師走、酒屋さんでのアルバイト。
当時の正月三が日は市場やスーパーはお休みが当たり前、また、各家庭では、『正月にお屠蘇』も当たり前、酒屋さんの年末は大忙しでした。
ボクとペアになった『三郎さん』は、20台前半のお兄さん。
有名人に例えると、顔もしゃべりも金村義明氏似のガチャっとした、ボクが、それまでの人生で出会ったことのないタイプ。
ボクが高校3年生の年末、かなり昔のお話です。
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付属の高校から大学への推薦入学も決まった高3の年末、クラスメートから、時給400円、酒屋の短期アルバイトに誘われました。
そのバイトは『サザエさん』に登場する三河屋(酒屋)の御用聞き『三郎さん』、その『三郎さん』の運転する軽トラの助手席に乗る、配達のお手伝いでした。
三河屋もですが、当時の酒屋さんは、酒だけでなく、味噌汁、醤油、砂糖等も扱っているのが一般的、ボクのバイト先の酒屋さんも、コメや灯油の配達も請け負っていました。
運転しながらの雑談は、ほぼほぼ下ネタで、世間知らずの純な男子校の高校生にとって、新鮮で、刺激的で、とても楽しいバイトだったのです。
☆ ☆ ☆
そんな金村似の『三郎さん』でも、仕事はとても 真面目でした。
配達するお酒の銘柄は、菊正宗、松竹梅、日本盛、明けごころ、など様々でしたが、頻繁に目にするのが『剣菱』という銘柄でした。
他はコマーシャルで良く耳にしていましたが、ボクはこのバイトで初めて『剣菱』を目にしました。
『剣菱』って人気あるんですね?
と、ボクが尋ねると、
金村似の『三郎さん』は、日本酒をお猪口で呑むふりをしながら
「辛口が、いける人は、『剣菱』かな…」
これが、カッコよかったんですね。
近い将来、日本酒を嗜むようになったら、
ボクは、『剣菱』にしてくれないかな…
なんて、カッコよくほざいてやろう!
しっかりインプットしました。
配達中、金村似の『三郎さん』が急に静かになって、軽トラのAMラジオから流れる曲に、聞き入ってしまいました。
その時、流れていたのは、さだまさしの 『案山子』
確か、金村似の『三郎さん』は四国出身、この歌の背景は 東北では?
金村似の『三郎さん』を、歌で黙らせてしまう、この歌はスゴイんじゃないか?
こんなガチャッとした人の心を掴む、さだまさしってスゴイ!
高校生のボクは、それからしばらくの間、さだまさしに尊敬の念を抱いていました。
今でも、『案山子』を聴くと、歌詞の中の
『橋のたもと 造り酒屋の レンガ煙突』
その煙突には『剣菱』のマークが思い浮かんできます。