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Art Outbound Digest Vol.10

1: CVについて

今日はCVについて簡単に解説してみましょうか。

CVとは履歴書のことですね。Curriculum Vitaeの略。

日本国内公募だと要求されないことが多いと思うのですが(今パッと調べた「第4回公募アートハウスおやべ現代造形展もSICF24(第24回 スパイラル・インディペンデント・クリエイターズ・フェスティバル)もCV不要でした。面白いよね。国内公募だと現代アート系も含めてやたら細かくフリガナとかなんだかんだと入力させたり手書きさせたりするのですが、CV不要って。

欧米の公募では体感値99%くらいの確率で求められるこのCVというもの、書式はこんなふうになります。概ね。多少順序が違うのはある。

  • 出生年、出生地、居住地

  • 学歴と学位

  • 個展歴

  • グループ展参加歴

  • 受賞歴

  • 公的コレクション収蔵歴

  • 委嘱作品

  • 書誌情報

ほぼこんなところですね。動画系の作家さんだと「上映歴」というのが入ることもあります。

学位と学歴は大学学部以上のものは全部書きます。日本みたいに最終学歴だけ聞くことはありません。どこで何を勉強して何の学位を与えられたかを全部聞かれます。

ちなみに私だとこうなるかな。

1994 BA, history, Rikkyo University
1999 M. Ed, music, Kanazawa University
2006 Ph. D, sociology, Rikkyo University

よく個展とグループ展を分けずに書いている人とか、昇順で展覧会歴を並べてる人とか日本人に多いですけど、ダメではないけど見づらいです。ダメではないですが中堅以上の欧米のギャラリーで所属作家のCVをそのように書いているところは私は見たことないです。

これを一言で言うと「止めた方が良い」となります。

だってほら、見づらいでしょ。しかもExhibitionですらない、NFTアートのミント(発行)の広告サイトまで入れてるのちょっとそれどうなんですかね。東京芸大准教授ともあろうお方が。駆け出しのチンピラ作家じゃないんだから……。

例えばこのモロッコの公募ではわざわざ「個展かグループ展か必ずわかるようにCVを書け」と但し書きがある。

話を続けましょう。

受賞歴は賞をもらったり給付奨学金をもらったら書きます。いっぱい受賞している人は1位のやつだけ書きます。審査員特別賞(honorary mention)まではまあ書いてもそんなに違和感無いです。最終審査まで残ったこと(finalist)を書いている人もまれに見かけますが、なんか未練がましく感じます。個人的にね。

Finalistまで残ったことを受賞としている人はいないだろうと思っていたら、こないだ発見してしまいました。東京芸大の教授がそんなことやってて恥ずかしくないんかいとは思いますが名指しは回避しときます。宮崎駿のアニメ映画に出てくるメカっぽいのを作ったり飛ばしたりしている人とだけ。ニコニコ超会議とか文化庁メディア芸術祭も運営サイドで関わっていたりして。うーむなるほど。

このCV、私は作家の素性を見るための基礎中の基礎資料だと思っています。まずはこれを見る。その人がどんな活動をしてきたのかが、一番よくわかるので(それどころか人間性すらも見えたり見えなかったりするゾ)。

ここからは推測です。

もう一度言う。ここからは推測。仮説。鵜呑みにするんじゃないぞ。

ということを念押しした上で。

何故日本国内の公募はCVを要求せず、欧米の公募はCVが必要なのか。

私の仮説といたしましては、アートというもののベースがアカデミズムにあるからでしょう。アカデミズム。はい。基本は学問なんですよ。

えええええ、アートは感じるものじゃないの? って思った人はそこで腹筋30回お願いします。

アートは感じるだけのものではありません。少なくとも玄人の世界ではそれはダメ。違う。違います。

もともとですね。ヨーロッパでも美術品は工芸作家の工房が作ってました。親方がいて弟子がいて、弟子は何年か修行した上でこれはという作品をギルドに出して審査してもらうわけです。この審査に通るとギルド会員になれる。つまり親方になれるわけですな。

大工さんみたいだなって? いやいや大工さんとかと同じ業界の人でしたから。だってああた、キリスト教の教会堂とか金持ちの家を作るときに装飾として絵を描いたり彫刻を彫り出して飾ったりしとったんですよ。それが元の姿だ。アーティストの。

ところがある時期から、一部の作家さんたちが、学問として美術品を作り始めた。親方が教える育成から、学校で教える育成に変わった。

だからアカデミーっていうんですよ。絵画アカデミー。アカデミズム絵画。

学問の発想、学問のシステムが土台にあるわけです。アートはね。日本の美大や芸大だと何故かそういうことを教えられないまま卒業できてしまうこともあるみたいですが、それはきっと日本の美大芸大の半分くらいは狩野派とかの、つまり親方が教える伝統工芸の方法論を継承しているからだと推察します。日本国内では国際的に凄い人という扱いで国立美大のテニュア教員になっている人たちがどうもこの、学問という部分よりもニコニコ超会議的なネタの爆発力にパラメータを全振りしがちなのも、そういう土壌ゆえなのかなと。うむ。

ダメとは言っとらんよ。

絵やお笑いネタ、バズネタとして良いかどうかと、アートとして素性が確かかどうかは別ですからね。日本画や非アカデミック系の絵(アウトサイダー・アート)にも良いものはいくらでもあります。

でもシステムとしては、アートはアカデミズムなんです。だから学歴と学位と活動歴を見る。

どんな会場での展覧会に参加しているのか。

これまでにどれくらいの数の展覧会に参加してきたのか。

個展の回数は? 会場は?

当然ながら、展覧会参加回数は多ければ多いほど偉いのです。会場は大きければ大きいほど偉いのです。

それと、CVの展覧会歴には都市名も入ります。

TokyoとYokohamaばっかで20年の人よりは、New YorkやLondonやParisやBerlinやAmsterdamやTaipeiやSingaporeやShanghaiやSeoulやSydneyやLAやSan FranciscoやMiamiで毎年色々展覧会に参加して20年の人、DocmentaとかVenice BiennaleとかMOMAとかWhitney MuseumとかSFMOMAとかTATEとかがCVの文字列検索で出てくる人の方が偉いのです。

日本国内の賞や奨学金しか取ってない人よりも、国際的に「あそこはすげー」って認められている賞やレジデンシーや奨学金を現地勝負で(日本人のスポンサーによる派遣ではない形で)取っている人の方が凄いのです。

なんだとコラ、アートに地理学的な優劣をつけるのかって怒ったあなた。

つけるってばよ。お前は何を言っているんだ。

Belle artiが始まったときから中心はイタリアだったじゃないですか。ローマ賞の話、前回しましたよね?

Belle artiの中心ローマからBeaux-artsの中心パリへ。さらにFine Artの中心ロンドンとニューヨーク。

はい、アートには明確に地理的な中心と周縁があります。否定しても何も始まりません(終わることはあるけどな)。

大事なことですよ。

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