Art Outbound Digest vol.15
1:美大生の不満の話
キュレーターの金澤韻さんがこんなツイートをしておられました。
某美大の修士2年の学生たちが、卒業制作に対する教師陣の講評に不満を持っているという話。
これ、どう思われますか?
問題は一つではないですよね。
まず教師陣。これは十中八九、教育者としてのスキルが足りていないです。
大昔の徒弟制シバキアゲ教育や体育会のシゴキなら別ですよ。流行らないやつね。
でも2023年ですからね今。
指導学生が作品づくりをしているプロセスでずっと伴走していれば、何を目指していてどんなコンセプトとロジックでやっているのかはわかっているはずだし、制作途中でブレが危険になったら指導を入れている、はずですよ。
よね?
違う?
いやまあ20年以上前の話ですけど大阪芸大の博士に行った友人がD論書いて出したら、それまで放置だった指導教員にボロクソ言われて結局、学位取れずに退学しましたけども。
(彼は今はアップルの正社員でバリバリ稼いでいるんでむしろ良かった気がするけどねキャリア展開としては)
私大の大学院で結構な学費取ってるんだから、放置はダメですよね。
ちなみに京都芸大だと修士で初年度が1,429,430円
多摩美大 1,739,000円
武蔵野美大1,756,900円
いや、想像を越えて高額だった。私は国立大の修士課程だったからなあ。
この金額取ってたら手取り足取りフルサポートして当然だと私は思いますけどね。この10分の1なら放置でも良いけどさ。良いご身分かよ美大教員。ちゃんと仕事しましょう。
さて。
それはそれとして院生はどうなんでしょうね。現代アートであればアーティスト・ステートメントがあって作品コンセプトがあって作品があるという3層構造なわけですし、ステートメントやコンセプトは論理的な言語で構築されているはずなので、それは伝えられますよね。仮にも大学院生と大学教員なんだから。
日本画とか洋画とかレガシー彫刻みたいな徒弟制や同人制のガラパゴスJアートの世界はともかく。そっちは私は知らないし興味も無いし国外に市場は無いのでどういう教育になるのかコメント出来ないのですが、うーん、修士ですよね? 研究の進捗の定期報告とか無いんでしょうか? わからんなあ。私は修士論文の進捗は自分から定期的に三井先生に報告してフィードバックもらってたし、ゼミで進捗報告会もあったぞ。
博士論文のときだって永見先生に定期的に報告して意思疎通してたし、意思疎通してなかったらそもそも学位論文って提出出来ないし。指導教員のサイン貰わないと事務に出せませんから。
トータルで言うと、ですから教える方も教わる方も「そこ、大学ですよね?」という謎に満ちたお話ですね。
さて、金澤さんのツイートと私立美大の学費を見て私が真っ先に考えたのは、「この300万円は払う価値があるのか?」ということです。
お金が無尽蔵に湧く不動産や金融資産を持っているならなんでもどうぞなんですが、資金が限られているとして300万円。難しいな。MFAの学位はCV上では映えますけども、BFAだけでやっている人も多いし、BAやMAの人も珍しくないし。現代アート作家を目指すとしたら、もしかすると無理に日本の私立美大に行くとか、浪人を重ねて東京芸大に行くよりは、国公立の人社系や理工系の学部・院に通って学問を身に着けつつ作品を作って発表していく方がコスパ良いかもしれないですね。放送大学という手もあるし。
ちなみに私が現代アート作家の作品について仕事でフィードバックをするときは、まずは作家自身の考えていることを徹底的にヒアリングするところから始まります。ステートメントと本音が違っていたり、ステートメントではうまく言いたいことが言えてなかったりもしますから。
そこから作品コンセプトとロジックを確認して、その部分での齟齬や歪みがあれば指摘して、最後に作品テクストのバランスやインパクトを平均的な目で(自分の好みは廃して)評価します。
アレが足りないこれはどうしたみたいなマウンティングコメントをするのではなくて、まずはスタンダード、ニュートラルなものさしを当てたらこうですよね、という話です。
その上で、もっと面白い作品にするとしたらどんな手がありますかね、とか、コンセプトにこういう要素を入れてみる手もありますよとか、思い切ってこの要素は抜いてみるとどうなりますかとか、そんなブレストもします。こういうところに出してみると受けるかもとかね。
イメージとしては、道具の調整みたいな手順ですね。
道具とか楽器とか。教科書的なスタンダードのセッティングがありますからね。ネックの反りはこの範囲、弦高はこの範囲、ピックアップの距離はこれくらい、オクターブピッチは正確に、などなど。そのスタンダードに対してどんな状態かを確認した上で「これはわざとなのか、うっかりなのか、修正するのかこのままいくのかもっと極端にやるのか」を相談する。更にパーツを交換するか、強化するか、今あるパーツを外してみるか、演奏スタイルやジャンルを変えてみるかという話もする。こんな素材がありますよとか、こんなツールが出てましたよとか、この作家はこういうやり方してますよとか。
わかりますか?
教科書的な基本に対してどうなっているかの確認、作家本人としてはどうしたいかの確認、付加価値を高める方法の相談。守破離に近いですね。そのサポート。
論文指導も商品開発支援も、おそらくはアート作品制作支援も、支援者は支援対象のサクセスにコミットすべきですし、その手順は全部同じだと思います。高いお金取ってるんだったら、ちゃんとやらないとあかんで。
2:ピックアップアーティスト
マデリン・ホランダー Madeline Hollander
1986年、ロサンゼルス生まれ、ニューヨークとロサンゼルスの二拠点で活動中
学位:BA(Barnard College of Columbia University)、MFA(Milton Avery Graduate School of the Arts, Bard College)
活動期間:2014-
個展:8+
グループ展:38+
美術館展示:5
メディア:ビデオ・インスタレーション、水彩、振り付け、ダンス
受賞歴:4
CV
https://cdn.sanity.io/files/mnub8q5m/production/384b5092c7b70900842d5078d3ff25fad178b9e8.pdf
今回もまたちょっと面白い経歴の作家を見つけてきました。
バレエダンサーから始まって振り付けもやるようになり、そこから更に現代アートを作り始めたというマルチタレントな女性です。
今ちょうど始まったばかりのFriezeのアートフェア(ロサンゼルス)で運営のオススメ作品にピックアップされてました。
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