きになる事、です。

まず、その絵が、とても価値のある芸術であると頭の中で仮定します。ここが最初のステップです。

そして、その仮定を信じてみます。思い込んでみる、という言い方もできます。一見、何の意味もない絵に見えますが、そこには大きな価値があるのだと、真剣に信じてみるのです。

さらに、その絵を好きになってみます。好きになれるだろうかと考え、好きになるとしたらどういった部分だろうかと考えてみます。そう考えながら、じっと細部を見つめ、全体を観察します。向き合っているうちに、その形状や模様が、案外、嫌いではないかもしれないと、気づき始めます。

一見、のっぺりとして単なる図形に見えていたものが、洗練されたデザインに思えてきます。微妙な歪みの部分が、ワビ・サビのような味わいに感じられます。パターンやテクスチャに、心の安らぎやさざ波のようなものを感じるかもしれません。

そうした微かな気づき、あるいは自己暗示的な思い付きの芽を見つけたら、それを否定したり疑ったりせずに、受け入れてみます。そこをきっかけに、だんだんとその絵の価値を信じ、好きになるというループが回り始めます。

■積極的な鑑賞の価値

いつも上手く行くわけではありません。しかし、これに成功すると、もうその絵が私のお気に入りになります。この世界に、また一つ、自分の好きな物を生み出すことができました。

好きな物を増やすというのは、良いことです。自分で積極的に好きを見つけるのは楽しいことです。それに、好きな物が増えれば、生きることを楽しむ力も湧いてきます。

何もかも全てを博愛的に好きになる必要はありません。けれど、見過ごしていたものでも、自分で積極的に仮定して、信じてみる事で、好きになれる可能性があるのです。好きな物は、積極的に増やすことができます。誰もがお金を掛けずに手に入れることができる豊かさです。

これは抽象画だけに使えるコツではありません。

自分の部屋の壁を、じっと見つめてみて下さい。いつも使っているコップやペンに、とても価値があると仮定してみて下さい。いつも通る道から見える街並み、古びた信号機、新しくできたお店の看板、そうした日常の中に、好きになれるものがないか、探してみて下さい。

コツを掴めば、きっと色々なところに、好きになれるものが見つけられるはずです。誰にも言う必要はありませんから、恥ずかしがることは無いのです。自分の頭を働かせて、心を動かしてみる、ただそれだけです。うまく、注意力を働かせるのです。

オープンな心で積極的に、自分の周りの世界を見つめるのには、多少コツがいるでしょう。良い抽象画に出会うと、その手助けをしてもらえるかもしれません。そのコツを掴むことができれば、自分の頭と心の力で、豊かさを増やすことができるのです。

■補足:Attention Is All You Need

現在のチャットAIを支えている Transformer という技術は、2017年にVaswaniらの"Attention Is All You Need(必要なのは注意力だけ)" というタイトルの論文で提案されたそうです。

Transformer では、チャットAIが大量の文章を読んで言語や概念を学習するときに、文の中で注意を向けるべき言葉を仮定し、そこに重みづけをしながら学習するというテクニックです。これにより、飛躍的にAIの言語能力を向上させることができたのです。

私たちやチャットAIが言語を認知するTransformer の仕組みと、私たちが積極的に世界を肯定的に受け入れることができるという私のエッセイのアプローチには、注意力、という共通のキーワードがあります。

これは偶然の一致ではないと思います。概念の認識にも、意味の導出にも、価値観の形成にも、全て、注意力と仮定と信念が関与している事を意味していると、私は考えています。

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