見出し画像

2009 出会ってしまった君は太陽ばなし

香取さとり30歳までのカウントダウン
第17夜 2009

7月22日。日本の陸地の一部では46年ぶりに皆既日食が見られるとあって、高3の私たちは授業を中断して屋上に出て、昼間なのに徐々に暗くなる空を眺めていました。福島から見えたのは大きめの部分日食でしたが、同程度の日食を次に見れるのは約30年後と報道されていたので、なんとかこの景色を目に焼き付けようとしたものです。今思えばそんな天体ショーはついででしかなくて、私はこの身にやっと訪れた青春に酔っていただけかもしれません。

この頃は放課後のボランティア活動を控えて学校で自習をする毎日だったのですが、学校にいる時間が長くなったことで、クラスメイトとの心の距離はグッと縮まりました。なかでも距離が近かったのは長いこと隣の席だったKくん。彼は私と同様に忘れ物が多く、模試の朝に消しゴムがない!とテンパっていたので、私の消しゴムをひとつ貸してあげてから、返すよ、いやいいよ、みたいなやりとりを契機によく話すようになりました。

どちらかが教科書を忘れたら、机をくっつける理由ができました。古典の授業中、君たち本当に仲良いねと先生からうっとりしたような目で茶化されたこともありました。暑い日に遅くまで教室にいると、よく近所のセーブオン(地元に存在したコンビニ)で39円アイスを買ってきてくれました。教室で勉強している他の友達にはどんなやつがほしいか聞くのに、私にはいつものでしょ?みたいなかんじでちょっとしたツレ感を出してくるのがたまらなく愛おしかったです。

誰がどう見ても両思いだったのですが、どちらからも言い出すことなく距離のバグった友達で終わりました。お互いをわかった気になってちょっと言いすぎたりとか、感情がダダ漏れなのに取り繕ったりとか、私にとってはこれが最初で最後のむずキュンラブ、いや初心LOVEでした。

そんなときのことを思い出して、あとから作ったのがこの曲です。

時間ができると詩を書いちゃう私はこの頃からウクレレで作曲をするようになり、ちょこちょこ曲を作っては「これは17歳のとき書いた曲で〜」とMステでタモリに説明する妄想をしていました。

大学受験のプレッシャーよりも家を出られる喜びの方が大きくて、大学に受かる前から東京の路線図と一人暮らし用のレシピ本とオーディション雑誌を買い込みました。高校生活が終わることはもちろん寂しかったですが、中学を卒業したときの喪失感と比べたら全然気持ちは軽やかでした。

次回からいよいよ東京編!あと12話、どうか最後までついてきてください。

この記事が参加している募集

大好きなリンツのチョコレート「マンゴー&クリーム」で明日の元気をチャージします。