note小説 三十路のオレ、がん患者 第12回 雨の退院
今、退院の日を思い出しているが、今朝と同じ雨の日だった。
こんな偶然があるものだ。
退院
これで社会復帰できる。
そう思っていた。
いや、もう二度もクビになっている。
しかも正社員で。
派遣切りがどういう言って契約社員の保護がどうこう言われているが、正社員だから安全みたいな論調には片腹が痛くなる。
術後1週間だからという事もあるが。
これからは会社に頼らず、資格を取り、バイトでもいいからそういう会社で経験値を上げて40くらいに独立して雇われるより自分で仕事を創り出していこう。
そういう考えが大きくなっていた。
とにかく帰宅して落ち着いたら資格の勉強を再開しよう。
試験が夏だから終わったら仕事探しに動こう。
今面接を受けても身体が弱いから働けるのかと思われるだけだ。
クビになって病気になって社会から隔絶された。
復帰するには手土産がある方がインパクトある。
2回も正社員でクビになったら次もクビになると疑心暗鬼になる。
信じろという方が無理だ。
入院の手続きも面倒だが、退院の手続きも面倒だ。
混んでる上に会計があるから時間がかかる。
通常は患者本人が支払いをする事はあまりない。
家族がやる事が多い。
母は来ない。
自分が休みの日に退院してほしいと言っていたが、早く帰りたかったので最速の日にしてもらった。
そもそも入院は歩いて来た。
帰りも歩いて帰れるが、雨なのでタクシーで1メーターで帰れる。
ところが、タクシーはガラの悪い商売だ。
1メーターの客には不快感をあからさまに示す。
もっと酷いと、乗車を拒否される。
病院だから他に客がいる確信があるのか、ガラの悪い殿様商売だ。
亡くなった祖母はタクシーに乗ったら自分の指定した経路で行かず、遠回りをされてしまったと言っていた。
全員が全員でないが、蔑まれる充分過ぎる理由がある。
タクシーが乗せては知るのはトラブルの種だ。
さて、どうしよう。
まだ午前中だ。
看護師が部屋に入って来た。
「お父様がお見えです」
オレの父は家を出たきりだ。
だいたいオレが病気で入院している事を知るはずがない。
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