子どもの頃に観た、初めての「子ども向けではない映画」

子ども向けではない、といっても大人向け=成人映画、ではない。子ども用ではない、一般向けの、くらいの意味である。ふつうであればそれはどんなカテゴリーの映画なのであろうか。思春期の若者が見るような、人気の芸能人が出ている恋愛ものとか? またはハリウッドのスターが出るような大掛かりなヒット作とか?

私の場合、それは「ジョーズ」だった。この作品は1975年、アメリカで公開されて、日本では1976年の正月興行に合わせて公開されたという。その頃、私はまだ小学校1年生。なぜその映画を観たかというと、今は亡き父に連れられて行ったからである。当時佐世保には映画館がいくつもあった(今はシネコンが1つだけ)。東映、東宝プラザ、太陽劇場、カズバ、日活……思い出せるのはこれくらいだが、うちの祖父がかつて興行関係の仕事にかかわっていたらしく、じいちゃんに言えば映画のチケットが割とすぐに手に入っていたので我が家ではよく映画に行っていたのである。

だがそれまでは、「ダンボ」とか東映まんがまつりとか、割とお子様向けのものを一緒に観ていた(というか連れて行ってもらっていた)ように記憶している。そのような穏やかな映画の世界からいきなりの「ジョーズ」による一般映画デビューである。当時はR指定などという子どもへの配慮は無かったのであろう。

なぜその映画に父が私を連れて行ったのかは、よくわからない。ポスターを観ても、明らかに巨大ザメが人を襲う、恐怖映画であることは明らかである。酒を飲むと気が大きくなるくせに実は小心者の男であったから、単に誰かと一緒でないと怖くて劇場に入れなかったのかもしれない。

とにかく、そこで私は生まれて初めてのホラー映画体験をしたのだった。怖い場面では、怖くてスクリーンをまともに見ることができない。時おり目をつぶったり、画面が見えないように手で顔を隠したりしながら映画館での時間を費やした。

終わって映画館を出た後、父が私に何と声をかけたか、よく覚えていない。だが、彼も相当怖い思いをしたのではないかと思う。今はWikipediaという便利なものがあるので知ることができるが、当時「映画の上映期間中、17歳女性の観客が映画神経症を発症させたと言われている」そうである。わかる。子どもの私にとっても神経に突き刺さる映画であった。

冬に観ていたはずの映画だが、その影響はその後も長く続いていた。うちは毎年海水浴に行く家だったが、私はその年、海水浴に行くことを拒否したように思う。それはもちろん、あの映画の影響である。あまりにも怖くて、海に入ったらあの恐ろしい牙を持った生き物が私を海の底に引きづりこむような気がしたのである。我々が行っていた海水浴場は非常に穏やかな内海で、クラゲが人を刺すことはあっても(それも十分に恐怖だが)、サメが回遊するような場所ではないことが、大人になった今では十分に理解できるのだが。父は、海水浴場でビールを飲むことをとても楽しみにしていたが、海水浴に生きたくないという私の意見が通っていたということは、父もそれに納得していたのだろう。

その後も父とは「未知との遭遇」とか「スター・ウォーズ」(エピソード4~6)とかを一緒に観た記憶があるし、なぜか「グリズリー」という熊が人を襲う映画も一緒に観に行った。だが、グリズリーはそれほど怖いと思わなかった。それはひとえにジョーズのインパクトが強かったからに他ならない。

その後、プールではかなりの距離を泳げるようになったが、いまだに海の中で足がつかないような場所で泳ぐことが怖い。それにしても、あれくらいの幼い子どもに平気であのような映画を見せていた時代、昭和というのは本当に乱暴な時代であったのだと思う。

#映画にまつわる思い出

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