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ループ中心モデルとシステム工学で紐解く生命の起源

私はシステムエンジニアの立場から、システム工学の考え方に基づいて生命の起源の探求を行っています。

その個人研究の一環として、ここ数日、処理ループのモデルを考えてきました。

この記事では、そのモデルの定義と、特性について整理します。そして、処理ループを中心としたモデルの観点から生命の起源について見つめなおすことで、生命の姿を浮き彫りにしていきます。

■処理ループの内側

まず、処理ループのモデルについて図1を使って説明します。

図1 処理ループのモデル例

1つの処理では、処理を行う触媒を利用して、インプットされた物質を変化させて別の物質をアウトプットします。そして、その処理からアウトプットされる物質は別の処理にインプットされます。これがチェーン状に繋がり、そのチェーンが一周することでループを形成します。

触媒から触媒へはリンクがあり、そのリンクを通って物質が移動します。ただし、リンク上で物質を移動させるためには、何らかの移動の仕組みが必要です。この移動の仕組みをキャリアと呼びます。キャリアはループ自身が生み出すこともできますし、既存の仕組みを外部キャリアとして利用することもできます。

また、触媒で物質を変化させる際には、エネルギーを必要とします。また、物質を移動させるキャリアにもエネルギーが必要です。

ループの外からエネルギーや物質が供給されることや、ループの外へエネルギーや物質が出て行くことがあります。なお、煩雑になるため本記事の図では全てエネルギーは省いて描いています。

なお、触媒も物質であるため、ループ内の処理のアウトプットや外部から取り込まれる物質の中には、触媒となる物も存在するケースがあります。

また、ループの内側に生成したアウトプットの物質を貯めておくことも可能です。この物質は必要に応じて分解されて、処理のインプットとして使用することができます。また、生成した際にエネルギーが貯められていた場合には、分解した際に貯まっていたエネルギーが放出されます。

■ループの組み込み

ループの外側から見ると、ループはエネルギーやインプットとなる物質を受け取ります。かつ、ループからは処理によって変化した物質が排出される場合があります。

従って、ループの外部からは、単にそのループは1つの触媒と同じように見えます。

このため、形成されたループは、触媒と同じように容易に他のループの中に組み入れることができます。

これをループの組み込みと呼ぶことにします。

図2にループの組み込みのイメージを示します。この図では、先ほどの図1で示したループAを、ループBが組み込んだケースを例示しています。

図2 処理ループの組み込み

既存のループを新しいループに組み込むことができるということは、全体のシステムとしては、段階的にループが増加していくという姿で捉えることができます。最初のループAが形成されると、Aを組み込んだBやCというループを形成することができます。そして、Bを組み込んだD、CとDを組み込んだEとF、という形でループが形成がされて連なっていくことも可能です。

■ループの置き換え

あるループAを基にループXが形成されている時、ループXとループAの接点を詳しく見ると、同じ触媒であったり、近い場所にある触媒である可能性があります。

かつ、その場合、その接点に対するインプットとアウトプットが、元のループAと、そこに形成されたループXとで、共通である場合があります。このような関係に2つのループがある時、何らかの原因でループAが機能しなくなり、ループXだけが機能し続けるようになる事が考えられます。

この時、Aが停止する前も、Aが停止した後にXだけが動いている時でも、接点となっていた最初の触媒から最後の触媒までの間は、同じように処理の連鎖が継続します。

これは、ループAのその区間の内側を接点としていた別のループBから見ると、ループAが機能しなくなった後も、ループXに置き換わる形となるように見えます。こうして、元々はループAから派生してループAに依存していたループBが、ループAがいなくなっても消失せずに処理し続けることができるということを意味します。

これをループの置き換えと呼ぶことにします。図3に、ループの置き換え後のイメージを示します。先ほどの図2と比べると、ループAの代わりにループXがループBに組み込まれた形になっています。

図3 処理ループの置き換え

■ループの進化

ループの依存関係の途中にあるループBに着目した時、ループBを組み込む形で新しいループCが形成されることもあれば、ループBが組み込んでいるループAがループXに置き換わることもあるということです。これは、依存関係のどちらの方向にも、新しいループが形成され得るということを意味します。

処理ループは、場合によって自己強化的なフィードバックループとなり得ます。処理ループの結果、触媒の数が増強されて処理能力や耐障害性が向上したり、元の状態よりも多くのインプットやエネルギーが獲得できるようになったりする形で、自己強化可能なループが存在し得るのです。

自己強化的なフィードバックループが存在するため、より処理能力や耐障害性が高いループが、自然淘汰的に残り続けることになります。そして、新しいループが形成されたり、障害性の低いループが破壊されたりすることを繰り返すうちに、個々のループは進化していき、システム全体としても効率的で障害性が高いループの集合として発展していきます。

この時、障害性の低いループが破壊されても、ループの置き換えによって依存関係にあるループ群が破壊されないというのは、このシステムの大きなメリットです。基本的ループの上に形成されたループ群の進化が、無駄にならずに継続されやすいためです。

■システム開発との対比

このループの置き換えは、ソフトウェア開発やシステム開発の世界における、リファクタリングを思い起こさせます。リファクタリングは、既存の機能を破壊せずに維持しながら、システムの効率や性能や新機能の追加を行う手法です。ループの置き換えも、このリファクタリングと同じように、あるループに依存している他のループを存続させたまま、効率化や機能拡張を可能にします。

また、ループの組み込みは、ソフトウェア開発やシステム開発の世界におけるインテグレーションです。既存のソフトウェアやシステムが外部に向けて提供しているインターフェースが用意されている場合、別のシステムがその機能を利用することが可能です。このようにインターフェースを提供しているシステムと、それを利用するシステムを結び付けることが、システムのインテグレーションです。インテグレーションにより既存のシステムを活用することで、一から全てを作ることなく効率的により高度な機能を実現することが可能になります。

システム開発におけるリファクタリングとインテグレーションの効用は、ループの進化における置き換えと組み込みにも当てはまります。そのように考えると、人間が考え出したソフトウェアシステム開発のベストプラクティスが、処理ループの集合体のようなシステムにも、同じように適用できるということが良く理解できます。

■依存関係の循環構造による処理ループ群の独立

複数のループが依存関係を構成し、かつ、ループの置き換えが可能ということは、ループの依存関係も循環構造を持ち得るということを意味します。

初めにループAが形成され、それを組み込んだループBが形成され、さらにループC、ループDと依存関係が連鎖しているとします。この時、ループBから見て、ループDがループAの置き換えとして機能し得る場合が考えられます。こうなると、ループAを外すことで、ループB~ループDの依存関係が循環構造になります。

これをループの独立と呼ぶことにします。図4のStep1~Step3に、ループの独立のイメージを示します。

図4 処理ループの独立と外部キャリアからの自立

これにより、全てのループが最初のループAに依存していた状態から、それぞれのループ群が独立した状態へと遷移できることが分かります。このような依存関係の循環構造が次々と形成されていけば、互いに依存関係のない多種多様なループ群が存在できるようになります。

■外部キャリアからの自立

最初にループのモデルにおいて、キャリアを必要とすると説明しました。ループ内の各触媒間のリンク上で物質を運ぶ運搬手段がキャリアです。キャリアは外部の力を借りることもできますし、ループによって形成される物質の性質やエネルギーを用いて作り出すことも可能です。

初期のループでは、キャリアは外部の力を頼っていたとしても、そのループに依存して形成されたループでは、どこかでループ自体の力でキャリアを生み出すこともできるようになるでしょう。

そして、ループ群の依存関係が循環構造を持って独立している状態で、その全てのループ群が外部のキャリアに依存していない状態になった時、外部キャリアからの自立と表現することにします。

これを先ほどの図4のStep4に示しています。この図において、ループAとループBは外部キャリアに依存していますが、ループC, D, Eは自らキャリアを生み出しています。このため、Step4のようにループ群C, D, Eが循環構造を持って独立している時、同時にこのループ群は外部キャリアから自立していると言えます。

■プログラミングやソフトウェアシステムとの対比

キャリアの循環と処理ループは、どちらも循環ですが、前者は物理的な循環で、後者は意味論的な循環です。これはプログラミングの世界で言えばシンタックスとセマンティクスに当たります。また、ソフトウェアシステムの世界で言えば、物理構造と論理構造の違いに相当します。一般に、物理構造はハードウェア群、論理構造はソフトウェア群の設計のために行うものです。

しかし、システムの世界では、ハードウェアをソフトウェアで模擬する仮想化技術が進展したことで、この話に転換期が訪れました。仮想化技術を使うことで、物理構造もソフトウェアで定義して柔軟に変更可能にするという、ソフトウェアデファインドという概念とその応用技術が、近年急速に普及してきています。

通信ネットワークの構造を物理的な配線とは別に変更するソフトウェアデファインドネットワーク、サーバやストレージも含めたソフトウェアデファインドインフラストラクチャ、コネクテッドカーなどの自動車のシステムにおけるソフトウェアデファインドビークルなど、この考え方は多様な広がりを見せているのです。

キャリアの循環を、外部のキャリアに頼っていた段階から、ループ内部の仕組みとしてキャリアを生み出すようになるというのは、まさにソフトウェアデファインドの概念と対比すると良く理解できます。ループ自らが、物理構造を仮想的に模擬することで、外部のキャリアというハードウェアに依存せず、柔軟にキャリアの循環を形成することができます。

これにより、ループ群全体が、外部のキャリアの構造に縛られずに多種多様なサイズ、タイミング、分岐や合流の制御を行うことができます。まさに、ソフトウェアシステムと同様の柔軟性で、多様なループ群が形成され得るということです。

■処理ループモデルによる進化メカニズム

処理のループモデルは、コンピュータを使ったシステム、経済における工業製品製造のサプライチェーン、生態系における食物連鎖や共生関係など、様々な分野に適用できる抽象度の高い強力なモデルです。

ループの組込みや置き換えは、人間が設計して意図的に行うこともできれば、自然のランダムな変化によって行うことも可能です。これは、ループが自己強化的なフィードバックループとなることができるためです。

ループが自然のランダムな変化を利用して新しく作られ、自然淘汰の原理に従って自然選択的に適用性が高いものが残っていきます。したがって、人間の意図や知性が介在しない自然のランダムな条件下でも、この処理ループモデルの中のループは、より環境に適したものが残り続け、進化していきます。

この処理ループモデルに基づく進化のメカニズムは、生物のようにDNAを必要としません。また、知識のように知能も必要としません。自己強化的なループが形成されることだけが、条件です。

■生命の起源への処理のループモデルの適用

このメカニズムはDNAや知能を必要としないため、生物が登場する以前の、生命の起源における化学進化に適用することができます。

ここでは、私が考えている生命の起源の仮説を、このループモデルに基づいて概説します。

図5 処理ループモデルを用いた生命の起源仮説
(上図:水の循環を利用、下図:水の循環から自立)

太古の地球にも、水の循環が存在しました。池や湖のような水の貯留池を経ながら、川の流れに沿って水は流れ海にたどり着きます。そして、蒸発して雲となり、陸に雨となって、池や湖、川に戻ってきます。この循環は、キャリアとして物質を運搬できます。

初期の段階では、複数の池や湖が、それぞれ様々な種類の触媒となる物質を蓄え、それが水の循環を通してリンクされ、ループの形成を可能にします。地球上の多数の河川、池、湖を使うことで、自己強化的なフィードバックの性質を持つループが登場した可能性もあります。

そうしてできた最初の自己強化的なフィードバックループを土台にして、それを組み込んだ別のループが形成されます。図の5の上図に、このイメージ図を示します。ループAが最初に形成され、その後、ループBが形成されます。

この後、多数のループが形成され、依存関係が分岐したり連鎖したりしながら、複雑で高度なループ群を生成していくこともできます。ループの置き換えにより、リファクタリングのように基礎となるフィードバックループの効率や対障害性も向上していきます。

また、地球の水の循環をキャリアとして利用するループだけでなく、ループ内で生成される物質や蓄えたエネルギーを使うことで、自力でキャリアを生み出すループも出現します。

そして、ループの置き換えが起きる中で、ループ同士の依存関係が循環構造を持つケースも出てきます。これにより、既存のループから切り離されて存続できるループ群が生まれます。さらに、そうした独立したループ群の中には、全てのループが自力でキャリアを生み出すことができるものも登場します。

このようにして、水の循環という外部のキャリアからの独立に成功したループ群は、水の循環から切り離されて自立する存在となります。図5の下図に示した、依存関係の循環構造を持つループ群C, D, Eが、そのイメージです。

これが、私の考える、生命の起源です。

そして、外部キャリアから自立した循環状の依存関係を持つ処理ループ群が、生命の姿だと言えます。

■さいごに

細胞生物は、エネルギーを蓄積できる糖や油脂、外界から内側を守るための細胞膜、自己複製のためのDNA、その他生存のために必要な様々な細胞内小器官を必要とします。また、機能としても、代謝や自己の維持、外界からの養分の摂取、自己複製による繁殖などができる必要があります。

この高度で複雑な組織と機能がカプセル化された細胞は、地球における生命の姿の一つの到達点だと思います。しかし、そこがスタート地点ではないのではないかということを、私の仮説は示しています。

水の循環という外部のキャリアを利用したループが、出発点です。そして、その外部キャリアから独立に成功し、自立することができたループ群を、生命の最初の姿として捉えます。それがさらに進化発展していく中で、細胞が必要とする物質や細胞内小器官を作り出していったという考え方です。

その最初の生命の条件を満たすような化学物質群とその構造がどのようなものであったかは、現時点では何も言えません。処理ループモデルという視点と、太古の地球環境を念頭にしてロジックを積み上げた結果としての仮説に過ぎません。

とは言え、本文でシステム開発やソフトウェアシステムの概念と対比させたように、この仮説はシステム的なメカニズムとして、とても理に適っています。このため、システムエンジニアの視点から生命の探求を行っている私にとって、非常に魅力的なモデルとメカニズムの説明になっています。



<ご参考1>
以下のマガジンに、生命の起源の探求をテーマにした私の個人研究の記事をまとめています。

<ご参考2>
生命の起源の探求の個人研究の初期段階の内容は、以下のプレプリント論文にまとめています。
■日本語版
OSF Preprints | 生命の起源の探求に向けた一戦略:生態系システムの本質的構造を基軸とした思考フレームワークの提案
■英語版
OSF Preprints | A Strategy for Exploring the Origins of Life: A Proposal for a Framework Based on the Essential Structure of Ecological Systems


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katoshi
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