蚊の思い出

私は虫が嫌いだ。

この時期特に嫌い度が天井を突破するのが、蚊である。

蚊に対しては「やられる前に、やれ」をモットーにしているので、すぐに叩き潰してしまう。

命…と思うこともあるが、その都度「いやいや地球上で最も人間を殺しているのは蚊ですので」と脳内で言い訳をする。

ちなみに2位は人間。


ただほんの少し匂わせる程度の罪悪感はあるので、叩き潰してティッシュで撤去した蚊をゴミ箱へ捨てる時に必ず

「来世は可愛いトイプードルになって生まれてくるんだよ…」

「来世は可愛いハムスターになって生まれてくるんだよ…」

「来世は可愛いネチコヤンになって生まれてくるんだよ…」などと呟いている。


前の職場ではこの時期よく蚊を潰していた。

ロッカールームでも、事務所でも。

ロッカールームでひとり着替えていた時に出てきた蚊にヘアスプレーを噴射しまくり追い詰めたところ、ロッカーと壁の狭い隙間に落ちてしまったこともある。

ああ…変なとこに落としてしまった…と思ってよく見たら、落ちた先のクモの巣に引っかかって事切れていた。

人間とクモの連携プレーなんて初めてだぞ。

また、お客様がいらっしゃるような場では叩き潰せないので、代わりにアルコールスプレーで退治していた。

いつもとどめを刺すときの私の目は死んでいる。

虚無の感情と、「どうかまだ誰も刺されていませんように」の気持ちが入り混じっている。


そんな私だが、唯一悲しみの気持ちと共に蚊を潰した夜があった。

実家のリビングでひとりお絵描きをしていた時の話である。

その夜は家に蚊が入っていた為、母が蚊取り線香を焚いていた。

白檀の香りや線香の香りが大好きな私は、夏らしさを感じつつ、夜風の涼しさと共にお絵描きをしていた。


ふと、蚊の気配を感じた。

「出てきたのか…!」と思い、潰す準備をしようとした時だった。

私の右側を飛んでいた蚊が、突然テーブルの上に落ちてきた。

それはもう蚊取り線香のCMの如く、ぽとり、と。

てっきり止まったのかと思い身体を竦ませた私だったが、蚊の様子がおかしい。

テーブルの上でのたうち回っている。

蚊の顔や感情が分からなくて良かった。

それは明らかにもがき苦しんでいた。

テーブルの上を必死にのたうち回り、息絶えることなく、ひたすら苦しそうにバタバタと動き回っている。


これが初めて私が「早く楽にしてあげよう…」という慈悲(?)の心で蚊を潰した瞬間であった。

蚊取り線香はすごい。

ハンドルネームは関係ないが、本当に蚊取り線香はすごい。

何かしらのペットが室内にいる場合はおそらく使えないが、本当にすごい。

調べてみると、神経毒の一種らしい。

父が「蚊にそんなに効くんだから人体にも影響があるはず。パパは嫌い」と言っていたのを思い出す。

人体には特に影響が無いようだが、使う時はちゃんと注意書きを読んで使おう。

喘息持ちの方とかは辛いようなので。


今年はまだ蚊に刺されていない。

このまま刺されずに夏を過ごしていきたい。


書き終えてから思い出したが、前職の事務所、入り口と中に入るまでのドアの間…なんて言うの…あれ…傘立てとかだけ置いてある空間…人が4人も入れば狭い空間…なんて言うの…風除室でいいのかな…あそこが虫だらけになったことがあった。

蚊がぱっと見でも10匹近く、大きなクモ4匹、隙間から入り込んでいる大量のアリ。

地獄絵図かと思った。

別のスタッフがそこにアースジェットを念入りに噴射し、扉を閉めて放置してた。

気になってしまった私は仕事中に様子を見に行ってしまったんだ。


本当の地獄絵図になっていた。


人間は…人間は自分の都合だけで…こんなにも大量の命を…と思ったが、普通に私もばんばん蚊を潰しているので、なんとも言えないな…と思って諦めた。

殺虫剤系商品の効き方、エグい。

開発の方々ありがとう。

虫が大嫌いな私は、最終奥義としてその存在を認識しておくだけで安心できます。

ちなみに潰せるのは蚊のようなソフトタイプの虫だけで、その他ハードタイプの虫は本当に本当に無理です。何もできない。怖い。脅威。


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