ウルトラマンエイティとセブンの固い友情。
昔、一度だけウルトラマンになったことがあります。
エイティという名だから1980年、今から約40年も前のゴールデンウィークの事。
大学生の頃、スーパーの屋上で金魚すくいをしたり、着ぐるみで踊ったりする広告屋の短期バイト員に登録していて、 その広告屋の一番人気が、ウルトラマンショーでした。
ただ、ウルトラマンショーの場合はバイトの要請があっても、 仕事はもっぱら会場までの機材運搬や設営でした。
ショーは色々なパターンがあって、最初から怪獣と戦うだけの短いモノから子供たちをステージに上げて遊ばせるモノまで様々で、その年のゴールデンウィーク、その広告屋には何軒も催しが入っていてショースタッフが足りなくなり、なんと、エイティという主役が、臨時アルバイトのボクに舞い込んできたのでした。
ショーの構成は、まず、最初にウルトラマンエイティとショッカーたちが戦い、エイティは難なくショッカーやっつけて一旦退場します。
ウルトラマンに、仮面ライダーの悪役が登場しても取り立てて文句を言う人はいない、大らかな時代でした。
ショッカーは、それなりに練習した高校生たち中心で、戦いにバク転を入れたり色々工夫をこらしていました。
臨時の人員はショーに支障が少ないよう、おのずと動きの少ない着ぐるみに入ることになり、とりあえず決めのポーズだけ覚えてのウルトラマンデビューでした。
ショッカーたちがやっつけられた後、ラバーマスクを被っただけの怪人が現れて、強いショッカーを作らなければと、会場の子供たちを数人仮設ステージに上げて、当時流行っていたドリフターズのヒゲダンスを踊らせます。
怪人役は、一応どこかの劇団に入っているプロでした。
何故、ヒゲダンスの上手い子が強いショッカーになるかは、今もって謎なのだけれど、とりあえず楽しければ良い、大らかな時代だったのです。
怪人が、一番ヒゲダンスの上手かった子を「改造するぞ!」と 連れ去ろうとするところへ、今度はウルトラセブンが現れてその子を救い、怪人やショッカー達をやっつけます。
その時のセブンの中身も臨時でしたが、最初の戦いがある分、エイティの方が大変なので、ジャンケンで負けたボクがエイティとなりました。
やっつけられそうになった怪人は、反撃とばかり、怪獣を呼びます。
着ぐるみの怪獣が現れ、セブンと戦うのですが、今度はセブンがやられてしまいます。
怪獣の中身も臨時でしたが、着ぐるみのサイズの関係で、これには小柄な者が入りました。
ここでMCのお姉さんが現れて、会場の子供たちに声をそろえてエイティを呼ばせます。
しかし、一度呼ばれてもエイティは出ていきません。
MCのお姉さんは「声が小さいわよ!」と言いながら、もう一度、子供たちに大きく叫ばせるのでした。
2回目の『エイティー!』という呼び声を合図に、エイティのテーマ曲が流れ、エイティはスーパーの物置のドアから 颯爽と登場です。
で、無事に怪獣をやっつけても、まだ終わりません。
MCのお姉さんが、
『本当は3分しか 地球にいることはできないんだけど、今日は、皆のためにエイティとセブンが 残ってくれるんです!』
と、そんな臨機応変なウルトラマンなら大歓迎、大らかな時代でした。
ウルトラマンの絵が描いてある色紙に事前にショッカー役の高校生たちが「Eighty」ではなく「Eity」と 黒マジックで殴り書きしたサイン色紙、それを買った子達とだけ握手をして、セブンとエイティはやっと M78星雲へ帰ることができるのでした。
この日のショーのクライマックスでの事。
『エイティー!』
2回目の呼び声を聞き、エイティのテーマ曲に乗って物置から 勢いよく飛び出し、一旦ポーズを決めたボクは、この後、重大なミスを犯してしまいました。
怪獣をやっつけてからセブンを助け起こす段取りを間違えて、ステージに飛び出してポーズを決めて直ぐ、仮設ステージ袖で倒れていたセブンを助け起こしてしまったのです。
怪獣に倒され、あとはエイティが怪獣をやっつけるまで寝転がっていればいいだけ、と安心していたセブンは、思いがけず直ぐに起こされてしまって、かといって、今倒されたばかりなのに 急に活躍して戦いだすにもいかず、気を利かしたショッカーが たまに戦いに来たけれど、できるだけ地味に、目立たぬよう、両手を腰に当てた基本のポーズで ステージ袖で立っているしかなかったそうです。
怪獣を倒して勝利に酔いしれていたエイティに、セブンはアドリブで握手を求めてきました。
その時、エイティはようやく自分のミスに気が付いて、セブンと固い握手を交わしたのでした。
円谷プロは設立50年を超え、ウルトラマンは永遠のヒーローです。
ただ、残念なことにエイティは人気がありません。
顏の形がちょっと神経質そうなのと、テーマ曲の歌い出しが英語なのがよくないんじゃないかと…
今更ながら。