note小説 三十路のオレ、がん患者 第10回 夢の中の虫
芸能人が手術を終えて次の日に歩けるまで回復したというニュースをよく聞く。
あれは、少し間違えている。
手術を終えると強制的に歩くようにさせられる。
何故か。
手術を終えて寝ていると、臓器が癒着してしまうからだ。
予期しないところに予期しない臓器がくっついて面倒なのだ。
その一番の予防法が、歩く事。
だから歩かされる。
歩けるまでに回復したのは、事実であるかもしれない。
しかし、回復して歩けるようになったと解釈してはいけない。
無理やり歩いて歩けるようになったわけだ。
朝早く病院に来てみると、歩いている人をたまに見かけると思う。
暇人でなければ、術後の日の浅い人の可能性が高い。
入院病棟に来てみると、歩いている人がもっと多くなる。
外で見たら徘徊老人だが、ナースステーションを何度も往復している人は術後の日が本当に浅い人かもしれない。
だいたい直後の人は自分で排泄ができないので点滴の他にいろいろな袋がぶら下がっていたりする。
そんな格好でも歩かされるという事は、世間的には知られていないだろう。
手術を終えて2日目。
とにかくベッドから出られない。
昨日歩けなくて今日になって劇的に歩けるようになるわけもない。
背中から腰にかけて激痛が走る。
腹腔鏡手術なので、麻酔の針を刺したくらいのはずだ。
寝ている体制から起きることはできる。
ベッドから出られない。
意識は通常通りだ。
頭と身体が切り離されたかのように身体が動かない。
脳からの指令を拒んでいるのか。
根拠はないが、立てばどうにかなると確信があった。
こうなったら脳を介さず、マリオネットのように操られても構わない。
とにかく動いて欲しい。
昨日はベッドから出られたのに今日になって出られないのは、退化ではないか。
病人は、日に日に良くならなければならない義務がある。
その為に家族や病院がサポートしてくれている。
ひたすら歯を食いしばる。
そう言えば、前夜に夢を見た。
普段から夢を見る事は、ほとんどない。
ドラクエの宿屋みたいにいきなり目が覚めて朝になっているのが日常だ。
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