note小説 三十路のオレ、がん患者 第17回 最終日 玉川温泉
母の仕事の都合があるので長期滞在とはいかない。
オレは温泉、母は岩盤浴メインで療養をした。
帰りはダイヤ的に新幹線までの乗り継ぎがギリギリだ。
田舎のバスは失敗が許されない。
ミスしたら1時間待つ事さえ当たり前。
信じられないが、乗ってみて周りを見回すと仕方ない。
ほぼ貸し切り状態だ。
バスは赤字ではないのかと思うが、聞くわけにはいかない。
家に着く頃には忘れているだろう。
オレのイメージだと田舎のバスは知り合いだらけでうるさいと思っていた。
しかし、シーンとしている。
きっとオレたちも含めてよそ者だらけなのだろう。
あ、母は喋っている。
自分の思った事をやり切ると満足して妙に喋り出すのは祖父から母、母からオレへと流れている血なのか。
流れる景色を見ていても感慨深いものも哀愁もオレの中にはない。
特に「また来たい」と思わせてくれる旅ではなかった。
療養が目的であるし、何よりこれからの事を考えると浮かれる気にはなれなかった。
新幹線はギリギリな感じだった。
家を出る前にネットで調べていたのだが、バスの走行に左右されてしまう。
不測の事態でバスが遅くなったりしても新幹線は待ってくれない。
行きより帰りの方がハラハラする。
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