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【2019シーズンJ1第8節】北海道コンサドーレ札幌vs横浜F・マリノス マッチレポート〜我が子との再会を噛みしめるが如く~

 古巣対戦。恩返し弾。ブーイング。かつて所属し声援を送った選手との対戦や、現所属選手が古巣相手に挑むような試合は、どうにも些細なことも劇的に感じたり、その所作に多少大袈裟な感情を抱いたりしてしまいます。
 前節は昨シーズンまで所属した都倉選手、そして今節は同じく昨シーズンの躍進の立役者の1人と言える三好選手(横浜F・マリノス)との対戦となりました。
 三好選手はコンサドーレ所属は1年間と決して長くはありませんでしたが、多くのコンサドーレファンを今なお魅了していることが窺えます。東京五輪ではチームの中心として、そしてA代表でも今後キャリアを積み上げていくのでしょう。チャナティップが”天才”と称する三好。ルヴァンカップでは圧倒されたそのクオリティにどう対応するのか、非常に楽しみで、かつお互いに怪我などしないで欲しいし、健闘を称えあえるような後腐れない試合にして欲しい。心中複雑な中で見る試合となりました。

横浜F・マリノスというチームの印象

 さてさてマリノスというチームについて。個人的には堅守のイメージが強く、事実、長きに渡り代表クラスのCBを輩出しています。井原正巳。中澤佑二。松田直樹。那須大亮。栗原勇蔵。頭に浮かぶだけでもこれだけいます。現在のチームにも、畠中選手という現役日本代表のCBが在籍しています。
 しかし、現在マリノスを率いるポステコグルー監督は、どちらかというとその攻撃において特色のあるチームビルディングをしています。
 もう少し正確に見解を述べると、従来はネガトラでのリトリートを前提とし、ブロックを敷いた堅い守備と前線のスタープレイヤーやセットプレーを武器とした手堅いチームという印象。現在は、ネガトラにおいては即時奪回、人とボールを動かし、ボールを握り続けることで試合を優位に進める、あるいは最後方の守備負担を分散させる、そんなサッカーを目指しているように思っています。
 2019シーズン第7節時点でシュート本数は平均17.5本(リーグ1位)、チャンス構築率(攻撃回数÷シュート数)は13.4%(リーグ2位)。対するコンサドーレはシュート本数平均17.2本(リーグ2位)、チャンス構築率14.0%(リーグ1位)。この数字を引き合いに出したトークイベントでの野々村社長の発言もあり、攻撃的なチーム同士のエキサイティングな試合を期待することとなります。※チャンス構築率という指標が有意なものなのかはここでは考えません。

システムの話~何度目かの4バックチャレンジ~

 コンサドーレがボール保持した際の対面例。コンサドーレは通常時の形から大きく変わらず。マリノスの4バックは前線〜同サイドを数的優位な構造にし、左右どちらかにボールを誘導。大外にポジションを取るルーカスは捨てながらスライドで対応させる形。

 コンサドーレがボール被保持での対面例。ミシャ就任から何度目かの4バックシステム。最前線は2対3or4、最終ラインは三好に対して2対1(流れた方向に合わせたチャレンジ&カバーの関係性)。それを除くと対面は基本的に1対1の組み合わせとなるようにシステムを整理して臨みました。今シーズンのコンサドーレは、噛み合った形に合わせて構えることでやることを明確化させています。
 マリノスは偽9番三好が主戦場である右サイド(仲川寄り)に流れる傾向にあったため、福森が対応する形をとります。三好が左利き、仲川&喜田との連携を意識した、マルコスjrは単独突破出来るから、など意図は1つではないでしょうが、おそらくコンサドーレとしてはミンテ側に流れときの方がバランスを取りにくかったのではないかと思われます。

ポステコグルー監督はこのとき何を見ていたの?

 気になったのは、マリノス監督ポステコグルーがコーチとスマホを見ているワンカット。DAZNにも抜かれていましたし、多分コンサドーレベンチも何かやってるなあ、と気付いてたのではないかと。このとき、何を見ていたのでしょうか。既に2-0になってしまった前半17分。俯瞰確認でもしていたのでしょうか。もし、このタイミングまで4バックの形を把握できていなかった、即ち事前対策を授けてなかったのだとしたら、その時点でかなりのハンディキャップをマリノスの選手たちは背負っていたことになります。

背負うべき負荷~菅ちゃんへの労い~

 上記攻守のシステムをそれぞれ見たときに、その位置取りの違いからも明らかに負荷が大きくなっているのが菅ちゃんです。3バックのときもアップダウン激しい菅ちゃんですが、今回は仲川対応のミッションも与えられ、チームとしても両サイド封鎖することが戦術の肝でもあったため、菅ちゃんの両脚には重い責任がのしかかっていたように思えます。そのためハードワークを想定し、サイドをこなせる選手がサブに並びました。 もちろん、そんな重責を菅ちゃんにすべてを委ねるような、ミシャはそんな上司ではありません。戻れないときは深井がケアするような(深井にも持ち場はあるので全部対応は無理ですが)約束事を加えているようでした。 ルーカスが右サイドでスペシャルな存在となっていたのに対し、菅ちゃんは比較的評価は低調。攻めあがった際のアイディアと打開力に乏しい面は確かにあれど、このシステムを機能させる一端を担ったのは間違いなく菅ちゃん。他の選手でも出来たのでは、という代替可能性についてはここでは触れません。菅ちゃんには美味しいお肉と白飯でも食べてもらい、労をねぎらって欲しいところです。

リトリートにおけるクオリティの向上

 例えば”チャレンジ&カバー”という言葉は、小学生あたりのカテゴリからインプットされはじめるものの、その実中身は奥深く、あらゆるネガティブな状況下で適切なアウトプットをできるようにと、様々なトレーニング法が世に存在します。
 自分は実戦形式のケーストレーニングからシンプルな反復練習まで、”首を振る”という動作を守備においてもかなりインプットされました。確かに、基本的には”現状把握→判断→アウトプット”の繰り返しです。”→”の中に込められたプロセスを短縮・省略・高速化させることはトレーニング目的のひとつですが、そもそも現状把握の質と量が担保されていることが、その後の判断の質を高めていくわけで、”首を振る”という動作はその現状把握を支える役割を担っていたわけです。
 以下、”首を振る”ということを実践しているケースを2つ紹介します。

 ミンテ首振り最終ラインの状態を確認。縦方向に抜かれた際のカバーリングがいない。間合いを詰めず、シュートブロックの出来る距離感で中へ誘導。

 チャナティップがパスコースを消す位置を取る際に、何度も背後を確認。

ビルドアップにおけるクオリティの向上

 ミンテがCBに入ったことで最も不安視されたのはファウルトラブルかと思いますが、2番目くらいにはビルドアップにおける位置取りの悪さだったのではないでしょうか。蓋を開けてみれば、(今のところ)警告はもらっておらず、安易なファウルがそこまで気になることはありません。ビルドアップにおける位置取りも、昨シーズンの川崎フロンターレ戦以前などと比べれば格段に効果的なものになっているような気がします。
 そんなミンテに加えて、今シーズンひとつ引き出しを増やしてきたと感じるのが、ソンユンを起点にしたビルドアップの展開です
 ソンユンはそもそもフィードの精度は高くありませんでしたが、DFと同人数をかけて前プレスをかけてきた相手に対し、今シーズンは福森、進藤をターゲットにするパターンを設けています。

 後方2枚より縦に高さをとって待つ逆サイドの福森。ここにも相手がマークした際には、中央が空いている。

最後に

 ボール保持率はマリノスに握られながら、要所のストロングポイントを抑えながら効果的に攻める形の見えた試合でした。早めの得点で相手のプランを瓦解させることが出来ましたが、ルーカスやアンロペが質的優位を取れないとき、まだ引き出しはあるのかどうか、そこは気になる所です。
 また、この試合は非常に選手間コンタクトが激しく、やりようによっては荒れるような展開にもなり得ました。そこを巧くコントロールした審判団と、両陣選手のふるまいは結果として素晴らしいものでした。
 次節リーグは今シーズン低調な順位に甘んじているジュビロ磐田。とはいえ、正直不気味な相手です。ルヴァンカップでの大勝もありましたが、これを良い方向に働かせ、チームの足並みを揃えて臨んでほしいところです。

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