カナダにあった私の理想の小さな家|ミニマリストにもマキシマリストにもなれない
最初に言うと、私はミニマリストになりたいわけではない。
ただ、片付けや整理整頓が絶望的に苦手なので、自分が管理できる以上のものを持ちすぎているんだろうなという感覚はある。
それでも昔よりは物を捨てたり、整理したり、掃除したりということが出来るようになった。(でも得意というにはほど遠い)
片付けや整理整頓を意識すると、まず情報として入ってくるのは「断捨離」や「ミニマリスト」というワードだった。
確かに、持ち物の数を思いっきり減らした限りなくシンプルな部屋やクローゼットは見ていて気持ちがいい。
きっとこういう空間に暮らすのは快適だろうし、変なストレスもないんだろうと簡単に想像できる。
ただ、私には忘れられない理想の家の記憶がある。
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スーパーマキシマリストなビルの家
今から10年以上前、カナダに滞在していた時お世話になっていた家に、ビルという心優しくておちゃめなおじちゃまがいた。
この家はやや特殊で、血縁者だけでなく、親戚でもない大人たちが共同生活をしているちょっと不思議なところで、広大な敷地の中に小屋やトレーラーハウスがあり、ビルはその土地に小さな自分の家を持っていた。
ちなみに木造でありながら温室までついたその家は、ビルが自分で設計し建てたらしい。
基本的にビルの家には鍵がかかっておらず、彼がいなくても出入り自由。(とはいえ無断で出入りする人はいなかったけど)
私は、家のお手伝いついてに彼の家に出入りすることが多かった。
そんな彼の家は、ミニマリストの真逆。
床にはいろんなカーペットが敷き詰められ、リビングに集まってクリスマスパーティーができるほどグルリと並んだソファーには、何個もクッションが並び、いろんなブランケットや布がかかっている。
さまざまな高さやデザインの棚が並び、他の中にも食器や骨とう品、人形などがぎっしり入っている。
そして、壁には板を渡したような棚が何段もあり、それは天井まで続いていた。
棚の上には、人形や可愛らしいお酒やジュースの空き瓶、空き缶が丁寧に並べられていた。
キッチンにはあらゆる大きさや素材の鍋やフライパンがガラガラと置かれていて、テーブルの上には紙に包まれた食べかけのハードパンとバターケース、アップルサイダーの瓶などがある。
余白はほぼ無い。家の中にぎっしりと物が溢れていた。
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物に溢れているのに心地いい
不思議なことに、散らかっている、汚いという印象は1ミリもなかった。
むしろ心地いい。お洒落で仕方ない。
物に溢れている。けれど、そのビルがその1つ1つを愛しているのがわかる。
彼の人生で出会ったお気に入りがすべてここに集まっているのだろうと思える。
そしてそれが、彼のなかの無邪気さや素直さ、人としての楽しさや愛情深さを示しているようで、その空間にいる私までもをハッピーにさせてくれた。
色も形もなにもかもよく見れば統一感がないのに、どれも違和感なく並んでいて、空間全体のまとまりは完ぺきだった。
何の本なのかはわからない。
もしかしたら読んだこともないかもしれない。
私が読んできたいろんな光景から作り上げた脳内の妄想である説が濃厚だ。
ただ、初めてその家に足を踏み入れた時。
「絵本だ!」と思った。おとぎ話に出てくるような家。
近いイメージで言えば、ハリーポッターに出てきそうな。魔女の家でありそうな。
でもそこに魔法はなくて、ただ1人の男性が住んでいるだけなのだ。
本当にこんな家があるのかと思った。彼の家を訪れるたび、飽きることなくワクワクした。
彼の家にあるものを1つ1つ丁寧に眺めていきたかったけど、それには時間が足りなくて、時間が足りないことすらワクワクさせた。
おそらく彼の物に対する愛情と、選ぶ審美眼。そして、それを飾るセンスがあってこその家だから、とてもじゃないけど「真似してみよう!」とは思えなかった。
それぐらい私にとってはすべてが卓越していた。
だけど、今もビルの家は私の心に焼き付いていて、変わることなく理想の家なのだ。
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自分なりに理想に近づいて
もし私が彼の家に、理想に近づこうとするならば。
できることは、ただひたすらに愛せるものを選び続ける努力だろうか。
ミニマリストと呼ばれる人たちも「本当に好きなものだけしか置かない」ということをよく言っているから、そこは共通しているんだろうね。
でも、たぶん私は極限までモノを減らすことも、たくさんのものをセンス良く持ち続けることもできない。残念だけど。
ただ、自分の身の回りには「これのここが好きでねえ」「これはここが最高なんだ!」と愛情をもっていられるものを置けるように。
その心がけだけでも、理想に近づいてみようと思っている。
そしてすべてを完璧にしようとしないこと。
好きなところはとことんと、そうでもないところは適当でいい。
ちなみにビルはおそらくファッションに関してはてんで無頓着で、「それまだ着るの!?」というようなヨレヨレで薄汚れたTシャツやネルシャツを着ていた。(それでも清潔感はある)
そういうところも愛らしい。
まだまだまだまだ理想にはほど遠いけど、理想があるというのはありがたい。
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